平成27年度土木学会出版文化賞は以下の2作品に決定いたしました。
道路の日本史 古代駅路から高速道路へ
武部健一 著
中央公論新社 2015年刊
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【受賞理由】
本書は、筆者の高速道路整備の経験を原点とする道路史研究をもとに、古代駅路から現代の高速道路までの道路の歴史について書かれた道路通史である。
古代ローマ、東アジアの巨大道路網、シルクロードなど、世界の道路史を概観し、次いで日本の道路史について、律令国家を支えた七道駅路から述べている。中世の軍事の道路、関ヶ原以降の平和の礎としての近世の道路へと続く。近代の道路では、鉄道偏重の陰となった明治期の苦難の道路整備について述べている。
現代の道路では、筆者が道路技術者として関わった高速道路の計画・建設の経験の視点が加わっている。終章では、日本を支えたシステムとしての道路に対する評価、今後の道路のあり方についての筆者の持論が展開されている。
本書は、丹念に調査された過去の数多くの重要な文献に基づいて執筆され、全体を通じて一般の人に対して分かりやすく、興味深い道路通史に仕上がっている。これまで発表された筆者の道路史、土木史に関する数多くの著述の集大成でもある。筆者は「道路を見れば日本の歴史がよく分かる」と述べている通り、本書では、社会的つながりや、国家という政治母体の下で整備されてきた道路の計画、建設の背後にある道路史、そして日本の歴史が鮮やかに描き出されている。
本書は、道路史を通じて、土木がいかに社会に貢献したかを如実に描き出しており、高く評価される。
よって、ここに土木学会出版文化賞を贈呈する。
ようこそドボク学科へ! 都市・環境・デザイン・まちづくりと土木の学び方
佐々木葉 監修 真田純子・中村晋一郎・仲村成貴・福井恒明 編著
学芸出版社 2015年刊
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【受賞理由】
本書は、土木系の学科名として環境工学、社会基盤工学、都市環境デザイン工学などのさまざまな名称が用いられている現状に鑑み、それらを「ドボク」と表現して、その魅力や学び方について幅広いトピックを提供した一般図書である。総勢74名の先輩たちが、学科紹介、学校生活、ドボク的日常生活、ドボク体験、ドボク学生のハローワークについて96のトピックの形で想いを伝えるとともに、章の合間には「ドボクの魅力」として代表的な土木構造物の写真解説を加えている。
本書では、ドボクに関する幅広いトピックにつき、先輩たちから心のこもったメッセージが記述されており、ドボク系学科で学ぶ楽しさを多様なアプローチにより伝えている。これらの内容は、土木工学、土木技術がいかに社会生活と密接に関連しており、そしていかに社会に貢献するものであるかを如実に叙述しているものであり、高く評価される。また、土木構造物の写真解説を行った「ドボクの魅力」での歴史的な土木構造物の紹介なども、土木技術者ならびに土木工学に対する社会の評価を大いに高めるものと考えられる。
本書は、ドボク系学科の特色と魅力を解説する入門書であるが、狭義の土木紹介という枠を超えて、進路選択に悩む中高生から大学生、さらには一般社会人に至る多様な人々への土木の広報の書として大きな役割を果たすことが期待される。
よって、ここに土木学会出版文化賞を贈呈する。