本書は、20世紀最高の土木技術者の一人で、土質力学の創始者である鬼才カール・テルツァーギ(1883-1963)の伝記である。彼の残した膨大な出版物や書簡、未公表の報告書、非公開の日記などをもとに、第一次大戦やファシズムの台頭、第二次大戦という動乱のオーストリアで生まれ育ち、その後世界で活躍した彼の波乱に満ちた生涯を、その成長過程や人間関係、研究上の挫折と成功等も交えて記した大著である。
偉大なる研究者・技術者としての面に加え、彼の毒舌家ぶりや一時の感情に支配されて物事が不首尾に終わる時の愚痴など人間臭い面も紹介され、単なる「英雄伝」とはなっていないところも本書の魅力の一つである。
理論や実験だけでなく、現場を重視したテルツァーギの問題解決法を記した本書は、これからの土木技術者や研究者に対する啓蒙書ともなるものである。また、20世紀前半の欧米の技術や研究の様相、論文・書籍の執筆と学会の評価、賞賛、嫉妬など、彼を取り巻く研究者・技術者の人間模様をとりまとめており、土木史的観点からも高く評価できる。
和訳版は、訳者の土質力学に関する豊富な知識と経験、テルツァーギへの熱い思いのもとに翻訳され、訳者オリジナルの記述やデータも含めてより味わい深く仕上げられている。
以上より本書を高く評価し,ここに土木学会出版文化賞を贈呈する。
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