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【Web版第23回】 見える化技術による安全確保~「だれでも」「いつでも」「どこでも」自ら判断~

神戸大学大学院教授 芥川真一氏
芥川氏
芥川真一氏

 トンネルや開削工事の安全対策として、OSV(On Site Visualization)によるモニタリングシステムの研究を2006年から立ち上げ、ひずみ、変位、湿度、圧力など様々な変状を簡単な装置で光の色としてリアルタイムで表示する技術者の取り組み。


■■On Site Visualizationという新しいモニタリング

 計測機器の精密化、安全管理体制の高度化が進んでいるにも関わらず、トンネルや開削工事中の事故は存在し続けており、現状の安全対策とともに新たな安全管理方法が必要とされてきています。今注目を浴び始めている技術に、変状を簡単な装置で光の色としてリアルタイムで表示するOSV(On Site Visualization)という技術があります。これは、危険が迫った時「だれでも」「いつでも」「どこでも」その場から逃げるタイミングを自ら判断するモニタリングシステムです。今回の「行動する技術者たち」は、このOSVによるモニタリングシステムの研究を2006年から立ち上げ、ひずみ、変位、湿度、圧力など様々なデータの可視化に取り組み国内外のプロジェクトを推進している技術者、神戸大学大学院教授芥川真一氏を紹介します。

■■何をすれば安全と言えるのか

 岩盤・トンネル工学を専門としていた芥川氏が、現場での事故発生を防ぐ新しい安全対策を行わなければならないと感じた2つのトンネル事故(2003年長野県内、2005年青森県内)がありました。事故が発生した場合、何故その事故が発生したのかを専門家が検証します。芥川氏は「何故、日本でトップクラスの作業員や技術者が携わっている建設現場であるにも関わらず事故が起きるのか。ベストメンバーの目の前で史上最悪の事故が起きるということは何かが抜けている。この2つのトンネル事故は、安全対策を行っているにも関わらず事故は発生するということを現実的に見せつけられた事故だった」と振り返ります。何度も建設中のトンネル工事現場に足を運んでいる芥川氏は、掘削現場から離れた計測室にあるパソコンや専門技術者でなければ、建設現場の異常を知ることができないことに矛盾を感じていました。安全対策として抜けているものは何なのだろうか?事故が発生した時、原因を究明することも大事だが、危険をリアルタイムで認識できるということも大事なのではないだろうか?もし自分がその場にいたら、その瞬間に判らなければ逃げ遅れてしまう。いざという時に逃げるという「逃げる防災」が必要なのではないだろうか、誰が見ても危険を認識することができるシステムが必ずあるはずだ、必ずできる!と思い始めたのです。

取組み
図-1 芥川氏の取組み

■■LEDとの出会い ⇒ ヒントはUSJから
初号機での実験風景
写真-1 初号機での実験風景

 誰が見ても危険を認識できるシステム・・・何かないだろうかと考える日々を送っていた時、たまたまテレビで放送されていた純白のクリマスツリーに綺麗なLEDのカラーボールが滑らかに色を変えるUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のクリスマスツリーに目が留まりました。それを見た瞬間「これこれ!こういうやつ!これは絶対に使える!」と思いました。すぐにLEDについて詳しい大阪府立大学の先生を訪ね、OSVモニタリングシステムの開発を始めました。2006年当時、徐々に需要が高まり始めていたLEDは安価で手に入れることができ、初号機は学生と全て手作り、変状は7段階で色分けし、ベニヤ板を地滑り地形に見立てて実験しました。実験を進めるうち、シンプルかつコンパクトにシステムを作成してくれる企業が現れ、デモ機を30セット作成しました。このデモ機は小さな電池でも作動するため、常に鞄に忍ばせ様々な場所でPRしました。

■■現場での実用化
トンネルでの設置風景
写真-2 トンネルでの設置風景

 地道なPRの甲斐もあり、OSVモニタリングシステムの初めての実用化はトンネル工事現場でした。トンネル工事現場では、フルカラー発光ダイオードを用いて、変位量の大きさに応じて5段階で光の色を変化させ危険を作業員に知らせる「光る変位計」LEDS(Light Emitting Deformation Sensor)を設置しました。LEDSはトンネル内空の伸び・縮みなどの変形に対し、十分な硬さを持ったケーブルに10センチ間隔でLEDをとりつけ、任意の2点間の距離の変化をLEDの光の色に変換するものです。LEDSを用いることで、現在行っている、掘削作業時の切羽掘削後、支保工に測点を設け、計測担当者が現場で計測したデータを事務所に持ち帰り安全を確認するという制約が解消されるのです。

■■「光の色」は世界共通のメッセージ
2カ国語の説明ボード
写真-3 2カ国語の説明ボード
現地作業員への説明風景
写真-4 現地作業員への説明風景

 OSVモニタリングシステムは、その判り易さから2010年~2012年にかけ、インドの地下鉄工事現場(デリーとバンガロール)でJICA支援によって採用されました。計測機器は日本から搬入し、取り付け作業はインド人技術者と協力して行いました。光の色が変化した時の退避方法を英語とヒンディー語で説明したボードは現地作業員にも判り易いと好評で、300名程度の工事関係者が光に守られ、安心して作業を行いました。現地に赴いた芥川氏は、光の色は世界共通であり、このモニタリングシステムは国境を超えるのだと改めて実感することができました。今後はインドだけでなくベトナム等の東南アジア、そしてヨーロッパなど世界各地で使用されるようになるのではないでしょうか。

■■無限に広がる可能性

 2006年に神戸大学で研究が始まったOSVモニタリングシステムは、現在OSV研究会として産・官・学・民からの組織など60社以上もの会社が参加しています。参加企業は建設業だけでなく、化学、機械、電子部品、測量、印刷、繊維など多種多様です。芥川氏は、面白い特徴を持った現象や材料を見つけるたびに、「どうやったらこれを工事現場や生活空間の安全性向上のために使えるだろうか?」と問い続けているそうです。多種多様な異業種との連携は、土木技術者が思いもしなかった「だれでも」「いつでも」「どこでも」自ら判断できる安全管理システムの開発へと繋がっていくのではないでしょうか。

オリエンタルコンサルタンツ 阿部玲子さんに聞きました!

阿部玲子氏
阿部玲子氏
――芥川氏はどんな人?

 英語におけるプレゼンテーション力がスバ抜けております。インド人もびっくり! 海外においてプレゼン力は必須です。海外では、いくらすばらしい技術を披露してもプレゼン力がなければその技術は伝わらない。OSVがインドで受け入れられたのは、その発想もさることながら芥川氏のプレゼン力も大きな要因です。インドのメトロ公社から信頼されており、今後も海外建設プロジェクトの安全向上のために要となる人物です。

――海外技術者のOSVに対する反応は?

 2010-2012年にかけてOSVはインドの地下鉄工事現場にJICA調査として導入されました。現在、OSVはJICAからメトロ公社へ受け継がれ、インド・バンガロール地下鉄現場で技術者・労働者・周辺住民が見守る中で稼動しています。工事現場においてOSVは安全のためにあるものと認識されております。


行動する技術者たち取材班
交久瀬磨衣子 Maiko KATAKUSE  株式会社環境総合テクノス 土木部

参考文献

1)OSV研究会ホームページ

2012.10.30

Web版 第21回~
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PDF icon 第23回 見える化技術による安全確保~「だれでも」「いつでも」「どこでも」自ら判断~(PDF)285.23 KB
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