「第28回橋に関するシンポジウム」を2025年8月1日(金)に開催いたします。
詳細は、添付ファイルをご参照ください。
皆様のご参加をお待ちしております。
新着・お知らせ 添付サイズ 第28回橋シンポジウム会告.pdf237.64 KB●はじめに
「土木と学校教育フォーラム」は、道や川、まちといった様々な社会基盤・公共 財を題材とした初等中等教育のあり方を考え、児童・生徒のシティズン・シップ教育に資することをねらいとして全国の土木と学校教育 の双方の専門家と実践者により、種々の研究発表、事例紹介を行う場です。
第17回フォーラムでは,〈「暮らし」を支える「インフラ」の学習〜道路・橋・上下水道・街のメンテナンスと地域の未来〜〉をテーマとして開催いたします。
土木と学校教育会議検討小委員会
●開催日
2025年8月3日(日) 9:00~ 16:45
●開催場所
土木学会(講堂 他)
●実践研究報告(ポスター発表・教材展示)の申し込み ※全体テーマと関連しないものもご発表いただけます
報告内容について、全体テーマとの関連は問いません。「土木と学校教育」に関連するあらゆる内容の報告を受け付けます。
発表申込(〆切7月29日(火)):https://committees.jsce.or.jp/education04/form
※オンライン聴講の方はご発表いただけません
●プログラム(6月23日時点の暫定版でありタイトル等は予告なく変更の可能性があります)
9:00-9:15 はじめに 工藤文三(浦和大学)
9:15-10:15 基調講演(60分)
概要説明:藤井聡(京都大学)
講演:「インフラ老朽化とメンテナンス(仮)」(国土交通省(調整中))
10:15-10:25 (休憩・配置換え10分)
10:25-11:45 模擬授業WS(80分)
「風景街道をテーマとした水俣高校の探究活動-インフラメンテナンス・地域資源活用・まちづくり-」斉藤由依(熊本県立水俣高等学校)・田中尚人(熊本大学)
11:45-12:45 昼休み
12:45-13:45 実践研究報告(ポスター発表/土木を題材にした教材や指導書の紹介・展示)(60分)
13:45-15:00 実践研究報告(25分×3件:発表20分+質疑5分)
「無電柱化(仮)」竹山大輔(幕別町立札内南小学校)
「未来のまちづくり(仮)」鳥海陽一(厚沢部町立厚沢部中学校)
「小さな自然再生(仮)」中村晋一郎(名古屋大学)
15:00-15:10 (休憩・配置換え10分)
15:10-16:30 パネルディスカッション(80分)
〈「暮らし」を支える「インフラ」の学習〜道路・橋・上下水道・街のメンテナンスと地域の未来〜〉
コーディネーター:唐木清志(筑波大学)
登壇者(予定):竹山大輔(幕別町立札内南小学校主幹教諭),斉藤由依(熊本県立水俣高等学校),藤井聡(京都大学),宮川愛由(京都大学経営管理大学院/認定NPO法人ほっかいどう学推進フォーラム)
16:30-16:45 とりまとめ 唐木清志(筑波大学)
●主催・共催・協賛
主催:公益社団法人 土木学会 教育企画・人材育成委員会 土木と学校教育会議検討小委員会
共催(予定):公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団
協賛(予定):一般財団法人 計量計画研究所、一般財団法人 全国建設研修センター、一般社団法人 北海道開発技術センター(順不同)
●その他
〇CPD ポイントについて
・本プログラムは、現地参加のみ、土木学会CPD認定プログラム(申請予定)です。
・オンライン聴講は、CPD対象外です。
●問い合わせ先
京都大学 田中皓介
(土木と学校教育会議検討小委員会 幹事長)
E-mail: tanaka.kosuke.6k(at)kyoto-u.ac.jp
「土木偉人カード」について
土木広報センター土木リテラシー促進グループでは、48人の土木偉人を題材にかるたの形式にした「土木偉人かるた」の続編として、新たに24人の土木偉人をカードにしました。第217回論説・オピニオン(1) AIと共生する未来社会に向けた交通インフラと倫理教育
広島大学 藤原 章正 IDEC国際連携機構
第217回論説・オピニオン(2) USAIDの解体 貧困問題と次世代を担う土木技術者の育成の重要性
論説委員 高橋 秀 日本工営ビジネスパートナーズ(株)
2025年9月に鳥取大学にて開催される第33回地球環境シンポジウムの初日9月24日(水)の本大会終了後に「地球環境シンポジウム 若手(仮)勉強会」を開催します。
今年度は、年齢や立場を忘れてフレッシュな気持ちで議論を行える場を作りたいと思っています。学会初参加の若手等をサポートしつつ、全世代でフラットに議論いただける参加者を募集しております。
【目的】
(1) 学生・研究者の知り合いを増やし、学会の交流・参加体験をより面白いものにする。
(2) 本若手会の枠組みを通して、
学会後も継続的な交流や活動が継続されるようなネットワークをつくる。
勉強会:9月24日17時から18時(予定)
懇親会:18時30分または19時から2時間程度(予定)
詳細は本大会のプログラムが決定後,確定いたします。
勉強会:鳥取大学コミュニティデザインラボ
懇親会:鳥取大学周辺
勉強会費:なし
懇親会費:4000円以下で検討中
問い合わせ先:
東北大学 池本敦哉
E-mail: ikemoto.atsuya.s1★dc.tohoku.ac.jp
※★を@に変更してお送りください。
新着・お知らせ第112代土木学会会長のプロジェクトの1つ「クマジロウの教えてドボコン動画配信」では佐々木葉会長の家族のくまのぬいぐるみ“クマジロウ”が、土木学会のコンシェルジュの“ドボコン”に素朴な質問をします。短い動画で土木学会のしくみや活動をお伝えします。あれ?そうなの?なぜ?と今までのあたりまえを考えるきっかけになるかも。気楽にお楽しみください。
番外編・エピソード10:こんなときどの回をみる?第112第土木学会会長のプロジェクトの1つである「クマジロウの教えてドボコン動画配信」も、いよいよこれで最終回です。そこで、これまで9回に渡って配信してきた動画について、どんな時に見たら良いかを紹介します。今まで、視聴いただき、ありがとうございました!また、どこかで逢えるのを楽しみにしています(クマジロウ、ドボコンより)
これまでのエピソードはこちらのリンクから
https://committees.jsce.or.jp/2024_Presidential_Project/kumajiro
!#会員#全国大会#会長#理事#土木会館#交流名刺#国際交流#ASCE#総会#JSCE#土木学会
新着・お知らせ2024会長PJ-交流の風景プロジェクトクマジロウの教えてドボコン動画配信WG第33回地球環境シンポジウムでは、論文区分を全文査読の研究論文とは別に査読なしの研究報告を募集しています。
