土木学会・電気学会 ICTを活用した耐災施策に関する総合調査団 (第三次総合調査団) 緊急提言
〜ICTを活用した耐災(防災・減災)施策〜
2011 年7 月13日
はじめに
これまで、土木学会では、日本都市計画学会や地盤工学会と連携して二回の調査団を派遣してきた。第一次調査は、極めて広域かつ多岐にわたる今次地震の被害状況とその内容・特徴を俯瞰的に把握し、今後の調査活動に反映させるために実施された。第二次調査は、復興計画の立案を支援することを目的に、現地調査を行い復興計画策定にあたっての基本的考え方、安全の再建、生活(居住)の再建、生業(産業=雇用=所得)の再建に関して提案を行った。
今回の第三次調査では、第二次調査の中で提案された「これまでの『防災対策』に加え、ハード面・ソフト面の様々な方法を組み合わせた『減災対策』(人命を損なわずなおかつ被害を軽減し復旧を容易化する)、二段階(防災+減災)の『総合耐災システム』の構築」について専門家による調査を行い具体的な提案をすることを目的としている。特に、現在の科学技術環境などを十分に踏まえた具体的方策を示し、復興計画に取り込んでもらうという視点から、計測・警報などのための情報通信・情報処理技術、津波や構造物の解析・シミュレーション技術、空間情報の収集・処理・提供技術、車の利用環境、ITS、パーソナルな情報デバイスなど現在の科学技術環境を踏まえた統合耐災システムのあるべき姿について、現地のニーズを踏まえて提案することが大切であると考えた。そのため、土木学会と電気学会が連携し、土木工学、土木計画学、交通工学、都市工学、電気工学、情報通信工学などの諸分野の学会を横断する形で専門家による現地調査を行った。
調査に関しては、被災地の状況の調査だけでなく、現地で災害対応に従事した国、県、市町村、通信事業の担当者、中央官庁で災害対応された担当者にヒアリングを行った。現場では、「人間の命を守る」ためそれぞれの組織の守備範囲の中で全力で災害と戦っていた点に強い印象を受けた。現場の担当者の方々の奮闘と努力には頭が下がる思いである。また、災害から3カ月が経っており、各組織とも災害対応を客観的に振り返り、何が上手くいき、何が上手くいかなかったのか、今後の教訓とすべきことなどについて冷静に分析を始めていたこともあり、これからの被災地域の復興にすぐに反映させるべき対策や今後予想される地震に対して備えるべきポイントについて具体的に提案を頂いた。
現場の声からは、「耐災(防災・減災)」という対策を検討する上で、「インフラストラクチャ」のあり方についてもう一度考え直す必要性について意見を多く頂いた。津波の検知、避難情報の伝達、避難所、避難路の確保など人の命を守るための様々なインフラに関しては、平時の効率性と災害時のリダンダンシー(冗長性)、集中処理と分散処理などのバランスを考えた再構築が必要とされている。いつ来るかわからない災害に対する備えとしてリスクマネジメントの考え方を導入して、いかにインフラを段階的に再構築していくか科学的知見に基づき日本全土で考え直さなければならない。
また、実際に災害が発生した場合に、人の命を守るためには、「逃げる」ことが大切であり、情報通信技術を活用し、災害規模の検知を早くすること、避難情報を早く多くの人に伝えること、救援活動・復旧活動に従事する人の情報共有などを実現することが必要とされている。しかしながら、重要な情報は主として公的機関が管理しており、これらの機関での情報の扱いや処理の方法が情報の質を決定している。今後、耐災用情報通信インフラを整備していくうえで、実際には住民に情報を伝える主要な通信網である公衆回線は、商用システムとして開発され運用されているということを忘れてはならない。
今回の経験から学んだ事は、災害時には多数の公的機関ばかりでなく、通信事業者を含む民間関係機関の相互連携が不可欠だったことである。例えば中央政府と地方自治体、民間関係機関と地方自治体などにおいて、多面的、重層的な相互連携関係が必要であることが明確となった。さらにインターネットの進展によって相互連携の前提となる情報共有が容易になってきたことから、新しい「耐災」の方法論を展開すべき時期に来ていると言えるのではないだろうか。
以上を踏まえたうえで、災害復旧状況を時系列的に整理し、それぞれの状況で要求される情報の内容が変化することに着目した上で、耐災のための情報通信技術活用のあり方、制度設計、新たな技術開発等について緊急提言として世に問うこととした。今後の復興活動へ反映させることをご検討いただくとともに、今後地震の発生が予想されている地域での導入、さらには世界各地に存在する地震の危険にさらされている地域への導入も含めて、本提言がたたき台として少しでも役立てば幸いである。
土木学会・第三次総合調査団長
川嶋弘尚