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【第9回】 できることから、少しずつ

埼玉大学大学院教授 久保田尚氏
久保田教授
実験を見守る久保田尚氏(右)

 地域の人々と行政と結び,時間をかけて,交通を基盤としてまちの問題解決,活性化に取り組むねばりと情熱。
 従来型の専門領域を超え,将来を見据え,関係者の利害を調整しながら実現させる,現代の技術者の姿。


■■都市の潤い、氷川参道
かつての氷川参道の様子
かつての氷川参道の様子

 さいたま市の新たな拠点、さいたま新都心の北端から2kmに渡り伸びる緑の回廊が、約2000年の歴史をもつといわれる氷川神社へと続く氷川参道です。ここは貴重な都市の潤いとして、地域を代表する空間となっています。しかし、この道はかつて周辺の渋滞する道路を避ける車が1日5,000台以上も通行し、違法駐車にあふれ、沿道の住民や歩行者などにとって危険な道路でした。この道を、静かで憩いのある地域が誇れる道にするため、長い時間をかけながら住民や行政とともに取り組んでいる土木技術者がいます。埼玉大学大学院の久保田尚教授です。

■■交通計画検討協議会の設立
少しずつ進められている氷川参道の交通まちづくり
少しずつ進められている氷川参道の交通まちづくり

 多くの関係者がそれぞれ参道に対して「なんとかしたい」という想いをもちながらも、交通問題のほかに、樹木の保全や複雑に入り組んだ土地の権利関係などで、それぞれの利害が対立し、それまでも何度かあった参道の環境改善のための話し合いは必ずしもうまくいっていませんでした。
 それでも関係者はそれぞれの「なんとかしたい」という想いを行動に起こしていました。
 周辺の住民は「氷川の杜うるおいのあるまちづくり推進協議会」を設立し、『車のない、美しい参道を後世に残していく』ことを目標に、独自にワークショップやシンポジウムを開催して、市へ提言書を提出するなどの活動を行いました。
 一方、大宮市(当時)でも参道を良くするためには地域の世論を形成する必要があると、交通問題を軸に新たな話し合いの場を検討していました。
 そして市、住民をはじめ県や警察など関係する人たちが一堂に会する「氷川参道周辺まちづくり交通計画検討協議会」が1999(平成11)年に設立されました。

■■検討協議会での対立

 市の担当者と以前から交流のあった久保田氏は、検討協議会の座長として関係者間の議論を取り仕切る立場で参加しました。が、当初は意見の対立が大きく、『このままでうまくいくだろうか、本当に大丈夫なのだろうか』と感じたと、久保田氏は当時を振り返ります。
 住民側の、過去の経緯からくる行政への不信感や、参道を良くしたいという熱意による『早期に参道の歩行者専用化を』という強い主張に対し、市や警察は現実問題として歩行者専用化の困難さを説明しました。検討協議会は『何をするのか』という点で大きく対立し、前に進むことができなくなってしまったのです。検討協議会の場で誰かが損をするような形が生まれないよう中立的な立場を意識していた久保田氏は、そうした状況をみて『まず、どういう影響があるのか見てみよう』と、自身が研究していた当時としては珍しい、自動車1 台単位で交通状況を再現することのできる交通ミクロシミュレーションを実施し、住民の人たちの主張や市や県が計画していた道路整備などを考慮に入れた交通状況の予測をすることを提案しました。
 これが、このプロジェクトの大きなターニングポイントとなったのです。

■■まず、できることを

 後日、予測結果が検討協議会に示されました。
 それは、参道を通行止めにした場合、迂回する車で隣接する幹線道路が完全なマヒ状態に陥るなど、広域的に多大な影響があるという結果でした。また、近隣の都市計画道路が完成すれば、参道が通行止めでも周囲への影響は軽微であることも示されました。
 この結果を見て『自分たちのところが良くなっても、周りへの迷惑が大きすぎる』、『将来的に都市計画道路ができれば歩行者専用化は問題ないのでは』と感じた住民は、それまでの『早期の歩行者専用化』から『長期的な歩行者専用化』に主張を変え、『まず今、なにができるのか』と考え始めたのです。
 『この変化がなければ、検討協議会は空中分解し、プロジェクトはダメになっていただろう』と、久保田氏は当時を振り返ります。
 住民の意識の変化で、検討協議会はそれぞれの熱意ゆえに対立していた当初のヤマを越え、熱意が前に進む力となり、『今できることは何か』、『それはどうやったらできるのか』と話し合う場となり、参加者も議論をすることが楽しくなっていきました。
 そして『とりあえず、できることを試してみよう』と、社会実験を行ってみることになったのです。