この報告は「第33回地球環境シンポジウム講演集」として発刊されます。
(平成25年度まで「B論文」と呼んでいた査読なしの論文は「研究報告」と名称変更しました。)
土木学会の会員・非会員を問わない個人。土木学会内の委員会(およびそれに付随する小委員会等)も投稿できます。
2.原稿提出方法投稿ページ から、下記の内容を記述して投稿して下さい。
(1)発表題目
(2)発表者氏名
(3)所属と連絡先(住所、電話、Email アドレス)
(4)希望の発表形態(ポスター発表か口頭発表か)
(5)発表の分野(地球温暖化、地球環境政策など、2~3のキーワード)
参加申込ページ(7-8月公開予定)からシンポジウムへの参加申込みをしてください。
3.原稿提出期間2025年7月25日(金)14:00 厳守
4.投稿原稿について 5.募集課題(1)地球あるいは地域の環境問題とその解決策
(2)安全・安心な社会を形成するための土木技術・環境科学
(3)水・エネルギー・食糧問題などを克服する持続的な社会づくり・地域との合意形成
(4)気候変動の影響と緩和・適応方策についての取組み
ポスター発表もしくは口頭発表とします
※シンポジウムの会場や日程の都合上、ご希望に添えない場合がございます。
※若手、学生の皆さまを対象に”地球環境シンポジウム優秀ポスター賞”を用意しております。学生の皆さまは原則ポスター発表でお申し込み下さい。
白黒A4判(2350字)で2~6ページ(日本語または英語)とします。
詳細は原稿作成要領を参照ください。
MS-Word形式の論文テンプレートはこちらからダウンロードしてください。
採用決定通知は、7月下旬にメールにて連絡いたします。
提出された原稿を研究報告講演集の原稿とさせていただきます(図の濃淡、文字化け等にご注意ください)。
プログラムが完成次第、発表形態(ポスター・口頭)を連絡いたします。
講演集に掲載された著作物の著作権(著作権法第 27 条、第 28 条に定める権利を含む)は本会に帰属(譲渡)します。
著作者自らが、著作物の全文、または一部を複製・翻訳・翻案などの形で利用する場合、本会は原則として、その利用を妨げません。
ただしインターネットのホームページなどに全文を登載する場合は、本会へ通知しなければなりません。
第三者から、著作物の全文または一部の複製利用(翻訳として利用する場合を含む)の申し込みを受けたときには、本会は特に不適切とみなされる場合を除き、これを許諾することができます。
この場合、本会は著作者に著作物利用の概要を通知します。
共同著作された論文の著作権は、著作がなされた時点で氏名が掲げられた複数の著者に共有されます。
このため著者名の表示変更(著者の順番変更を含む)は認められません。
地球環境委員会では地球環境論文集ならびに地球環境シンポジウム講演集の出版形態の変更に関する議論を行っていましたが、令和5年度第1回地球環境委員会(2023年5月)にて下記の通り決定いたしました。
【お問合せ先】
土木学会地球環境委員会 地球環境委員会宛
Eメール:ck-info★jsce-ml.jp (atを★に変更してください)
このD&Iカフェトークでは、意外と身近にあるこんな働き方、生き方についておしゃべりしています。店主は土木学会でD&Iを考えているチームのメンバーです。
土木に限定せず、でも日頃土木の世界にいる人たちの興味からゲストをお招きして、ラジオ感覚で聴けるトークをお届けします。
根が真面目な土木!なので学会からの申し込みをお願いしていますが、もちろん学会に縁のない方、学生さんなど、どなたでもふらっと、気楽にお立ち寄りください。
D&Iカフェトーク
特別編 第4回 会長特別対談
DEIこそが課題を解決する
異文化のなかで永らく経営トップを務めてこられた
サンドラさんをお招きして、DEIの様々なかたちと
大切さを存分に語ります。
日時 :2025年7月11日(金)17時~18時
ゲスト :サンドラ・ウーさん
株式会社ミライト・ワン特別参与
ESGエグゼクティブアドバイザー
アンカー:佐々木 葉 さん(第112代土木学会会長/早稲田大学)
申込みページはこちら
https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_C3zw19VxSlKlhIqTzT-bHw#/
これまでの開催概要とアーカイブはこちら
新着・お知らせ2024会長PJ-ひろがる仕事の風景プロジェクトD&IカフェトークWG
地球温暖化に伴う気候変動により自然災害の激甚化・頻発化など、国内外で深刻な影響が顕在化している。地球温暖化対策はもはや待ったなしの状況であり、2050年カーボンニュートラル(CN)に向けた取組を加速させる必要がある。
特に、国土・都市・地域空間と、そこで営まれる人々の暮らしや社会経済活動を支えるインフラとこれらのマネジメントは、CNの実現に向けて重要な役割を担っており、土木界は長期的な視点をもって、積極的にCNに貢献していくことが求められている。
このような中、「カーボンニュートラルでレジリエントな社会づくり」に向けて、以下のような取組を行う。
≪カーボンニュートラル≫
以下の観点からの課題解決に向けた検討及び提言を行う。
など
≪災害時のレジリエンス強化≫
・(例)スマートグリッド等の導入における課題解決 など
鋼構造委員会に新設される「道路橋床版の維持管理と設計手法に関する調査研究小委員会」では、委員の募集を行っております。
公募の締切日は2025年7月31日(木)の予定です。
活動目的、期間、内容、応募要件や方法の詳細は、添付ファイルをご参照ください。
皆様のご応募をお待ちしております。
新着・お知らせ 添付サイズ 鋼構造委員会「道路橋床版の維持管理と設計手法に関する調査研究小委員会」委員公募.pdf127.54 KB仕事の風景探訪 事例7(東北支部) 【コミュニティのチカラ】
事業者:松日橋受益者組合
所在地:岩手県気仙郡住田町下有住高瀬地内
取材・執筆・撮影:土木ライター 三上美絵
編集担当:平野勝也(東北大学/仕事の風景探訪プロジェクト・東北支局長)
川が増水したとき、水に抗わずに流れる「流れ橋」。
部材が壊れたり、小枝や枯れ草などが引っかかって洪水を引き起こしたりするのを防ぐ古来の知恵だ。水嵩が元に戻れば、再び架け直して使う。
岩手県沿岸南部の住田町(すみたちょう)を流れる気仙(けせん)川にはかつて、多くの流れ橋が架かっていたという。だが、現在まで残っているのは、松日(まつび)橋ただ一つ。
伝統の灯を守り続ける地元の松日橋受益者組合の金野純一さんと、東日本大震災を機に移住してこの橋に魅せられ、“勝手応援団”を自認する伊藤美希子さん・田畑耕太郎さんに話を聞いた。
流れた橋を架け直す。人力だけ、約3時間で元どおり
4月下旬の土曜日、午前8時半すぎ。集落の人々が徒歩や軽トラックで、三々五々集まってくる。数週間前の雨で流れた松日橋を、自らの手で架け直すのだ。
