平成29年度土木学会出版文化賞は以下の1作品に決定いたしました。
橋を透(とお)して見た風景
紅林章央(くればやしあきお)著
都政新報社 2016年刊
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【受賞理由】
本書は、東京都内の橋を対象として、江戸時代から震災復興を経て現在に至るまでを俯瞰し、時代背景や橋に対する考え方の変遷、建設に係わった人たちの想いなどを紹介することによって、経済性を最優先する最近の考え方や専門分化した技術者のあり様などに警鐘を鳴らした書である。著者は東京都職員として橋に係わる技術者であり、長年にわたり緻密に収集してきた資料を基に執筆されており、一般の読者にも橋の面白さ、文化性、インフラとしての重要性を伝える作品となっている。
なかでも隅田川に架かる橋梁については、建設から幾多の架替えを経て現在に至る経緯と、それらを推進した明治・大正・昭和の俊英技術者について、注目すべきトピックを交えてその意義を明快に叙述している。特に、我が国の橋梁史を語る上で不可欠な関東大震災の復興橋梁については、形式選定の経緯や田中豊をはじめとする技術者ひとりひとりの設計思想などについて具体的に紹介することで、復興計画や橋の設計に係わった人達が、このような非常時にあってなお、いかに先見の明を持って事に当たったかをつまびらかにしている。
以上より本書は、橋の歴史を紹介するに留まらず、幅広くインフラとしての橋の意義とそれに係わった土木技術者の存在を読み易い形でまとめ、土木の仕事の文化的側面を広く社会に伝えることができる書であり、土木工学に対する社会の評価を大いに高めることに資するものである。
よってここに土木学会出版文化賞を贈呈する。