平成28年度土木学会出版文化賞は以下の2作品に決定いたしました。
バルトン先生、明治の日本を駆ける! 近代化に献身したスコットランド人の物語
稲場紀久雄 著
平凡社 2016年刊
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【受賞理由】
本書は、明治期にスコットランドから招聘された衛生技師バルトンの国内主要都市や台湾における業績、バルトンの生い立ちや人となり、家族や友人、仕事仲間などについて詳細に記述した書である。本書は、筆者の40年にもわたる緻密な取材に基づいて執筆されており、我が国の近代水道事業の黎明期について、分かり易く、かつ興味深く学ぶことができる作品に仕上がっている。
バルトンが招聘された明治期において、いかに衛生確保のための上下水道の整備が大事であったかを思い知らせてくれるとともに、このような状況の中で、異国日本への招聘技術者でありながら命を懸けて日本・台湾の衛生改革に携わったバルトンの土木技術者としての生き様がリアルに記述されている。また、本書は単に技術者バルトン一人の業績、足跡を辿るだけでなく、家族、ルーツ、交友関係を辿ることで、明治という時代と当時の日本という国の気風、国際交流などといった、非常に多面的な視点から人と社会を描き出した書である。
以上、本書は、衛生工学・上下水道技術がいかに社会に貢献するものであるかを如実に叙述しており、土木技術者ならびに土木工学に対する社会の評価を大いに高めることが期待される。また、バルトンという人物が駆け抜けた明治という時代に日本とスコットランドという国における志有る人々の物語としても高く評価される。
よってここに土木学会出版文化賞を贈呈する。
地震との戦い なぜ橋は地震に弱かったのか
川島一彦 著
鹿島出版会 2014年
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【受賞理由】
本書は、1995年の兵庫県南部地震で発生した都市高架橋の倒壊を代表とする、地震動による橋の破壊現象を、耐震設計の歴史を振り返りながら検証した著作である。
関東大震災以後に導入された震度法とその問題点、1990年に導入された地震時保有耐力法、耐震基準の進展、免震・制振技術の導入、海外の耐震技術の状況、東日本大震災で問題となった津波・長周期地震動への対応といった、歴史的な経緯を解説するとともに、大規模実験による橋脚の破壊現象の再現などの研究成果が紹介されている。
専門的内容ながらも数式等を用いず写真と図による表現によってわかりやすく解説しており、技術者一般および土木を学ぶ学生にとって有益性が高い。橋の地震被害調査の経験が豊富な筆者ならではの迫力ある被害状況写真が、読者の理解をいっそう深めている。
筆者が述べているとおり、橋に対する耐震技術がスタートした関東大震災から約90年の歴史は、まれにしか起こらない地震の歴史から見ると一瞬に過ぎない。本書の主題された兵庫県南部地震での橋の倒壊はすでに20年以上前の事象だが、耐震工学の貴重な教訓を今に伝え、技術の変遷を俯瞰することは、今後の橋の耐震性を考えるうえでの問題提起として重要である。
本書は、専門性の高い内容にもかかわらず、多くの土木に携わる人々が知っておくべき一般的内容にまで推敲されており高く評価される。
よってここに土木学会出版文化賞を贈呈する。