松日橋は、気仙川左岸の松日地区と右岸の中山地区を結ぶ簡素な木橋。橋長は約40mで、「ザマザ(叉股)」、「桁」、「橋板」で構成されている。釘は1本も使っていない。
「ザマザ」は、木の二股に枝分かれした部分を切り出して作る。二股部分を下にして水中に二つ一組で上下流方向に並べて置き、上部のホゾを「桁」のホゾ穴に差し、楔(くさび)を打ち込む。そうしてできた門型橋脚の上に、長さ10mの杉板4枚を左右が少し重なるように並べて橋とする。
「橋板」の重さと水圧で安定しているため、ふだんの流れではぐらつくこともない。大雨で水嵩が増えると、「橋板」や「桁」が浮き上がってバラバラになり、流れる仕組みだ。あえてホゾ穴を大きめに作り、楔が外れやすくしておくことで、「ザマザ」が残る確率が高まるという。
4月中旬に降った雨で流された状態の松日橋。対岸側の半分が残り、手前側はなくなっている
ワイヤーロープでつながった部材が岸辺に寄せられていた。傷まないように、木をかまして水から上げてある
胴長に身を包んだ男性6〜7人が川へ入っていく。腰まで水に浸かり、まずは「ザマザ」の状態を確認し、流されずに残ったものは位置を調整。破損して使えないものや流されたものは、新しい材に取り替える。
「「ザマザ」にするのは、沢に生えているクルミやヤナギがいんだ、水に強えから。陸(おか)のケヤキなんかでは腐ってしまう」。土手の上で電動ノコギリを使い、「ザマザ」のホゾを彫り出しながらそう教えてくれたのは、松日橋受益者組合の金野純一さんだ。住田町役場のOBで、東日本大震災のときには住田町下有住(しもありす)地区公民館の館長として、地区内に設置された木造仮設住宅団地の支援活動に尽力した。
松日橋受益者組合の金野純一さん。8月4日「橋の日」の野球帽が似合う
川の中にいる人たちが、バラバラになり岸辺に横付けされた「ザマザ」と「橋板」を元の位置まで運ぶ。それぞれの部材はワイヤーで連結され土手の木に繋がれているので、よほどの嵐でない限り、流失してしまうことはない。回収して何度も再利用できるのだ。
杉材でできた「橋板」は長さ10m、厚さは12cmほどある。陸上なら、とうてい一人や二人で持ち上げられる重量ではない。それが、川に浮かべれば楽に運べる。
「そーらっ!よいしょ!」。男たちは掛け声と共に「橋板」を一気に持ち上げ、「桁」の上に載せる。「も少しカミ(上流側)だ。よーし、オッケー!」。陸上で監督する金野さんは、「橋板」の高さや位置を大声で指示し、橋がまっすぐ架かるように導く。昼前には作業が終わり、松日橋は元どおり素朴で美しい姿を取り戻した。
クルミの木が二股になった部分を伐り、「ザマザ」を作る。幹の上部に電動ノコギリでホゾを彫り出す。「ザマザ」用の木は、倉庫にストックしてある
「ザマザ」のホゾを「桁」のホゾ穴に差し込む
厚さ約12cm、長さ約10mの杉板も、浮力を利用すれば楽に運べる
金野さんが陸上から「橋板」の高さや左右のずれをチェックし、川の中の人たちに指示を出す
今回は奥の3枚目と4枚目は流れなかったので、手前の1枚目と2枚目の「橋板」を架けた。
「橋板」を「桁」の上に載せるのが一番力のいる作業。掛け声で力を合わせる
「橋板」は1枚目の右側に2枚目、その左側に3枚目を並べ、4枚目は1枚目と一直線になるように左側に並べる。
この写真は対岸から見たところ。手前の3、4枚目は流れなかった部分だ
松日橋の始まりがいつだったのかは、分かっていない。現地の案内板によると、1698年の元禄絵図には左岸に松日集落と街道、右岸に中山集落や水田が描かれていることから、集落と集落、あるいは集落と水田の往来のために橋があったと考えられるという。
設計図はもちろん、架ける手順を記した書物もない。金野さんも子どもの頃から作業を見て、やがて手伝うようになり、自然に体で覚えていったという。「どう架けると聞かれたち、『いやんびゃ(いい塩梅)に架けんだ』としか言いようがねの」と笑う。
架け直した橋は、2〜3年もつこともあれば、1週間で流れてしまったこともある。「うまく架かったときほど早えんだわ」という人もいた。大変な重労働なのは間違いないが、なんだかみんな楽しそうだ。
渡る人は1日に数人でも、橋がなければ田畑へ行くのに不便だ。それだけではない。流されるたびに「橋架けすっか」と相談し、協力して作業をすることが、地域の絆にもなっていると金野さんは言う。
「自分たちの生活に必要なインフラを自分たちの手で作り、維持管理する。まさしくこれが『土木の原点』でしょう」。この取材を企画した東北大学災害科学国際研究所准教授の平野勝也さんは、撮影に来ていた地元ケーブルテレビのインタビューに、そう答えていた。
SUMITAテレビのインタビューに答える平野准教授
外から来て、松日橋に魅せられた若い人たちもいる。マーケティングプロデュース会社ビーアイシーピー・ハナレの代表を務める伊藤美希子さん、住田町建設課の主査・田畑耕太郎さん夫妻だ。
二人が住田町と関わるようになったのは、東日本大震災後に町が建設した仮設住宅がきっかけだった。直接的な津波被害を免れた住田町は、独自予算で町産材を使った木造仮設住宅を設置し、陸前高田市や大船渡市など沿岸部の被災者を受け入れた。かつて内陸と沿岸を結ぶ宿場町として栄え、物流拠点でもあった住田町は、川や街道でつながるこれらの地域と昔から深い交流があったという。
震災当時、東京の広告代理店に勤めていた伊藤さんは、大学院時代の先輩の後を追いボランティアとして仮設住宅のコミュニティ支援に参加。「仮設住宅へ通う道筋に松日橋があり、いつも美しい橋だなと思って車を停めては見ていました」と振り返る。3年後に、参加していた支援団体「邑(ゆう)サポート」が一般社団法人化すると、理事として伊藤さんの活動はさらに本格化し、住田町へ通う頻度も増えていった。
住田で暮らす田畑さんと結婚してからも別居を続けていたが、コロナ禍を機に伊藤さんが移住。2021年に勤務していた東京のマーケティングプロデュース会社の住田オフィスを開設、2023年に子会社としてビーアイシーピー・ハナレを立ち上げ、現在は地域や行政、地元企業のマーケティング活動支援を行っている。
仮設住宅の支援活動を通じて公民館長だった金野さんと知り合ってからは、SNSでの松日橋の情報発信を手伝うことに。松日橋の四季折々の姿を写真に撮ってアップしたり、橋架けの予定を知らせたりしている。
「松日橋はシンプルで美しいところが好きです。橋架けも、測ったりしないのが逆に効率的だし、ゆるやかなプロセスが寛容で人間らしい。何より、流れ橋を風景として守り続け、誇りに思っている人たちが好き」と伊藤さんは微笑む。
ビーアイシーピー・ハナレ代表の伊藤美希子さん。NPOの活動とマーケティングプロデュース業の“二足のわらじ”で活躍している
