公共交通利用の促進を狙い、ポイントを貯める中で自分のエコ行動の効果を可視化。技術者のリーダーシップと地域の関係者との連携により大きく前進。
エコポイントとは、個人の小さな環境配慮行動(エコ行動)に対してポイントを発行し、貯めたエコポイントでまたエコ行動が促進されるCO2削減の画期的なアイデアです。このエコポイントの取組みが日本国内で広まるきっかけとなった背景には、1人の技術者がいました。名古屋大学大学院の森川高行教授です。
自動車依存型の大都市「名古屋」において、車の利用割合を大胆に減らす目標を掲げた「なごや交通戦略」が、2004年に名古屋市長へ答申されました。
森川先生はその策定メンバーの一人として、公共交通の運賃値下げに比べ、ポイント制度は還元率が低い割に利用者のお得感を生んで行動を変えやすいと考えて、自動車乗入れ課金とポイント制度を組み合わせた交通需要マネジメント政策を提案していました。
しかし、乗入れ課金は時期尚早ということで、公共交通に対する「エコポイント」が残る形で「なごや交通戦略」の核となる施策として盛り込まれました。
2004、2005年には、名古屋市、名古屋大学、NPO法人エコデザイン市民社会フォーラムらが主催して、交通エコポイント(愛称エコポン)の社会実験を行いました。エコポンは鉄道駅などにある「エコポンカーリーダー」にICチップをかざすとポイントが貯まり、携帯電話のメールで自分のポイント数、お得な地域情報、環境改善効果などが配信され、自分のエコ行動による効果が目に見えるとともに、貯めたポイントで地下鉄のプリペイドカードやエコ商品がもらえるという仕組みです。
エコポイントが実現するまで
一方、森川先生は1995年に設立された、愛知万博のコンセプトを考える「愛知県若手の会」にも参加していました。この研究会で森川先生は市民運動家や芸術家など、土木とは異なったさまざまな分野・業種の人たちと出会い、交流を深めていきました。万博誘致成功後は、博覧会協会の観客輸送チームのサブリーダーとして計画づくりにも参加する一方で、環境万博の理念と会場計画が矛盾することから、上記の研究会メンバーや環境保護団体らと活動を始め、当局に苦言を呈する「意見書」を提出するなどしました。その後、万博の会場計画問題がマスコミで取り上げられ、市民参加型で行政、市民、各種団体などが同じテーブルでオープンな議論をする「愛知万博検討会議」が発足し、会場計画が大幅に変更されました。森川先生はこれらの活動を通して、「自分の世界は狭かった。これからは土木工学が本来もつ『市民のための総合工学』を座学だけでなく実践できないだろうか」と考え始めました。
森川先生が「愛知県若手の会」で知り合い、博覧会協会の委員会で再会した、中部地方の代表的市民環境活動家の萩原喜之氏は、エコ行動ポイントを愛知万博で導入したいと粘り強く協会に提案し続けていました。森川先生は、「交通エコポイント」と、萩原氏の提案するエコ行動ポイントは同じ趣旨の活動だと考え、萩原氏らとNPO法人エコデザイン市民社会フォーラム(萩原氏が代表)を設立し、愛知万博で2つのポイント制を連携させた『EXPOエコマネー』を導入することになったのです。
EXPOエコマネーは、愛・地球博の中で大ブームを引き起こし、博覧会協会は万博終了後も1年間の事業継続を決めました。2005年11月に名古屋市内でエコマネーセンターを再オープンしましたが、センターへの入場は万博にも匹敵する3時間待ちを要する人気ぶりでした。森川先生は「イベントによる一過性ではなく、万博が終わっても後世に残せる恒久的な仕組みにしたい」と考え、ポイントの対象も公共交通機関利用、レジ袋の辞退、エコ商品の購入、植林への寄付などのさまざまなエコ行動に拡げつつあります。地元事業者だけでなく、大手コンビニチェーンの協賛も決まるなど、エコポイント活動は広がりを見せつつありますが、企業などに協力を呼びかける森川先生らの奮闘の毎日は続いています。
森川氏:貯まったポイントを還元するための企業協賛を募るのが大変でした。しかし活動が広まるにつれてさまざまな企業が賛同してくれ、企業の自発的な行動は意外に得られるものだと思えるようになりました。
森川氏:愛・地球博で大変話題を呼んだ「EXPOエコマネー」は、「エコポン」と融合して、環境に対する価値を通常のお金とは違うかたちで表現し流通させていきます。環境問題は環境税でしか解決できないと思われがちですが、このような「自発性の連鎖」による方法もあることを示したいですね。
