(邦題:日本の河川を甦らせた技師デ・レイケ)
上林好之 原著 Noriko de Vroomen, Pim de Vroomen 共訳 Walburg Pers 2002年4月初版発行
中村良夫 著 中央公論新社 2001年5月初版発行
著者は高度成長期以来の日本の風景の激変期に、一貫して景観の研究と風景学の構築に携わってきた。名著として知られる『風景学入門』(1982年)の続編として書かれた本書は、一見散文的な筆致が前著と異なる印象を与えるが、著者の長年の経験と思索が凝縮された独自の風景思想の集大成であると言える。
著者は本書において、個人の内面において行われる風景の目ききという行為の内に存する創造性を指摘し、そこにこそ定型化したわれわれの風景観をゆさぶり、新しい風景を獲得する契機があると述べる。その主張は、著者自身の体験と思索を軸にして、また日常的な生活の風景を舞台として、あたかもエッセイのような穏やかさで淡々と綴られており、暖かさに満ちた著者の風景に対する眼差しが読者に伝わってくる。 随所に見られる難解な概念や表現が本書の理解をやや困難にしてはいるが、風景を眺めることの楽しみと奥深さを見事に描き出し、風景の改変に関与する土木技術者が備えるべき眼差しを示している点は、本書独自の優れた価値である。そしてこの価値は土木分野のみならず、都市や建築、造園などの他分野をはじめ、広く一般に通じるものである。 以上により本書を高く評価し、平成15年度土木学会出版文化賞を贈ります。 |