一方、建築を専攻する大学院生だった田畑さんは2014年、仮設住宅の入居者が集まることのできる場所をつくろうという研究室のプロジェクトに参加。住田町に通い詰め、翌年には移住して町役場に就職した。
それ以来、人口約5000人の住田町で、役場にただ一人の建築士として公共建築の設計や工事発注、供用後の維持管理、制度設計などを手がけてきた。ほとんど前例のない木造の消防署として建築界の話題を呼んだ「大船渡消防署住田分署」のプロポーザルを実施したのも、田畑さんの仕事だ。地元の人たちの手で昔から受け継がれてきた松日橋にも、個人的に愛着を持っている。
「松日橋は、デザインのお手本だと感じます。ものづくりに携わる人間として、『壊れても直せるもの』を作る精神を常に持っていたい、と思わせてくれる」と話す。
取材当日、伊藤さんと一緒に橋の架け直しを見に来た田畑さんは急遽、助っ人として作業を手伝うことになった。もちろん、初めての経験だ。架橋を終え、川から上がってきたところで「明日は筋肉痛かもしれませんね」と話しかけると、学生時代はラグビー選手だったという田畑さんも「今すでに背中が痛い」と笑った。
流れた松日橋を見る田畑さんと伊藤さん
普(あまね)く請(こ)うと書く「普請(ふしん)」という言葉は、元は仏教用語で、皆で協力して建築や土木の工事を行うことを指した。中国唐代の禅院では、集団による生産労働など一切の行為が互いに協調するなかで、真の自己を究明する修行の意味があったという。日本でも、弘法大師空海が民衆と共に、利他の心をもって満濃池の大工事を成し遂げたのは有名な話。
声を掛け合い、協力しあって繰り返される松日橋の橋普請は、土木の原風景だ。流れては架け直す伝統が、この場所で継承され続けることの意味は大きい。同時に、田畑さんや伊藤さんのような地域外から来た若い世代が、ここで松日橋を含めた地域の在り方を体感し、広く伝えていくことにもまた、大きな可能性が秘められている。
架け直しが完成した松日橋。山あいのまちの風景に素朴な味わいを添えている
新着・お知らせ2024会長PJ-ひろがる仕事の風景プロジェクト仕事の風景探訪WG
公益社団法人土木学会(会長 佐々木葉)の土木計画学研究委員会は2022年度より「国土強靱化定量的脆弱性評価委員会(小委員長 藤井聡)」という土木計画学研究委員会内の小委員会を設置しています。この小委員会は、首都直下地震や三大港湾の巨大高潮、全国の河川における巨大洪水が生じた場合にどれだけの経済被害を受けるのかを推計する(こういう評価を「脆弱性評価」と呼称します)と同時に、それらに対する防災インフラ投資がどれほどの減災効果を持つのかを、最新のデータと技術を用いて「定量的」に評価・推計する研究を進めました。
本小委員会では昨年、2018年に土木学会・平成 29 年度会⻑特別委員会レジリエンス確保に関する技術検討委員会(委員長 中村英夫)が公表した『「国難」をもたらす 巨大災害対策についての 技術検討報告書』での評価技術に基づく首都直下地震で1000兆円超の被害等の被害推計値を「中間報告」として公表しましたが、本年はその中間報告では計算が完了していなかった南海トラフ地震の被害推計値を含めた「最終報告書」を公表します。また、昨年は物価上昇の影響を加味していない被害推計値を首都直下地震について公表していましたが、本年はそれについても近年の物価上昇の影響を加味した値を公表します。
詳細は 国土強靱化定量的脆弱性評価委員会HP をご確認ください。
新着・お知らせこのD&Iカフェトークでは、意外と身近にあるこんな働き方、生き方についておしゃべりしています。店主は土木学会でD&Iを考えているチームのメンバーです。
土木に限定せず、でも日頃土木の世界にいる人たちの興味からゲストをお招きして、ラジオ感覚で聴けるトークをお届けします。
根が真面目な土木!なので学会からの申し込みをお願いしていますが、もちろん学会に縁のない方、学生さんなど、どなたでもふらっと、気楽にお立ち寄りください。
D&Iカフェトーク
特別編 第3回 会長特別対談
大きな学会と小さな学会 ー両方からみえてくること
中高は女子校で、大学はほぼ男子校。
そこから歩んできた道や、現在会長を務める農村計画学会という
規模の小さな学会の特徴を伺いながら、
大規模な学会のあり方を改めて見つめてみます。
日時 :2025年6月20日(金)17時~18時
ゲスト :斎尾 直子さん
(第22期農村計画学会会長)
https://rural-planning.jp/
アンカー:佐々木 葉 さん(第112代土木学会会長/早稲田大学)
申込みページはこちら
https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_Q1SV4EKkQyqm2LalJ3ZhYw#/
これまでの開催概要とアーカイブはこちら
新着・お知らせ2024会長PJ-ひろがる仕事の風景プロジェクトD&IカフェトークWG
【支部名】東北支部
【事例キーワード】①技術のチカラ、 ②デザインのチカラ、 ③自然のチカラ、 ④コミュニティのチカラ、 ⑤記憶のチカラ
東北支局担当の平野勝也(東北大学)です。ようやく東北の「仕事の風景探訪」を紹介できることになりました。土木マニアの中では、知る人ぞ知る「松日橋(まつびばし)」です。岩手県の沿岸部の少し内陸にある山間の素敵な林業の町、住田町に松日橋はあります。松日橋は住民の手で架けられ、流されてもまた、住民の手で架け直され続けてきた、まさに土木の原点とも言える橋です。
住田町役場の田畑さんにご尽力いただき、さあ取材!と言う1週間前に、「松日橋流れちゃいました」とのお知らせ。もともと、取材に合わせてザマザ(さてこれはなんでしょう?記事本文をお楽しみに)を採る作業するので、それを記事にしてくださいと言うありがたいお話だったのですが、せっかく行っても橋はない。正直、残念。とはいえ、逆に橋が無い姿も流れ橋の醍醐味。気を取り直して、取材を楽しみにしていたところ、なんと前日に、明日、川の水量次第で架け直しをするかもしれないとのお知らせ。持ってます!まさに橋の架け直しを取材させていただけました。
平野は高田松原津波復興祈念公園のデザインをお手伝いしていたこともあり、陸前高田市にはそれなりの頻度で訪れていて、隣町の住田町に松日橋があるというのは知っていたのですが、なかなか昼間に訪れる機会がなく、月夜に浮かぶ幻想的な松日橋しか見たことがありませんでした。ぜひ昼間にちゃんと見たいと思い続けて幾年。念願の昼間初訪問させていただき、しかも、架橋そのものを拝見することができました。自分もお手伝いできるように胴長を持って行くべきだったと反省しつつも、やっぱり土木っていいなと。そして、みんなのために橋を架ける皆さんの楽しそうな姿に、土木屋の根源的な喜びを感じた次第です。
今回のライターも、 「かわいい土木見つけ旅」でお馴染みの土木ライターの三上美絵さんです。さすがライターさんと言う記事に纏めてくださっています。ぜひご一読を!
