橋梁の疲労と破壊 – 事例から学ぶ –
三木 千壽 朝倉書店 2011
Chitoshi Miki |
受賞理由
本書は、これまでの首都高速道路などの鋼橋や新幹線における初期の橋梁の構造詳細がどのようであったか、どのような疲労損傷が発生したか、それがどのように改善されていったかを、写真と図をふんだんに使って丁寧に解説している。鋼床版についても疲労に対してどこが弱点か、どのように構造詳細が改善されたかを解説している。それらの知見をふまえ、疲労に関する設計指針の概要、内部きずなどの設定根拠、鋼橋の疲労設計のあり方などについて、設計指針のベースとなった実験結果も示しながら、わが国における鋼橋の疲労設計の考え方を体系的に示している。
さらに本書では、いろいろな溶接部における疲労亀裂の発生起点と亀裂進展の様子、亀裂が構造物の表面からどのように見えるか、疲労チェックの際の注意点は何かが解説されている。構造物の補修だけでなく更新の際にも役立つ実務書となっている。
望むべくは、本書の図と写真がもう少し鮮明であれば、疲労に関する経験の浅い読者でも理解がより深まったかもしれない。
とはいえ、わが国における鋼橋の疲労設計の集大成とも言える図書であり、橋梁の高齢化が社会問題になる時代にあって、鋼橋の点検・診断・補修・補強設計に関係する技術者のみならず、橋梁の更新にあたる技術者にとっても必読の書である。
以上により本書を高く評価し、土木学会出版文化賞を贈呈する。