平成26年度土木学会出版文化賞は以下の作品に決定いたしました。
ビジネス・インフラの明治
-白石直治(しらいしなおじ)と土木の世界-
前田裕子(まえだひろこ)
名古屋大学出版会 2014年刊
前田裕子 |
【受賞理由】
本書は明治時代の民間による社会基盤整備を「ビジネス・インフラ」と定義づけ、急速に展開する明治の近代化の中で、帝国大学等で教鞭をとりながら民間へ転じた技術者「白石直治」を中心とする技術者達の人物史をたどりつつ、明治維新以降の日本の産業化の中で土木が果たした役割について詳細に述べている。
著者は明治の近代化とインフラ整備というこれまでも数多く取り上げられてきたテーマに対して、民間で活躍した技術者という新しい視点で、当時の土木技術者が如何に社会に貢献したかを整理し、従来の公共事業=官業という見方に一石を投じ、興味と新鮮さを与えている。特に、帝国大学の成立や工手学校・攻玉社による現場技術者養成など明治初期の土木技術者の育成や当時の建設請負業の仕組み・ゼネコンの成り立ちについて丁寧にまとめられており興味深い。また、技術者達の人物史を中心にたどりながら、明治時代の急激な産業化の礎となった民間による関西鉄道・若松築港・三菱建築所・猪苗代水力発電でのインフラ整備について、時代背景を踏まえ、技術者達の人間関係や民間資本との関係性などについてもまとめられている。
膨大な資料を基に綿密な調査を行い、明治時代の社会基盤整備の展開と技術者達の人物史をめぐる複雑な関係を丹念に紐解き、「ビジネス・インフラ」の一貫した視点でダイナミックかつ詳細に描いた点が高く評価される。
よって、ここに土木学会出版文化賞を贈呈する。