写真 月夜の松日橋
写真 住田町にはこんな素敵な水路橋もあります
第121回土木学会イブニングシアター(2025年5月14日開催)でのCPD単位登録処理に誤りがあり、本来1.7単位のところ1.5単位しか登録されていない方がおられることが分かりました。
以下の方が該当者になります。
該当者の中でご自身で単位を修正されていない方につきましてはシステムより正しい単位(1.7単位)に修正させていただきました。
この度はご迷惑をおかけし誠に申し訳ございませんでした。
新着・お知らせ土木学会土木技術映像委員会は、令和7年5月14日(水)、土木学会本部講堂にて第121回イブニングシアターを開催し、特集『アニメ✕土木』として、「夢は世界をかけめぐる-海外技術協力のパイオニア-」、「未来に向けて~防災を考える~」の二作品を上映し、会場は、ほぼ満席となりました。
上映前には、虫プロダクションで「夢は世界をかけめぐる-海外技術協力のパイオニア-」の企画・脚本を担当された緒方英樹様にご講演いただき、当初は絵本から始まり、その後、アニメへと発展することで、アニメが土木の醍醐味等を伝えるツールとして適していること、および、アニメの持つ力、影響力についても語っていただきました。
上映した二作品は、内容に物語性もあり、最後まで熱心にご視聴頂けたかと思います。
今回も多くの方々のご来場、ありがとうございました。
次回イブニングシアターは8月に開催予定です。詳細は決まり次第、当委員会サイトおよび、メールにてご案内いたします。
新着・お知らせ仕事の風景探訪:事例6(四国支部)【技術のチカラ】【コミュニティのチカラ】【記憶のチカラ】
事業者:新居浜市(当初の建設は住友各企業)
所在地:愛媛県新居浜市角野新田町
取材・執筆:ライター 大井智子
取材担当:白柳洋俊(愛媛大学/仕事の風景探訪プロジェクト・四国支局長)
グラウンドに足を踏み入れると、壮大な石積みの構造物が目の前に広がった。愛媛県新居浜市にある「山根グラウンド」の観覧席だ。明治時代に稼働していた別子銅山の製錬所跡地に、1928(昭和3)年に完成した。施工会社ではなく、住友の社員が休日を返上し「作務(さむ)」といわれる労働奉仕により整備されたというから驚きだ。
遠くから見上げると、まるで段々畑を縮めたような眺めだ。生子山(しょうじやま)の斜面に沿ってつくられた観覧席の収容人数は3万人以上といわれている。当初のグラウンドは住友各社対抗の運動会などに利用され、現在は山根公園内の施設として新居浜市が管理し、現役の観覧席として広く市民に使われている。100年近く経過したいまも、ほぼ当時の姿を残している。
階段状の石段は最大で27段。東西方向の延長は最長約120mあり、西側が緩やかに湾曲している。南北方向の奥行きは約30m。石積みは、生子山の斜面の擁壁も兼ねている。
石段は最大で27段ある(写真:白柳 洋俊)
石積みは石同士を組み合わせて固定する空石積み。段ごとに傾斜を設けて積む矢羽根積みとなっていた(写真:大井 智子)
石積みに使われたのは、敷地西側を流れる国領川の角が丸い川原石だ。段ごとに交互に傾斜を設けながら石を積む矢羽根積みで、モルタルなどで目地を固定しない空石積みとなっている。
観覧席の上は、意外と踏み面が広い。場所によって幅員は異なるが、広いところは2m近くありそうだ。市民がお祭りなどを観覧する際は、数家族がゆったり座れる幅があるという。踏み面の表面は土で草が生えており、公園整備の際にモルタルによって固められた箇所もある。
石の形や大きさは一律ではなく、エリアごとに積み方が微妙に違っている印象だ。施工した社員の組ごとに個性が現れているのだろうか。
石の積み方は場所によって施工した人たちの個性が現れている印象を受けた(写真:白柳 洋俊)
踏み面の幅員は意外と広い。西側は緩やかに湾曲している(写真:白柳 洋俊)
新居浜市は、住友の別子銅山を中心に形成された企業城下町だ。グラウンドと観覧席は、昭和初期に住友別子鉱山株式会社の最高責任者を務めた鷲尾勘解治(わしおかげじ)が提唱した「地方後栄策」の一環として整備された。
それにしてもこの広大な観覧席は、どのような経緯でつくられたのだろう──さっそく山根公園を管理する新居浜市役所を訪れて、誕生までのいきさつを聞いた。
斜面地に残された土留めの石積み別子山村(べっしやまむら、現・新居浜市)の山の中で、住友が別子銅山を開坑したのは1691(元禄4)年のことだ。
鉱脈が深くなるにつれて採鉱本部も移転し、1916(大正5)年に東平(とうなる、現・新居浜市)、1930(昭和5)年に端出場(はでば、現・新居浜市)と徐々に山を下りてきた。1973(昭和48)年に閉坑するまでの約300年間、住友による鉱業活動の中で培われてきたのが、石積みの文化だという。
「彼らは平地のない山の中の谷筋を、自分たちで開拓してきました。斜面地を切り土や盛り土で造成し、石積みで土留めして平らな土地を作り、事務所や社宅、学校などを建設したのです。そうした石積み文化のDNAが住友各企業社員の中に代々受け継がれてきたのでしょう」。新居浜市の企画部別子銅山文化遺産課別子銅山産業遺産統括参事の秦野親史さんはこう話し、1枚の航空写真を見せてくれた。
写っていたのは、段々畑のようにびっしりと続く石積み群。かつて、この場所に社宅が並んでいたことを教えてくれる。2023(令和5)年12月、東平地区で大阪・関西万博の「住友館」建設用に大規模に樹木が伐採された時に、山の斜面に呉木住宅の石積みの遺構が現れたのだという。
樹木が伐採された後、東平の斜面地の社宅跡に土留めの石積みが現れた(写真提供:新居浜市)
明治時代に開拓された東平の斜面地。社宅や学校、事務所などが立っていた(写真:原 茂夫)
新居浜市の別子銅山文化遺産課課長の土岐幸司さんは次のように話す。「住友別子鉱山の鷲尾勘解治は、鉱石を掘り尽くした後も新居浜が発展するように様々な都市基盤整備を実施しました。鉱業から工業への移行を見越し、海岸沿いに埋立地を造るなどのインフラ整備のほか、銅山なき後の都市計画を提唱したのです」
山根グラウンドと観覧席も福利厚生施設の一つとして建設された。閉山後、住友の協力のもと、1986(昭和61)年、昭和天皇の在位60年を記念して計画された健康運動公園として、グラウンド(観覧席を含む)と社宅跡を新居浜市が整備した。2009(平成21)年には「山根競技場観覧席」として国の有形文化財に登録されている。
