エコタウン事業の立ち上げ、発展に尽力。環境リサイクル事業として、不要な廃棄物の有益性に着目し、地域の生業(環境ビジネス)として育て上げた事例。
1968(昭和43)年9月26日、厚生省(当時)は水俣病に関する政府統一見解を発表しました。
「水俣病は中毒性中枢神経系疾患であり、工場廃水に含まれたメチル水銀化合物が水俣湾を汚染し、食物連鎖で濃縮された魚介類を地域住民が摂食することによって生じたものと認められる」
学生時代に衝撃を受け、自身でも40 年間かかわってきている、この水俣の教訓をわが身に照らし、環境産業による持続可能な都市づくりに取り組んでいる技術者がいます。
今回の「行動する技術者たち」は、長年、環境コンサルタントとして各地の環境事業に携わり、地域づくり・環境産業の創造に情熱を注いでいる青山俊介氏の取組みを紹介します。
水俣病をはじめとする産業公害を克服しつつ、わが国は著しい成長を遂げてきましたが、1980年代に入り、様相は変化してきました。製鉄業は不況の時代となり、高度経済成長に続く「新しい成長」が求められました。
わが国の近代製鉄発祥の地(官営八幡製鉄所)である北九州市も、重厚長大型産業の構造転換が迫られていました。市の北西部、響灘に面した若松区には広大な埋立地がありました。この地は、関門航路や港湾の浚渫土砂、洞海湾周辺に集まる工場群から排出されるスラグ(鉱滓)などの廃棄物を埋め立ててつくられた工業用地です。しかしながら、社会状況の変化により、この広大な埋立地の使い道がなくなり、活用計画を考え直す必要が出てきました。
環境産業の誕生・浸透・展開
青山氏は、環境コンサルタントとして、行政・企業とともに計画づくりに着手しました。北九州市の「地の利」、新しい成長が求められている「時の利」を活かした産業とは何か? 青山氏は行政・企業との議論を重ねました。
響灘埋立地は、近隣に港湾施設があり、工業用水に恵まれ、地区内には廃棄物を適正に処理できる処分場がありました。また、長年にわたり「ものづくり」を支えてきた人材、産業が集積していました。企業側は、これまで培ってきた技術を活かした環境エンジニアリングの検討を進めていました。一方、国では循環型社会の構築に向けた取組みが検討されつつありました。
こうしたさまざまな動きをつかんだ結果、「ものづくり」から出される廃棄物を回収し、それを資源として再生・再利用する新たな「ものづくり」を進めることとなりました。環境産業政策「エコタウン構想」の誕生です。
こうして新たな「ものづくり」はスタートしましたが、青山氏は廃棄物の価値を認めてもらうためには環境産業を広く浸透させることが必要だと考えました。そのため、全国的な取組みとして展開することや、さまざまな産業で未利用資源活用やリサイクルに取り組み、地産地消型産業を育成し、地域づくりを進めることに取り組みました。
全国には建設業を担う多数の工務店があり「地場企業」として活躍しています。こうした工務店の新たな価値創造につながる国産材での家づくりへの取組みと連係し、その全国組織の支援や未利用資源を活用した自然素材の生産支援にも取り組むこととしました。国産材を積極的に活用することで、日本の森林の再生、循環型社会の構築を推し進め、地球環境の改善に寄与しよう、というものです。
土木工事の土留めは重要な基礎工事であり、土留めに使う資材は、安価で長もちするとともに、環境面でも優れた質をもつものが求められています。この視点から、日本古来の鋳鉄技術を活かした資材をつくることにも取り組みました。全国には中小規模の鋳物工場があり、リサイクルや品質改善に取り組むことで地産地消的産業を興すことができます。
青山氏は「土木業、建設業は自然界に直接働きかけ、影響を及ぼす産業であり、かつ資材の最終消費者であり、さまざまな資材調達・廃棄を行う。その技術者に『循環』の意識が根づけば周辺産業も大きく変わる」と言います。
2005年“自然の叡智”をテーマとした「愛・地球博」が開催され、青山氏は日本政府出展事業の環境ディレクターを担当しました。青山氏は「“公害を克服した国、日本”を展示するのではなく、新たな科学技術と日本人が古来から受け継いでいる“知恵・技・こころ”を融合させることによって、日本が環境分野で国際的な役割を担っていけることをアピールした」と言います。
わが国は経済的な豊かさに憧れ、その獲得を優先した結果、失ったものもたくさんあります。私たち技術者は、諸先輩の経験・教訓を活かしつつ、新しい豊かさを考え、新しい価値を創造する行動が必要ではないでしょうか。
「私たちの価値観を大きく転換すべき時期を迎えている」ということです。1990年代より地球温暖化が指摘されるようになり、食糧・エネルギー問題が国際的関心事となりました。また、本格的な人口減少時代に突入し、これまでの成長型の国土・地域づくりからの転換も、私たちの価値観を大きく変化させることになると思っています。
環境問題や人口問題など、私たちの価値観が大きく変わる今、自分たちの行動目標や価値観をしっかりともってほしい。土木技術者への要請は非常に多く、土木技術が世の中のさまざまな事象を動かしています。各要素技術の習得とともに、総合的なものの見方や、さまざまな知恵をアセンブルする能力を備えてください。
行動する技術者たち取材班
渡邉一成 WATANABE Kazunari (財)計量計画研究所都市・地域研究室 主任研究員
参考文献
1)末吉興一「北九州エコタウンゼロエミッションへの挑戦」、2002年10月、海象社
2)国土交通省「平成17年度建設副産物実態調査結果」、2006年12月
土木学会誌vol.92 no.10 October 2007
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第14回 「もったいない」を生業に!(PDF) | 327.81 KB |