■■できることから、少しずつ

 多くの関係者の想いを形にした社会実験は、2000(平成12)年の春に行われました。
 この模様はテレビなどでも報じられ、賛成の人、反対の人、知らなかった人、関心の低かった人も巻き込んで行われました。「社会実験で住民が参道の将来の姿を体験できたことは大きかった」と当時の市の担当者は振り返ります。そして、実験で得られた多くの人の賛成をもとに、2002(平成14)年に、まずとりあえずの目標であった歩行者と車を分離する工事が完了しました。
 関係する人それぞれが、それぞれの主張を少しずつ譲り合って実現した社会実験。その成功は、地域の人たちに『少しずつなら、みちは変えていくことができる』という意識と『やれることは、やってみよう』という雰囲気を生みました。そして、この成功体験を得た関係者の人たちは、その後も検討協議会で議論を続け、2005(平成17)年には新たな社会実験を実施し、2006(平成18)年に一方通行化を実現することに成功しました。今も、できることから、少しずつ、氷川参道のまちづくりは進んでいます。

久保田尚氏にインタビュー

――この取組みがうまくいっている要因は?

久保田氏:議論だけでは互いの関係がとげとげしくなってしまいます。実験で少しのことでも実際にやってみて体験できたことは1つのポイントだと思います。

――住民の土木技術者(久保田氏)を見る目はどうでしたか?

久保田氏:住民の人は私を土木の人と見ていないかもしれません(笑)。ただ、自分たちの身近な生活環境を良くしてくれる学問や分野があるということは感じたようです。土木は本来そういう面をもつものだと思いますので、そこを感じていただけたのはうれしいと思っています。


行動する技術者たち取材班
中島敬介 NAKAJIMA Keisuke  国土交通省国土技術政策総合研究所 交流研究員
正会員

参考文献
1)さいたま市ホームページ「氷川参道及び周辺のまちづくり」
2)氷川の杜うるおいのあるまちづくり協議会・さいたま市「氷川参道のまちづくり」(平成15年)

土木学会誌vol.91 no.12 December 2006

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コメント

対立していた協議会が「ターニングポイント」によって、主張が

投稿者:産業技術総合研究所 対馬孝治 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00

対立していた協議会が「ターニングポイント」によって、主張が変わり考える方向が変わり始めたプロセスが興味深いと思いました。同様の状況に直面した経験を持つ人は多いと思います。そのような人に応用できるヒントを与えていると思えました。

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土木技術者が、地域に根ざす交通問題を解決するため、行政、警

投稿者:東京急行電鉄(株) 横内稔充 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00

土木技術者が、地域に根ざす交通問題を解決するため、行政、警察、関係企業、地元住民など様々な主体と調整を図る立場として活躍している話であるが、その実行していくプロセスに共感を覚えた。本記事の中で、「地域の世論を形成すること」、「住民の主張を長期的な展望として捉え直し、そこに至るプロセスを議論する」また「関係者の協力のもと今すぐにできることから、実行に移し、その結果を共通体験として積み上げていくこと」が、地域住民との合意形成を図る上で、大きなポイントとなったのではないか。調整業務に、相当な苦労をされたのではないかと推察するが、調整を図る上で工夫した部分などもっと知りたかった。
土木技術者は専門的な知識、経験だけでなく幅広い視野のもと調整能力を必要とされる場面が多いと思う。こういったケースが今後益々増えていく中で、自分が担当しているプロジェクトにも共通する部分が多々有り、とても参考になった。

  • 返信

土木について簡単に説明しろと言われても難問です。でも久保田

投稿者:国土交通省 北海道開発局 留萌... 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00

土木について簡単に説明しろと言われても難問です。でも久保田先生が述べられた”土木とは自分たちの身近な生活環境を良くしてくれる学問”の説明は、分かりやすく的を射た言葉です。近年造ること自体が目的となり、なぜ造るのかを忘れてしまいそうになる自分にとって、あらためて仕事を見直す一言です。

  • 返信

道路計画、都市計画などは利害が対立しやすく、どの計画でもう

投稿者:大林組 津久井啓介 投稿日時:金, 2009-01-16 00:00

道路計画、都市計画などは利害が対立しやすく、どの計画でもうまくいっていないように思える。本稿の氷川参道にしても住民と行政の対立が非常に厳しい旨のエピソードから始まっている。しかし詳細なシミュレーションを行い、各種のケーススタディをもって説明した結果、理解を得られている。ただし、意見が対立する双方とも「なんとかしたい」という熱意は同じであったとのこと。解決のキーは「できることから、少しずつでも取り組む」であったとのことだが、関係者の意識をそのように変えたのはまさに熱意と客観的なデータであったと思う。住民の方から土木は生活環境をよくする学問だと感じてもらえた、とのことだが、まさに橋やダムなどのハードを作るだけでなく、そのハードでどのように我々の生活が向上するのかまでを考えるのが土木技術だと分かってもらえるようにしていかなければならないと思った。

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