昭和、平成、令和時代と1世紀近く存続できた理由社員がボランティアでつくった石積みの観覧席が、なぜ1世紀近くも当時の姿をとどめて現存できたのだろう──そんな疑問に土岐さんは、「完成当初からずっと現役で使われ続けてきたからではないでしょうか」と答えてくれた。
もともとこの場所には1888(明治21)年から1895(明治28)年までの8年間、山根製錬所があった。当時の産業遺構として唯一残るのが、生子山山頂の「旧山根製錬所煙突」だ。グラウンドを含めた周辺一帯は、赤レンガの煙突があることから、「えんとつ山」の愛称で市民に親しまれてきたという。市民活動も盛んで、任意団体の「えんとつ山倶楽部」が山道を整備したり、イベントを企画したりと、積極的に活動している。グラウンドや観覧席もえんとつ山と一緒に、日常の身近な存在として市民に愛されてきたようだ。
観覧席の上に見えるのは大山積神社。生子山の山頂に見えるのが「旧山根製錬所煙突」(写真:大井 智子)
山根グラウンドの観覧席が、大きな存在としてスポットライトを浴びるのが毎年10月に開催される「新居浜太鼓祭り」の時だという。地区ごとに豪華に装飾した太鼓台を約150~200人の男性が担いで競うお祭りで、「特に10月17日は『上部地区山根グランド統一寄せ』として山根グラウンドに20台ほどの太鼓台が集結します。その様子を見ようと、全国から集まった人たちが観覧席をびっしりと埋めるのです」。こう熱く語るのは、新居浜市建設部都市計画課技幹の庄野仁規さん。スマートフォンからとっておきの写真を見せてくれた。
すごい。米粒みたいな人、人、人で観覧席が埋まっている。確かに、収容人数とされる3万人は集まっていそうだ。
市政80年を記念して夜間開催された年の、「新居浜太鼓祭り『上部地区山根グランド統一寄せ』」。
観覧席が多くの人で埋め尽くされた(写真:庄野 仁規)
2024(令和6)年の「上部地区山根グランド統一寄せ」の様子(写真:庄野 仁規)
お祭り以外でも、グラウンドは地域の運動会や野球、グランドゴルフなどに使われるという。つい先日は、桜の花見客で観覧席がにぎわっていたようだ。
桜の満開時期は、花見客で観覧席がにぎわう(写真:白柳 洋俊)
それにしても、これだけ大規模な空積みの石積みが原型をとどめているのは、構造面に何か秘密があるのだろうか──。
秦野さんによると、「これまで石積みが大きく崩れたことはなく、2001年に安芸灘で発生した芸予地震でも大きな被害は発生しなかった」という。「1つの段の踏み面が広く、奥行きが長いことや、勾配などと関係があるのかもしれないですね」と推察する。
庄野さんは、「どれだけ土を盛っているのか、背面の土量によってかかる土圧は大きく変わってくるはずです。ただ空石積みなので、構造計算で検討することはできません。すべて経験則で積んだのでしょう」という。
普段は鉱山に従事する一般社員が、石工顔負けの施工技術を備えていたとは──
取材当日、新居浜市役所の職員の方々が集まって話を聞かせてくれた(写真:白柳 洋俊)
土岐さんは、資料を広げて別子銅山の変遷について説明してくれた(写真:大井 智子)
天皇陛下御在位六十年記念健康運動公園の指定を受け新居浜市で改修工事を実施した。
現地に移動して観覧席を見学すると、改修の足跡を見ることができた。石積みの間からは、水抜き用のパイプが顔をのぞかせていた。また、観覧席は大きく上部と下部に分かれ、間に幅員の広い通路があるが、そのすぐ下の段に、排水溝とその蓋のグレーチングが横断方向に延びていた。
写真上から2段目の石積みに、水抜き用のパイプが挟まれていた(写真:大井 智子)
石積みの上部と下部の間にモルタルで舗装された通路が配置する。
すぐ下の段に排水溝とグレーチングが横断方向に延びていた(写真:大井 智子)
建設当初の観覧席は今よりも席数が多く、北西面を除き馬蹄形にぐるりとグラウンドを囲む形をしていたという。「おそらく体育館を建設する際、グラウンドとの間にある観覧席を撤去したものと思われます」(庄野さん)。
創建当初は、写真右側に見える体育館とグラウンドの間に、観覧席が続いていた(写真:大井 智子)
見学する我々の誰よりも“長寿”な石積みを眺めているうち、様々な想像がふくらんできた。共に取材に臨んだ愛媛大学の大学院理工学研究科准教授の白柳洋俊さんは、「もしかすると、創建当時は上部と下部の観覧席を隔てる通路はなく、上から下まで石積みが連続していたのではないでしょうか」と目を輝かせる。
あとから1段分を取り除いて擁壁を補強し、さらに使い勝手がいいように広幅員の通路を整備したのだろうか。有力な証拠として白柳さんが示すのが、上部の一段目の石積みだ。ほかの段に比べると蹴上げ部分がはるかに高い。もしかするとそうかもしれない……。
だが残念なことに、観覧席の詳しい資料や図面はほぼ残っていない。じっとたたずむ石積み群は、静かに我々のロマンをかきたてていった。
通路右側に見える上部の観覧席の一段目は、ここだけ石積みが高く積まれていた(写真:大井 智子)
この堅牢な観覧席を背に送り出した、住友各企業の社員による勤労奉仕について知るために、次に、グラウンドに隣接する「別子銅山記念館」を訪ねた。
別子銅山が閉山した2年後の1975(昭和50)年に建設された記念館で、住友グループ発展の原点を伝える様々な資料を展示している。
別子銅山記念館で館長の神野和彦さんと主任の秋山将さんに話を聞いた(写真:白柳 洋俊)
別子銅山記念館で館長を務める神野和彦さんは、「元禄時代から採鉱を続けてきた住友は、300年以上にわたってこの地域にお世話になってきました。いずれ山の鉱脈が尽きた時、町が衰退せず今後も発展し続けるよう、鷲尾勘解治は様々な対策を講じてきたのです」と説明する。新居浜市職員の土岐さんの話にも出てきた通りだ。
鷲尾勘解治は、当時、無尽蔵と思われていた鉱脈について、昭和初期に厳格な鉱量調査を実施した。その結果、「約20年後に鉱脈が尽きる」という結論に達し、これを公表。新たに工業都市として新居浜が発展するために、新居浜港の築港と海岸部の埋め立てや、都市計画道路の整備に着手した。さらに、従業員が快適に生活できるように、山根製錬所の跡地に住宅を新設し、「山根グラウンド」などの福利厚生施設を充実させた。
もともと鷲尾勘解治は高校・大学時代に寺で禅宗の修行を積んでいた。住友本店に入社し別子鉱業所勤務になってからは、まずは現場を知る必要があると考えて、3年間身分を隠して一坑夫として坑内労働を体験したというから、すごい。