森川氏:土木工学はハードだけでなく、社会システムの変革にも取り組めます。土木の人は広い視野と知識をもった人が多いので、いろいろな分野の人と柔軟に連携できます。その資質を活かしてがんばってください。
一言でいうと「志民」だなあと思う。お互い万博の企画運営委員をしていたとき、国、博覧会協会に対しギリギリの局面を迎え内部の人間として意見書を出すことに。大学教授、協会の交通計画のリーダーという立場で大丈夫かと聞いてしまったことがある。筋を通す人だ。会議の後は深夜になる。そこから明け方まで何軒も酒につきあわされることが唯一困ることかなあ。
行動する技術者たち取材班
島田敦子 SHIMADA Atsuko (財)計量計画研究所都市・地域研究室 研究員
正会員
参考文献
1)公共交通エコポイント社会実験公式ホームページ
2)愛地球博EXPOエコマネーホームページ
土木学会誌vol.91 no.2 February 2006
添付 | サイズ |
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第1回 エコポイントで名古屋から世界を変える!(PDF) | 498.23 KB |
コメント
屁理屈ですが、タイトルの赤が強すぎる感じ。
投稿者:遠藤隆夫 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00屁理屈ですが、タイトルの赤が強すぎる感じ。
本号から連載の始まった企画だが、企画趣旨には、現在の我々土
投稿者:東京急行電鉄 関聡史 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00本号から連載の始まった企画だが、企画趣旨には、現在の我々土木技術者を取り巻く状況と今後の方向性について非常に濃い内容が記載されていると感じた。
この企画の連載中は、毎号、この企画趣旨を明記いただくことはできないだろうか。毎回読み返すうちに、土木技術者として、国土・地域づくりという視点で継続的に努力し、行動していかなければならないことが我々に深く浸透するのではないかと考えた。
技術者全般に対する社会的な信頼を損ねる事件が続いているが、一方で、我々の先輩方が今の社会を作り上げてきたことを誇りに思い、これからの国土・地域のあるべき姿をより高い視点から思い巡らせ、その実現に向けた行動ができるようにしていきたいと思う。
環境問題を市民レベルで考えるいいアイディアだと思います。個
投稿者:(株)きぃすとん 川口美智久 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00環境問題を市民レベルで考えるいいアイディアだと思います。個々のスーパーなどで環境問題に取り組むところは増えてきていますが、ポイントカードがそれぞれ違って集める気になりませんでした。違うスーパー、デパートなど、いろいろなシーンで共通のポイントがもらえたとしたら、もっと楽しく集める事ができると思います。エコポイントに協賛する企業が増えることに期待しています。
愛知万博で注目を集めたEXPOエコマネーのシステムが、これ
投稿者:オリエンタルコンサルタンツ 長尾一輝 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00愛知万博で注目を集めたEXPOエコマネーのシステムが、これをきっかけに恒久的なシステムとして是非定着してほしいと思います。そのために日々行動し、奮闘する森川先生の行動力に感銘を受けました。形だけで中身が伴っていない社会実験も存在する中、この取り組みは大変意義があると思います。システムとして定着すれば、全国的な流れにも繋がると思います。記事の中に、土木工学は本来「市民のための総合工学」であると記されていました。それを意識する重要性は、建設コンサルタントとしての、私の日々の業務にも共通するものだと考えます。
CO2削減、環境問題に対して自分自身も問題意識はあるのに行
投稿者:(株)大林組 鈴木直子 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00CO2削減、環境問題に対して自分自身も問題意識はあるのに行動に移せていない面が多々あるので、思いを新たにしました。また、戦前派の両親に比べると、水を大切に使うこと、電気をこまめに消すことなど、日々の生活の中のちょっとしたもったないと思う気持ちがつい疎かになりがちです。土木技術だけでなく環境問題についても温故知新という切り口の記事もいけるのかな、と思いました。