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【第13回】 草の根ITS -身の丈に合わせたIT活用-

高知工科大学教授 熊谷靖彦氏
熊谷教授
学会で草の根ITSを
アピールする熊谷氏

 厳しい財政状況から道路整備が進まず、また、供用までの時間が明確にできない地方都市において、地域の道路状況を低コストのITSを活用して改善することに取り組んできた。


■■必要だけど、つくれない

 人口減少や厳しい財政の影響で必要な道路が整備できないという地域は全国に数多く存在します。今回の舞台である高知県はその代表的な地域です。平地が狭く急峻な山地を抱える四国特有の地形は建設コストを割高にし、厳しい財政から建設も進まず、道路整備率は全国でも下位にあり、とりわけ日常の生活地域を結ぶ県道の整備率は50%にも満たない状況にあります。
 お金もない。整備にどれだけ時間がかかるかもわからない。こうした地域の道路状況をどう改善するか-今回取り上げる「行動する技術者」は、高知工科大学の熊谷靖彦氏です。

■■高知の中山間から
中山間道路走行支援システム
すれちがいできない山道で対向車
の存在を光って知らせる中山間道
路走行支援システム

 熊谷氏は民間企業でITS、とりわけシステム側の専門家として研究開発に携わった後、アメリカ留学を経て高知工科大学に着任しました。それまで大都市に住み、アメリカで暮らしていた熊谷氏にとって、都市部からほんの20、30分走っただけで、すれ違いどころか通行自体も困難な車1台がやっと通れる幅しかない道路が日常生活のなかで使われている高知の道路整備状況は想像を絶するものでした。こうした地域の状況に対し、安心して安全に通行したいという地域の住民のニーズを肌で感じている高知県の職員の方が熊谷氏の元を訪れたことが、熊谷氏がこの取組みを行うきっかけとなりました。

■■セカンドベスト-草の根ITS
草の根ITS の取組み
草の根ITS の取組み

 「根本的な解決ではない」-熊谷氏は自らの取組みについてこう語ります。「本来は、道を広げ、安全施設を備えた形も良い道をつくるべき。でも、お金も、時間もないなかで、なんとかしなければならない。そのためにITS 技術を活用した」
 これまでもITS 技術を地域に適用する取組みはありましたが、中央の制度や技術に主導されていたものが多く、必ずしも地域のニーズにマッチするものではありませんでした。また、地方で取り組む側でも、ITS の要素技術やランニングコストなどがよくわかっていなかったため、設置はできても維持しきれなかったりと、なかなか地域に定着しませんでした。
 全国で大規模に展開しているものでも、最新・最高の技術だけど使いきれないのではなく、地方・地域の困りごとをそこの身の丈に合わせた技術と費用で対応しよう。小さな自治体で必要十分な機能を、手の届くコストで利用し続けられる、地域に密着した、地域のためのITS。熊谷氏はこれを「草の根ITS」と呼んでいます。

■■まず、地域を知る
歩行者の存在を知らせる
走行空間の確保されていないトンネル
で通行中の歩行者の存在を知らせる

 高知に来た当初、高知の状況について右も左もわからなかったという熊谷氏は、当時のことを「自分の意見は述べずに、まず地元を知ることから始めた」と振り返ります。
 できるだけ地元に密着し、地域を見つめ、地域の目線をもった熊谷氏は、高知の交通状況改善のため、さまざまな取組みを実用化しています。
 大型車も多く行き交う、路側帯もほとんどない古く狭いトンネルで、四国名物お遍路さんが接触事故に遭わないようドライバーに注意を喚起するシステムや、高知市内の路面電車で残る安全施設がまったくないノーガード電停への対策。中山間地域の狭いすれ違いもできないような道路で、対向車の存在を知らせ、円滑な交通処理をするためのシステム。

歩行者の存在を知らせる
ノーガード電停
(緑色の部分。夜は路面電車接近時
ライトアップによる安全対策)

 地域の視点に立つことで、必要十分で低コストで利用でき、地域の困りごとを改善するさまざまな仕組みを実現していきました。

■■マイナスからのスタート

 熊谷氏とともに草の根ITSを推進している高知県道路課の久保氏は「マイナスを、ゼロに向けていく取組み」と評しています。改善してもまだマイナスだけど、それをどう小さくするか。
 費用面でも、時間面でも十分な安全を確保するのが困難な状況下で、今の状況下でできることを行い利用者の安心感を相対的に高める。それが熊谷氏の高知で進めている草の根ITSです。

■■地元への還元、他地域への展開

 「先端技術は県外の大手企業に依存するが、それをどう使うか、どう活用するかというところについて、地元の会社が育ってほしい」-熊谷氏は地元の企業を巻き込みながら取り組んでいます。
 また、草の根ITS を、県内だけでなく同じ悩みを抱える他の地域でも活用し、使い続けられるよう、ランニングコストの軽減や、運搬や設置が簡単にできるよう機器の改良など、地域で必要とされている課題に応える地道な改良を進めています。
 地域を理解し、技術を知る。草の根ITS の取組みは、まさに土木という分野で本来求められていることではないでしょうか。

高知県道路課長 久保課長にお聞きしました!