別子鉱業所支配人を経て住友別子鉱山専務取締役に上り詰めた鷲尾勘解治は、常に労働者と地元の人たちの福祉に心を砕き、会社と地元の共存共栄に向けて事業の経営に当たったという。「住友の理念として受け継がれているのが、『自利利他公私一如』という言葉です。住友を利するとともに、国家や社会を利するという考えです。公私は相反するものではなく、一つのものという意味です」(神野館長)。
昭和初期の山根グラウンド。新居浜の住友連系各社従業員で組織する「住友予州親友会」の大運動会が、毎年11月に開催されていた(写真提供:別子銅山記念館)
観覧席の上段には別子銅山の守護神の「大山積神社」が、採鉱本部の移転と同時に遷宮されている。祭事の際は、社員が力士を務める奉納相撲が行われていた。若かりし第24代式守伊之助が行司を務めたこともある。現在、別子銅山記念館が建つ場所に、以前は大きな土俵があったという。さらに別子銅山記念館の裏手には、相撲を楽しむための観覧席がいまも一部、残っている。山根グラウンドの観覧席と同じ石積みだ。
別子銅山記念館の裏手に、相撲を観戦するための石積みの観覧席(写真正面奥)が残っていた(写真:白柳 洋俊)
住友各企業の社員は、山根グラウンドや観覧席だけでなく、これら大山積神社の敷地や相撲場も全てつくりあげたという。別子銅山記念館で主任を務める秋山将さんは、「当時は重機などありません。まず土地の整地から作業を始め、さらにトロッコ用の軌道をつくり、近くの国領川から川原石を集めてトロッコで運び、人力で石積みの観覧席をつくったのです」と話す。
今も住友グループの各企業の社員は研修として、別子銅山記念館で歴史を学んだあと、当初の鉱山本部やまちの遺構が残る山の中を登山するという。登山道は冬の間は閉ざされ、春の点検で石積みが雪で崩れていると補修したりする。「最初に掘られた重要な坑口が一部崩れていた時は、大きく改変しないように昔の絵などを参照しながら2001年に補修しています」(神野館長)。
ちなみに、新居浜市の小学生はふるさと学習で鉱山の歴史を学び、中学生になると旧別子山村を目指して登山するという。また、えんとつ山近くにある愛媛県立新居浜南高等学校では、ユネスコ部が別子銅山の近代化産業遺産をテーマに25年以上にわたって調査、研究を続けているという。教員現場でも企業城下町としての成り立ちを学ぶ取り組みが続いている。
劇場の跡。基礎となる擁壁が城壁のように積み上げられている(写真提供:別子銅山記念館)
採鉱課長の住宅跡の石積み(写真提供:別子銅山記念館)
測候所の跡地にも石積みが残る(写真提供:別子銅山記念館)
新居浜市役所で土岐さんに聞いたように、採鉱本部の拠点は大きく2回移転した。「鉱山は山の中で掘るので、最初は町づくりから始まります。動物たちが棲む狭い谷筋で斜面を切り開いて、事務所や採鉱場、製錬所、住居を建て、さらに学校、病院を建設して町ができていくのです」(神野館長)。まちづくりと同時に、産出した銅を山の中から運ぶための鉱山鉄道や道路なども徐々に整えられていった。
秋山さんは、「当時の人たちは機械がないので何をするにも手づくりでした。今でいう日曜大工で手先も器用でした」という。自宅をつくるのに、山の中で崩れないように石垣を積み、修理も補強も自分でやる。「日常が作業です。そもそも山の中での採掘は暗闇の中を手作業で掘っていくので、手先が器用でないとできません」(秋山さん)。
それら住居や娯楽施設としての劇場の跡は山の中に現在も残っている。「まるでお城の城壁です」と秋山さん。山の中の石積みは、伊予の青石と呼ばれる「緑色片岩」が多く使われた。割れると板状になる石で、地元で多く産出されるものだ。
これらの手作業が集結し、技術の粋を集めてつくられたのが山根グラウンドの観覧席というわけだ。まさに、別子銅山の歴史の中で300年かけて築き上げてきた、石積み文化の集大成だといえる。
意気込む我々に、秋山さんは、「石積みの観覧席をつくったというよりも、まずはグラウンドをつくることが目的だったのでしょう。観覧席は、グラウンドでの競技を楽しむ場所としてつくったのですね。木は腐るので、素材に石を選んだ。木であれば朽ち果てて、観覧席は現在まで残ってなかったかもしれません」と、感慨深げに話す。
小学校にも線路跡にも観光地にも石積みが山根グラウンドと国領川を挟んで200mほど西側にも、同じような石積みの観覧席があると聞き、さっそく市職員の人たちと現場に向かった。
新居浜市立角野小学校のグランドに面して、観覧席は学校の敷地外にそびえていた。山根グラウンドよりも規模は小さいが、同じように丸い川原石が積まれている。角野小学校の卒業生でもある新居浜市役所の庄野さんは、「運動会やお祭り集会として太鼓台が小学校のグラウンドに入る時など、観覧席として使われています」と話す。
新居浜市立角野小学校のグラウンドの奥にも石積みの観覧席があった(写真:白柳 洋俊)
草が生い茂っているが、山根グラウンドと同じような石積みだ。小学校の敷地外にありグラウンドとは柵で仕切られている(写真:大井 智子)
庄野さんは、「新居浜市では、深い山の中でも、多くの人でにぎわう観光地でも、本当に各地で石積みを目にします」という。現在は廃線となった旧別子鉱山鉄道の軌道にも石垣があり、採鉱本部の跡地を活用した観光地「マイントピア別子」にも多くの石積みが残っている。
マイントピア別子の端出場エリアにある旧端出場水力発電所に残る石積み(写真提供:新居浜市)
マイントピア別子の東平エリアにある産業遺構。レンガの石積みの遺構は、東洋のマチュピチュと称される(写真提供:新居浜市)
「有名な近代化産業遺産にも多くの石積みが残っているので、今回の取材で山根グラウンドの観覧席がフォーカスされるとは、実は思っていませんでした」とはにかみながら打ち明ける。
幼いころの庄野さんにとって観覧席は、「当たり前のように存在する日常の遊び場でした。段々の石積みで鬼ごっこをしたり、散歩したり。グラウンドで野球の試合があれば、観覧席に座ってご飯を食べたりしました」と懐かしむ。
角野小学校の観覧席を一緒に見学した新居浜市建設部都市計画課副課長の三並真由美さんは、「新居浜市は住友各企業によって町が発展してきました」とまちづくりについて話してくれた。
新居浜では、まず山の中に町ができてインフラが整備された。別子銅山の中心拠点が山を下りて本格的な港が整備されると、海岸沿いに商店街が栄え、さらに道路や鉄道が充実していく。「一般的なまちづくりでは鉄道駅を起点に整備されて発展するケースが多いですが、新居浜は違いました。居住地などの拠点をつなげていくクラスター型コンパクトシティのような整備手法は、今後の人口減少社会に向けたまちづくりの大きな参考になると思っています」(三並さん)。
