平成24年度出版文化賞は
の二作品に決定いたしました。
The Sustainable Use of Concrete堺 孝司 野口 貴文CRC Press 2012年 |
堺 孝司 |
野口 貴文 |
【受賞理由】
コンクリートは,建設材料として社会インフラ構造物の構築に欠かせない有用な材料であるが, 同時に,その生産には多量のCO2を排出し環境負荷が大きい側面も有している。21世紀において持続可能性は人類の重要な課題であり,代替材料がない現状では,コンクリートの持続可能な利用もまた大きな課題である。
著者らは,コンクリート技術者や研究者の多くが技術開発等に偏重しており,持続可能性への理解が不十分であることに警鐘を鳴らすとともに,コンクリートの有用面と環境負荷面とのジレンマに取り組んでよく問題提起している。また,ケーススタディも豊富で過度に専門的になることを避け,実務者や環境問題に関心のある者にとっても有用な書としている。
惜しむらくは校正が不十分であり,図と本文が一致していない箇所が見受けられる点が悔やまれる。しかしながら,持続可能なコンクリート建設に向かうためのガイドラインを提示し,先端技術と将来の方向を明確に示した先導書でもある本書の価値は高い。また,英文による海外からの出版により,我が国の本分野における研究および実務レベルの高さを世界に発信していることは高く評価される。
よって,ここに土木学会出版文化賞を贈呈する。
ヴァンソン 藤井 由実学芸出版社 2011年 |
ヴァンソン 藤井 由実 |
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【受賞理由】
ストラスブールは日本の多くの都市と同様に車社会であったが、この30年でトラムの整備や道路交通施策を中心として環境先進都市となり、日本のみならず世界中から視察が絶えない都市となった。本書ではこのストラスブールのまちづくりを紹介している。
著者は30年におよぶフランス滞在中に、数多くの日本からの視察者を受け入れ、通訳として活動していた。そうした中で著者に蓄積され体系化された情報をもとに、各種の報告書や歴代の市長や行政マンへのインタビューなどの綿密な調査を実施し、さらにまちの歴史や市民意識、財政、政治、文化、技術、経済など、まちづくりにとって重要ではあるが視察に訪れただけでは理解し得ない情報を、実体験を踏まえて盛り込み、ストラスブールの成功の軌跡を総合的に書き記している。
土木計画学を社会に活かし都市を魅力的なものにしていく経緯は、まちづくりの専門家に将来への展望を与えるものであると同時に、まちづくりが総合的な取り組みであることを示唆している。
また、まちづくりに関心の高い市民の方々に対しては、車社会から脱却し賑わいのある中心市街地をつくるための土木計画の重要性をメッセージとして発信している。
以上により本書を高く評価し、土木学会出版文化賞を贈呈する。