令和2年12月23日
土木学会 原子力土木委員会
本委員会では、令和2年5月1日にレター「原子力土木に係わる基本的な考え方と今後の研究の方向性について」を公開し、委員会の今後の進む方向性を外部に示した。その中では、①客観性・公開性の一層の確保、②社会への積極的な情報発信、③自主的かつ多面的な調査研究活動の展開、を活動指針として掲げており、今後これらの項目を具現化する必要がある。原子力という社会的影響の大きな施設を対象としている本委員会においては、社会的説明性のためにも、②③の活動を行う前提として、「①客観性・公開性の一層の確保」が必要であり、継続的に取り組む必要がある。本資料は「①客観性・公開性の一層の確保」に関わる経緯と現状認識を示し、原子力土木委員会における今後の検討方針をまとめたものである。
東日本大震災後の国会事故調報告書(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会、2012)は、本委員会が策定した原子力発電所の津波評価技術(2002)を「電力業界が深く関与した不透明な手続きで策定された」ものと指弾した。事故調報告書ではその根拠として、(1)この津波評価技術(2002)では、研究費および審議のために土木学会に委託した費用を全て電力会社が負担していること、(2)委員会メンバーが電力業界に偏っていたこと、(3)議事録の公開が不十分であったこと、の三項目を挙げている(国会事故調報告書92ページ)。このため、原子力土木委員会では、平成25年度に委員会規則の改定を実施し、委員構成の電力比率(1)を1/3以下とすること(内規)、委員会議事録等をウェブページに公開すること(規則)を定めた。更に令和2年11月20日の委員会において、研究成果の責任および議決権の所在を明示する規則・内規改正を承認し、委員会活動の透明性、公平性を向上させた。しかし、第一点の「研究費および審議のために土木学会に委託した費用を全て電力会社が負担しており、公平性に欠ける」とした指摘については未だに直接的に答えてはいない。
日本国内においては、民間の電気事業者11社のみが原子力発電所を保有しており、原子力の諸問題を検討するためには、電気事業者および電気事業者以外の幅広い分野からの参加を得て、多角的な視点からの共考・協働が必要である。電気事業者が保有する原子力発電所の安全性を向上させるために研究費を出資し、安全性・信頼性の向上に努めることは、土木学会としての公益を重んじる立場と姿勢を崩さない限り、極めて正当な行為である。本委員会において電力会社が出資するという理由だけで研究費を拒絶し、研究活動を減速・後退させることは、「原子力施設の安全・安心の向上と学術・技術の進展に寄与するとともに、学会活動を通じて社会に奉仕する」という本委員会の目的に背くものであり、活動趣旨にそぐわない。
原子力に関わる研究に限らず、研究委託元(研究費出資元)に何らかの便益が生じうる研究を受託し、実行することは、他の広範な研究分野(医学、薬学、工学、農学など)においても見られるものである。このような研究実施体制下における研究結果の公平性・公益性を担保するために、近年は、『利益相反(責務相反)マネージメント』の導入が多くの公的研究組織で定着しつつある。土木学会においても、「土木技術者の倫理規定」の改定(平成26年)において、「公衆、事業の依頼者、自己の属する組織および自身に対して公正、不偏な態度を保ち、誠実に職務を遂行するとともに、利益相反の回避に努める」と、その重要性に言及している。さらに土木学会では2020年11月20日の理事会で、土木学会受注研究取扱規程を一部改正し、特定の個人又は団体の利益に係わるものでないこと(公益性、第3条2項)、利益相反に十分配慮すべし(第5条2項)との条項が新たに加えられた。国内諸大学や主要な公的研究機関では、受託研究を含む産学官連携活動における職員・研究者の利益(責務)相反関係の自己申告が義務付けられ、また利益相反⾏為防⽌規則や利益相反に関するセーフ・ハーバー・ルールなどが詳細に定められている。
当委員会において避けるべき利益相反は、個人的・組織的な利害を考慮することで公益を重んずる立場の専門家として行う判断に妥協もしくは偏向が生じ、その客観性が失われる状況である。委員会内規に記載された電力比率の制限は確かに委員会としての利益相反マネージメントを行う方策の一つではあるが、利益相反⾏為防⽌規則やセーフ・ハーバー・ルールのような、個々の内容に厳格に踏み込んで規定するものではない。このため事故調で指摘された第一点の指摘への回答は残念ながら未だに不十分な状況にあると考える。
事業者および学識経験者が積極的に原子力の安全性向上の議論に参加し、且つ、その成果の審議過程に公益性・公平性を確保するためには、土木学会や他学会、公的な研究機関等での事例を参考に、実効性のある利益相反マネージメント手法を委員会運営に取り入れていくことが求められる。これらの公平性確保の取り組みを継続することが「①客観性・公開性の一層の確保」、ひいては当委員会の社会的信頼性の向上に繋がると考える。
前述した震災後の経緯と現状の課題認識を踏まえ、原子力土木委員会として客観性・公開性・公平性の一層の確保のために、以下の取組を行うこととする。
(1)出版物の意見公募手続きについて、他委員会や他学会での動向を小委員会や幹事会で調査し、当委員会におけるふさわしい方法を模索する。
(2)出版物の審議過程について、他の委員会や学会での動向を小委員会や幹事会で調査し、出版物の性格に応じたふさわしい審議過程の確立を目指す。
(3)委員会参加者において、専門家として行う判断に妥協もしくは偏向が生じ、またその客観性が失われる可能性のある状況(利益(責務)相反)を避ける具体的方法を模索する。
(4)他学会等との情報共有、情報発信を積極的に進めるために、各小委員会から他学会の原子力土木に関連する情報を収集する。永続的に情報集約を実施するために、専門の小委員会を設置するなどの体制を検討する。
以上
(1) 国会事故調報告書は委員・幹事等の比率を問題として指摘しているが、最終的な議決権の比率が重要であることから、原子力土木委員会では電力比率を委員比率のみに適用した。
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レター「委員会活動の客観性・公開性の確保に向けた今後の検討方針」.pdf | 602.96 KB |