将来に向かって観覧席を継承していくためには、大きな課題もある。
庄野さんは、「石積みが崩れた時に直せるような石工職人が、いまはいないことです」と打ち明ける。普通の石積みであっても施工できる職人はほとんどいないという。材料も、同じような石を調達することは難しい。これまで石積みが大きく崩れたことはないが、何かで外れた石を見つけた時は保管しておき、一部、崩れたところに使うなど工夫している。
最後に庄野さんは、「市民にとっては親しみ深く、日常の生活に寄り添う大切な場所です。300年の石積み文化を伝える観覧席として、今後もできる限り維持していきたいと思っています」と力強く語ってくれた。
観覧席の全景(写真:白柳 洋俊)
夕方になると野球を楽しむ少年たちがグラウンドに集まってきた(写真:大井 智子)
散歩を楽しむ人や、犬を連れた人を多く見かけた(写真:大井 智子)
石積みには、隣接する国領川の川原石が使われた(写真:大井 智子)
階段の上に見えるのが大山積神社。太鼓祭りの時は群衆による自重がかかり過ぎないように神社境内の入場を規制するという。取材には愛媛大学の学生が協力してくれた(写真:大井 智子)
【支部名】四国支部
【事例キーワード】
①技術のチカラ、 ②デザインのチカラ、 ③自然のチカラ、 ④コミュニティのチカラ、 ⑤記憶のチカラ
四国支局長を務めています愛媛大学の白柳洋俊です。今回は、愛媛県新居浜市にある石積みの観覧席「山根グラウンド観覧席」についてご紹介します。
山根グラウンド観覧席は、1928(昭和3)年に住友の鉱山職員たちが勤労奉仕というかたちで手作業により築き上げた施設です。最大27段、延長約120m、約3万人を収容できる壮大な構造物は、100年近く経った今も現役で使われ続けています。その背景には、企業城下町としての新居浜市を支えてきた住友の、別子銅山を通じて受け継がれてきた技術力や、地域とともに歩む姿勢が息づいています。
取材に訪れた日も、観覧席では愛犬と散歩する市民の姿や、グラウンドでは元気にキャッチボールする子どもたちの姿が見られました。こうした日常の風景こそが、この観覧席が長く愛され、大切にされてきた理由の一つなのだと感じました。
本記事は、ライターの大井智子さんが執筆しています。丁寧に現地を歩き、石積みに宿る記憶や、そこに息づく人々の暮らしをあたたかな眼差しで綴って下さいました。読み進めるうちに、山根グラウンドがなぜ、どうしてつくられたのか——そんな背景が、まるで謎解きのように少しずつ明らかになっていきます。ぜひ、ご覧ください。
写真1 地域最大の祭り新居浜太鼓祭りの舞台にもなります(写真提供:新居浜市)
写真2 昭和初期の山根グラウンドの様子(写真提供:別子銅山記念館)
新着・お知らせ2024会長PJ-ひろがる仕事の風景プロジェクト仕事の風景探訪WG開催日時:2025年9月8日(月)、9日(火)
参加方法:オンライン(Zoomウェビナー)
CPD受講証明書を必要とされる方は、CPDページより事前の参加登録(※準備中)を行ってください。
参加登録しなければCPD受講証明書が発行できませんのでご注意ください。CPD受講証明書を希望されない場合、参加登録は不要です。
開催日時になりましたら各研究討論会の配信URL(※後日掲載)にアクセスし、ウェビナーIDとパスコードを入力してご視聴ください。
後日の配信はありません。
以下のタイムスケジュールのタイトルをクリックいただくと各研究討論会の開催概要をご覧いただけます。
≪タイムスケジュール≫
■9/8(月)研究討論会1日目 オンライン(Zoomウェビナー ※Zoomウェビナーへの同時接続数が500名までとなります)
10:00~12:00
研究討論会(1) 木材工学委員会
研究討論会(2) 2024年度会長プロジェクト土木学会の風景を描く委員会
研究討論会(3)建設マネジメント委員会
『明日誰かに伝えたい「ウェルビーイングな土木業界のためにできること」』
研究討論会(4)新技術適用推進小委員会
『インフラメンテナンスにおける新技術導入の成功の秘訣とは?』
13:00~15:00研究討論会(5) 構造工学委員会若手構造技術者連絡小委員会
研究討論会(6) 地下空間研究委員会維持管理小委員会
研究討論会(7)エネルギー委員会
『除去土壌等の中間貯蔵から今後の最終処分に向けての技術的課題』
研究討論会(8) 地震工学委員会
『2023年トルコ南東部・カフラマンマラシュ地震災害の調査報告』
15:30~17:30
研究討論会(9)原子力土木委員会
『数値解析のV&Vの現状と原子力施設の安全性評価における活用』
研究討論会(10) 建設技術研究委員会
研究討論会(11)複合構造委員会
『弾性合成桁設計法の確立に向けて -床版取替え工事の救世主!-』
研究討論会(12) 土木情報学委員会 三次元モデルを活用した生産性向上研究小委員会
■9/9(火)研究討論会2日目 オンライン(Zoomウェビナー ※Zoomウェビナーへの同時接続数が500名までとなります)
10:00~12:00
研究討論会(13)
『GXにおけるCN騒動と地方問題との乖離の本質:持続可能の視点から 』
研究討論会(14) 土木計画学研究委員会
研究討論会(15) 環境システム委員会
『ネイチャーポジティブな社会づくりに向けた統合的アプローチ』
研究討論会(16) 岩盤力学委員会 岩盤連成現象研究小委員会
『日本における地層処分・地熱開発・CCSの現状と岩盤連成解析』
13:00~15:00
研究討論会(17) インフラ体力診断小委員会
研究討論会(18) 企画委員会
研究討論会(19) コンサルタント委員会 市民合意形成小委員会
研究討論会(20) 鋼構造委員会
15:30~17:30
研究討論会(21) ダイバーシティ・アンド・インクルージョン推進委員会
研究討論会(22) 地盤工学委員会 斜面工学小委員会
『経験のない気象の常態化による宅地斜面防災に関する調査研究』
研究討論会(23) 地球環境委員会
『気候変動適応と地域課題解決の同時達成に向けた熊本WGの挑戦』
研究討論会(24) インフラメンテナンス総合委員会 知の体系化小委員会
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