塩野七生/著 新潮社 平成13年12月20日初版発行
ローマ帝国は,優れた指導者たちの存在と並んで,道路・水道を初めとする歴史に残るインフラストラクチャーの整備を行った古代国家として知られています。 全15巻を予定している著者畢生の大作『ローマ人の物語』の刊行が進むにつれて,私たちはやがてインフラを中心とする巻が刊行されるであろうと期待しておりましたが,第10巻目に当たる本書の主題はローマ帝国が実現した壮大なインフラをめぐる物語でした。 筆者はローマ人にとってインフラとは「人間が人間らしい生活を送るために必要な大事業」であったという言葉を史料渉猟のうちに発見し,優れた構成・表現および端正な文章で読み物として再現されました。 本書を,学術研究を目的とする土木史の書物として見るとき,ローマの土木技術に関する描写に若干の不足が見られます。 しかし,一般書として見るときは,これまで専門分野に留まっていた観がある「インフラ」という概念を広く読者に示し,国家にとってインフラとは民族の資質を表すものとの考えの下に論旨を貫かれ,近年のわが国のインフラをめぐる論議にひとつの考え方を示されました。 以上により本書を高く評価し,土木学会出版文化賞を贈ります。 |