久保課長
久保課長

 高知におられたから熊谷先生に協力をお願いしたというよりも、地域の人と同じ目線に立っていて、相談しやすいという先生のキャラクターがあったことがなによりも大きいです。現在は高知で農作業にも取組み、地域に溶け込んでおられます。
 また、ITに詳しい土木技術者は少ないため、熊谷先生のITに関する知識、システムを廉価にするための専門性は非常に貴重で、私どもは大いに助けられました。私が部署異動したとしても、何かのときにはまた熊谷先生に協力をお願いしたいと思っております。


行動する技術者たち取材班
中島敬介 NAKAJIMA Keisuke  日本技術開発株式会社 都市・マネジメント事業部

参考文献
1)高知工科大学総合研究所地域ITS 社会研究センター成果報告書
2)高知県土木部道路課「高知県の道路」、平成18年10月

土木学会誌vol.92 no.8 August 2007

土木学会誌掲載分
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PDF icon 第13回 草の根ITS -身の丈に合わせたIT活用-(PDF)488.14 KB
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コメント

お金もない。整備にどれくらい時間がかかるか分からない。そん

投稿者:鉄道・運輸機構 小川逸作 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00

お金もない。整備にどれくらい時間がかかるか分からない。そんな地域の道路事情の中で、ITS技術を活用し、地元企業を巻き込みながら改善してゆく。この高知での取り組みは、ぜひ全国的に積極的に取り入れられるべきではないかと思いました。

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道路改良のような根本的な(従来型の)対策でなくてもニーズと

投稿者:都市再生機構 丸田浩史 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00

道路改良のような根本的な(従来型の)対策でなくてもニーズとシーズをマッチングすることによって、経済的・時間的制約や多様な地域特性がある中でより快適な安全な道路を提供したという取り組みでした。これからの土木業界は、土木工学の「外からの」ニーズとシーズをマッチングできる人材がより必要とされる方向に行くように感じました。

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高知の山間部の道路の写真を見たときは、私も想像を絶しました

投稿者:金沢工業大学 高柳大輔 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00

高知の山間部の道路の写真を見たときは、私も想像を絶しました。このように人口の少なさや財政の厳しさで必要な道路が整備でできない地域があることが残念でなりません。しかしながら、草の根ITSによって、不利な状況を改善させるだけでなく、地元の企業を巻き込んで、コスト軽減や機器の改良などに取り組んでいることに驚きました。現在も、財政難や人口の少なさを理由に道路整備が困難な地域が数多く存在しします。そのような地域にも、ITSの技術を導入し、現状の改善に貢献してほしいと思います。

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人口減少や厳しい財政の影響で必要な道路が整備されていないと

投稿者:前田建設 石井智子 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00

人口減少や厳しい財政の影響で必要な道路が整備されていないという問題はとても深刻だと思います。利用者はとても不安であり、事故が起きてしまってからでは遅いです。コストをかけずに問題を解決する熊谷氏の考えた草の根ITSは素晴らしいと思いました。まずは地元をよく知り、ニーズにあった対策をすれば、コストをかけなくても地域の人たちが安全に暮らすことができるということが分かりました。

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この記事のように、ちょっとしたアイデアで交通の安全性を向上

投稿者:阪神高速道路 崎谷淨 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00

この記事のように、ちょっとしたアイデアで交通の安全性を向上できる方法は、すくなからずあると思います。優先順位をつけ、地域が望むような効果的なものを整備し、その整備したという情報も地域社会が共有するために広報することも大事だと思います。

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最新の技術をすべて活かしきれない、使いこなせないという問題

投稿者:足立区役所 白勢和道 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00

最新の技術をすべて活かしきれない、使いこなせないという問題を地域の身の丈に合わせた費用、機能で最大限活用する熊谷先生の活動は、地域が活動していく「スパイス」だと思いました。社会基盤が建設から維持管理に移行する時代の中で、問題点を改善して「マイナスをゼロに近づけていく」ことは、これからの土木技術者に必要なことではないでしょうか。「地域の実情を理解し、技術を知る。」考え方をちょっと変えることで大きな力を与える原動力になると改めて感じました。

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