公開講演会(2021年度第2回原子力土木委員会第1部) 実施報告
原子力土木委員会幹事団
1.講演会開催情報
日時:2021年12月22日(水)13:00-14:30
場所:オンライン開催(Zoomウェビナー)
講師:松﨑伸一 様(四国電力株式会社 土木建築部長)
演題:「原子力発電所における確率論的地震ハザード評価 ~伊方 SSHAC プロジェクトの概要~」
概要:
原子力施設等における確率論的地震ハザード解析 (PSHA) を行う上で、評価の説明性や透明性を考慮し、役割と責任の明確化などの手順を定めた国際標準的なものとして米国のSSHAC (Senior Seismic Hazard Analysis Committee) ガイドラインがある。四国電力伊方発電所では、2015年1月、原子力リスク研究センター (NRRC) の支援を得て、現実に即したPRA (Good PRA) の構築に向けた先駆的な活動として「伊方3号プロジェクト」を開始している。同プロジェクトの技術的課題の一つである確率論的地震ハザード解析の高度化を図るため、SSHACガイドラインのLevel 3を国内初適用したプロジェクトを実施した。本講演会では本プロジェクトにおける苦労した点や工夫した点、後続地点に向けた今後の課題について議論された。
参加人数:214名
2.講演会報告
講演会冒頭で、原子力土木委員会中村委員長より開会の挨拶があり、続いて岡田幹事長より松崎氏の経歴が紹介された。
松崎氏の講演では、SSHACガイドラインの概要説明に始まり、プロジェクトの経緯、プロジェクトの成果、今後の課題といった順で説明が行われた。
SSHACガイドラインの概要説明では、確率論的地震ハザード解析に関する技術的な検討項目を規定するものではなく、検討手順(特に不確実さの評価に関する専門家の活用)の標準化に力点が置かれており、最重要な概念は「CBR of TDI (Center, Body, Range of Technically Defensible Interpretation):技術的に十分主張できる解釈に基づく中央、分布形、範囲」であることが示された。また、諸外国では規制要求によって既に評価が実施されていることが示された。
プロジェクトの経緯説明では、SSHAC Level 3の規定に基づき、プロジェクト体制として、SSC TI Team(震源に関する特性を評価するチーム:7名の専門家)、GMC TI Team(地震動評価に関する特性を評価するチーム:7名の専門家)、SSCとGMCによる議論と評価の技術的妥当性がSSHAC Level 3に準じているかを確認するPPRP(Participatory Peer Review Panel:5名の専門家)から構成されたことが示された。また、2016年のKick off Meeting以降、3回のOpen Workshop、SSCとGMCで各5回のWorking Meeting、1回のPPRP Briefing、数十回以上の準備会(非公式会合)を実施し、4年以上に亘る議論を経て2020年10月に最終報告書としてとりまとめられたことが示された(2020年11月、四国電力HPにおいて成果を公表)。TI teamに、WorkshopにおけるRE(Resource Experts)、PE(Proponent Experts)を含めると、総勢50名以上の国内外の専門家が本プロジェクトに参加したことが示された。また苦労話として、本プロジェクトのアドバイザーであったCoppersmith ConsultingのKevin Coppersmith氏から、会合はメンバー全員参加が原則であるとされたことから、メンバーの日程調整が大変だったことが示された。
プロジェクトの成果他の説明では、フィリピン海プレート及び内陸地殻内で発生する地震として6つの震源を想定し検討を進めた結果、一様ハザードスペクトルと新規制基準に従って策定した基準地震動を比較すると、基準地震動の年超過確率は概ね10-4~10-5であり、IAEA(国際原子力機関)やU.S.NRC(米国原子力規制委員会)の耐震基準に照らしても妥当な地震動レベルであり、決定論的に策定された伊方発電所の基準地震動が国際的な基準に照らして妥当な水準であることがSSHAC Level 3の導入によって明確となったことが示された。また、既往ハザード評価と伊方SSHACプロジェクトにおける一様ハザードスペクトルを比較すると、短周期側および長周期側において本プロジェクトにおける一様ハザードスペクトルが若干大きくなった結果の要因として、伊方のような硬岩サイトへの適用性が低いGMPE(距離減衰式)も採用するなど、不確かさを考慮する観点から多数の分岐を設定し、既往ハザード評価では104程度だったロジックツリーの分岐数が、1025~1026と過去に例がないほど膨大となっており、結果として、極低頻度ながらも非常にハザードレベルの高い一部の分岐の影響が表れるようになったことが示され、今後の課題とされた。
質疑応答では、最初に主にガイドラインに沿ってメンバーが議論を進めていく上での困難や、メンバーを選定する上での考え方について質疑が交わされ、後続機の評価に当たってのメンバーの選定の考え方も示された。次に本プロジェクトの成果の今後の使い方について質疑が交わされた他、ロジックツリーの分岐数が膨大になったことに対して苦労した点と今後に向けた改善策について質疑が交わされた。
質疑応答の最後には、本プロジェクトのProject Technical Integratorである亀田弘行氏から、ガイドラインで示された議論の枠組みについて、議論する技術を日本の技術社会はもっとマスターすべきであるとの意見がなされた。また、更なる安全性向上に向けた取り組みとしての地震PRAの具体化は、日本の原子力規制にとって、世界に対しての信用を得るためにも不可欠であるとされ、これについての見通しについて質疑が交わされた。