平成25年度土木学会出版文化賞は以下の3作品に決定いたしました。
詳細は以下をご覧ください。
水危機 ほんとうの話
沖 大幹
新潮社 2012年
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沖 大幹 |
【授賞理由】
今世紀は「水の世紀」と呼ばれるように、水問題は世界的な環境を考える上で重要な課題であることは水の専門家ばかりでなく、広く一般の方にも認識されている。本書では著者の専門である水文学的な視点を通して地球をめぐる水と水をめぐる人間との関わりについて専門外の読者にもわかりやすく述べている。
著者は一貫して水文学を専門として研究・教育を行ってきている。その間、気象学にも関連する雨の観測や大気と陸域をつなぐグローバルな水循環、さらには世界の水資源需給等に関する研究を精力的に推進し、この研究分野を世界的にリードしてきた。これらの研究を通して得られた最新の成果も織り交ぜながら、水問題を様々な側面から議論し、その本質を明確に指摘している.また、専門家ばかりでなく一般読者にも分かりやすくするために式などは用いずに平易に書かれており、水にかかわる誤解なども明らかにされている。
人間活動を支えている水に関して一般市民の関心も高まってきているなか、その水に関して資源や食糧,農業,工業,環境,災害等の様々な視点から幅広く体系立てて解説されており、広く一般読者への水問題の理解に貢献している点は高く評価できる。
よって、ここに土木学会出版文化賞を贈呈する。
東日本大震災の科学
佐竹健治・堀 宗朗 編
東京大学出版会 2012年
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【授賞理由】
本書は、東京大学の地震研究所、工学研究科および情報学環の教員8名が、東日本大震災に関する研究結果を基に行った東京大学・全学自由研究ゼミナールの内容をまとめたものである。
東日本大震災の発生から2年近くが経ち、その実態が明らかになりつつある。本書では、マグニチュード9という地震と大津波の発生メカニズムと予測について科学的に迫るとともに、避難行動の実態と防災教育、災害情報の収集、低頻度大災害の社会経済への影響、巨大地震に対する構造物と都市の耐震シミュレーション、といった様々な分野に関しても震災に関する研究成果を基に分析しており、土木技術者だけではなく、一部難しいところもあるものの、一般の読者にも有用な書となっている。
さらに、震災の分析結果を踏まえて、近い将来発生するとされている南海トラフの地震や首都直下地震に対して、どのようにして予測し被害を軽減すべきかといった観点からも、各分野で論点を整理し提言されている。
惜しむらくは校正が不十分であり、図中の式の表記に明らかに誤りがあったり、図の目盛り線が印刷されていない箇所も散見される。しかしながら、これらは正誤表で十分対応できる範囲であり、地震発生から2年足らずで本書を出版し、多角的な視点で東日本大震災の実像に迫ったことは価値が高い。また、次なる巨大地震に対する防災・減災について提言を行ったことは、高く評価される。
よって、ここに土木学会出版文化賞を贈呈する。
Introduction to Finite Strain Theory for Continuum Elasto-Plasticity
橋口公一・山川優樹
John-Wiley & Sons 2012年
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【授賞理由】
本書は,近年飛躍的に発展した連続体の有限ひずみ弾塑性理論を体系的に解説した最新の図書である.
地盤やコンクリート,金属といった材料を連続体とみなして変形と破壊を解く弾塑性解析の多くは,簡便さから微小変形論に基づいて行われているが,大変形時の応答を精緻に解くには有限ひずみ弾塑性理論が不可欠である.この理論では,変形勾配の乗算分解と超弾性構成式を用いた定式化が主流となりつつあるが,理解し実践するには相応の基礎知識・学力が要求される.しかし,本書以前に同理論を体系的にまとめた書物はなく,会得するには幾つもの論文や書籍を読み解く必要があった.
本書には,テンソルの基礎から弾塑性論,連続体力学の基本概念・物理的意味まで,必要な知識が網羅されている.また,数式の誘導過程は省略なく懇切丁寧に記述され,解説に対応した計算プログラムも添付されており,本書一冊で読者が有限ひずみ弾塑性理論を理解し,具体的に解析を実施できる構成となっている.
連続体の有限ひずみ弾塑性理論を包括的にまとめ,基礎理論から実際の計算まで懇切丁寧に解説した本書の価値は高い.また,英文による海外からの出版により,我が国の本分野における研究レベルの高さを世界に発信していることは大いに評価される.
以上のような理由から,ここに土木学会出版文化賞を贈呈する.