令和4年度 土木学会出版文化賞は以下の3作品に決定いたしました。
本書では、古代から近代までの社会基盤づくりに挑んだ人物に焦点をあて、その功績を広く紹介することを通じて、土木事業の果たしてきた役割や価値について述べている。
古代の飲み水の確保や稲作からはじまり、城やその城下町の形成、水害からの防御、北海道開拓、明治維新後の近代化へといった各時代において、土木の技術と事業が担ってきた役割と成果は我が国の国土づくりの歴史そのものである。これらの事業に取組んだ人物に光をあて、各時代の社会背景も踏まえながら、彼らがいかに日本の風土に向き合い、災害から人々の暮らしを守り、国土に手を加えながら人々の暮らしを豊かなものにしてきたかについて、熱い筆致で語られている。近代以前においては、高僧や武将らを土木技術者的観点から捉えて描いており、土木事業が領地を治め、国力を増大させることに直結した事業であったことを再認識させられる。
著者はこれら一連の記述の根底において、土木事業の持つ「自然との共生」や「利他」といった側面を浮かび上がらせることを意図しており、幅広い読者層に訴えかける内容となっている。これは土木に対する人々の理解を深め、さらには社会との良好な関係を醸成していくものと期待され、土木文化活動として大きな役割を果たす書籍である。
緒方英樹
本書は、東日本大震災後の陸前高田市における復興の過程を約10年間にわたってまとめた書籍である。様々な部門の担当者が執筆した9章からなり、復興計画、事業化、大規模工事、まちづくり、商業再生などが詳細にまとめられている。証言、座談会、コラムなども掲載されており、役所、民間、学識経験者など様々な立場から取り組まれ、捉えられた陸前高田の復興を、読者はひろく理解することができる。
本書の長所としては、様々な部門の担当者の視点からまとめられている点が挙げられる。異なる執筆者の記事で構成されているにも関わらず、執筆者間のつながりがよく推敲されており図書としての完成度が高い。また、陸前高田市の復興を官民一体となって取り組むことの重要性が示されており、地域全体の協力が必要であることが理解できる。さらに、復興における困難や改善すべき課題も記載されており、今後の災害復興、まちづくり、再生という側面において参考になる記載が多く、特に計画系人材に多くの示唆を与える書籍である。
以上のように、本書は陸前高田市の復興に向けた計画、工事、まちづくりについての詳細な記録として貴重であるとともに、今後同様の災害に備えた取り組みに役立つ内容が充実しており、土木分野の実績や人物などの事例を題材として、その意義と価値を伝えるものとして高く評価できる書籍である。よって、ここに土木学会出版文化賞を授与する。
中井検裕
長坂泰之
阿部勝
永山悟
土木構造物は人々の日常生活に不可欠な社会インフラであり、工事実施には近隣住民および工事に携わる関係者の、相互の協力と理解が必要である。本書では土木工事の準備から完成までの流れ、現場での高度な施工・安全・環境配慮の技術が多数のイラストで分かりやすく説明されている。本書を一読することで、様々な人々の工事への理解が深まることだろう。
序章でまず、計画から施工に至る土木工事共通の流れを説明している。続いて橋・トンネル・道路・河川構造物とダム・鉄道の地下駅・港・海上空港の、施工開始から完成までを、施工順序に従って説いている。最後に環境への取組と、土木技術者の将来展望を扱い、土木工事をより広く紹介している。
鳥瞰図イラストは美しく見やすい。現場の雰囲気が自然にかつ迫力をもって描かれていることに感心させられる。文章記述とイラストが絶妙なバランスで分かりやすく表現されている。イラストレーターと技術者執筆陣とのすばらしい協力関係の結果であろう。分かりづらい専門的事項・用語も、視覚的に容易に理解できるようになっている。土木技術者も専門分野以外の工事を理解するために1冊備えていても良いのではないか。
本書は土木工事に対する社会の関心を高めること、および土木技術者の専門的教養を高めることに寄与するものである。よって、ここに土木学会出版文化賞を授与する。