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【Web版第8回】 当事者だからできること~消えてゆく京町家(まちや)の保存のために~

京町家再生研究会 小島冨佐江氏
小島氏
小島冨佐江氏

 次々と消えゆく京都の伝統的な木造建築、京町家。
「一軒の家を100年残すというのは大変なこと」・・・町家に住む当事者としての視点から、住み手の生活をも考えた町家保存の道を語る。


■■見直される町家

 日本を代表する歴史と文化の町、京都。その道々で行き交う観光客の注目を一際集めているのが、伝統的な木造建築の「町家(まちや)」です。経済成長偏重と便利さへの傾倒が一段落した今、歴史と情緒の豊かな町家のよさは見直され、観光スポットとなるばかりでなく、自ら町家へ移り住む人も出てきました。しかし、そんな人気の中でも町家の数は減り続けています。
 今回紹介するのは、築110年を数える京都の町家に住み、地域とともに季節を暮らし、町家の保存再生に携わっている小島冨佐江氏です。

■■町家が消えていく

写真1 庭坪庭との気圧差で、
室内に風が生まれる

 通りがかりでも一見して分かる町家の魅力は、通りに面した正面が醸し出す京の雰囲気です。一方、住人である小島氏の挙げる魅力は、内部の開放的な空間です。通りから敷地の奥にまで通じる土間空間である「はしり」、家の中ほどにある「坪庭」、「座敷」とそこから見る庭。また、その奥にある裏庭は、季節の植物の宝庫でもあり、京都の街中に育つ子供たちの遊び場としても十分な環境です。またそれぞれに、防火や通風などの機能を有し、そこには先達の知恵が詰まっています。
 しかしなぜ、このように魅力的な空間を有する町家が、どんどん姿を消していくのでしょうか…。

■■残したいのに、残せない

 これらの魅力を引き出しながら生活するには、家や庭の日々の手入れに加え、建具替えや行事の準備など住み手の決まりごともあります。しかし、町家が消えていくのは、決して、住人がその様な生活様式を望まないからというわけではありません。実際に町家が消えていくのは、多くが相続、特に相続税に伴う問題からなのです。


写真2 坪庭小屋が埋め込ま
れていた空間を再生した例

 そもそも小島氏が京都の町家を残そうと決心したのは、小島氏自身が、この問題の当事者となったときでした。住み継ぐことはほとんど不可能と思われる事態に直面し、一方で関係者からはこの家を残してほしいという希望が寄せられ…、小島氏ら家族はとても平常心ではいられませんでした。皆が神経を衰弱させる状況を何ヶ月も経て、ようやく奇跡的に家が残せると決まったとき、それが小島氏の決意の時でした。「一軒の家を残すというのは、本当に大変なことだと思った。100年の歳月があれば、必ず浮き沈みはあり、順風満帆というわけにはいかない。しかし、だからこそ残したい」
 この当事者としての経験は、小島氏の京町家保存再生の行動の原点だったのです。建築の知識もなく、まちづくりの専門家でもなかった小島氏ですが、この後、当事者的なものの見方を通じて、穏やかな形で町家を残すことに力を注いでいったのでした。

■■住人だから分かる当事者意識

 町家に住む当事者には人生最大ともなりえる問題でも、住人にこのような苦労があることは、一般にはほとんど知られていません。また、当事者の方々も、問題の性質からか、声を大にして言うことはほとんどありません。だからこそ、小島氏のように、当事者として行動する人が必要なのです。
 小島氏が事務局長として携わる京町家再生研究会は、町家の魅力を発信するとともに、町家の再生、調査・研究を大きなテーマに活動しています。相続や改修などの相談も多く寄せられますが、この活動の中でも、小島氏は住人に町家を無理に残すことを勧めはしません。


図3 小島氏と町家のかかわり

 専門家はつい町家そのものの保存を第一に考えがちです。しかし小島氏は、相談に訪れた住み手の生活を含めて最も良い策を考えます。町家に住む日常に困難が出てきた住人には、楽に住めるように相談に乗り、修繕が必要になった住人には、より住みよい家になる工夫を一緒に考えます。また、過去に実施した町家の訪問調査でも、小島氏は同じ視線から住人たちと話をすることができたため、普通の訪問調査では得られないような実態を知ることもできました。
 またある時、相続の関係からどうすることもできずに売られていく町家がありました。そんな町家の多くは姿を消してしまうのですが、なんとその家は巡り巡って、小島氏らとともに活動する作事組に改修が依頼されたのです。「幸せな家。家が残りたいと言ったから残ったのだろう」小島氏は愛情深くそう言います。もし最初の持ち主に保存を押し付けてもうまくはいかなかったでしょうし、小島氏らの地道な活動がなかったら、新しい持ち主は現れず家も改修されることはなかったかもしれません。
 どんなに知識と技術のある人が町家の保存を考えても、町家というのは人の住む家であり、当事者はその家の住人です。小島氏の当事者の意識からの行動は、町家を残す道を切り開いてきました。それは、理屈ときれいごとだけで作られた絵空事の道でなく、一歩一歩、実現に向けて歩を進められる道なのです。

■■当事者の真剣さを見過ごさないで

 「当事者がどれだけ真剣に考えているかを、見過ごさないでほしい」小島氏はそう言います。
 一方で小島氏は、当事者としての意識を大事にするばかりではなく、自ら勉強会に飛び込み、大工さんについて歩き、町家については専門家に勝るとも劣らないほど知識を深めました。行動の幅はさらに広がり、古い街並みの修復が当たり前のイタリアの調査など、海外からもさらなる知識を吸収しています。
 このように、小島氏の行動は今でこそ幅広い取り組みになりましたが、はじめは町家に住む一人の当事者としての思いから芽を出したものでした。「よいものを残したい」、我々技術者もその思いがあるならば、技術に基づいた専門的な知識に加えて、渦中にいる当事者の意識を知ることが、その実現の道につながるのかもしれません。

京町家再生研究会 小島冨佐江さんに聞きました

――活動を通じて得たものは?

 当事者以外に様々な問題があることを、建築の「け」の字も知らずに飛び込んだ勉強会などで、いろいろな人に教えてもらいました。嫌がらずにどんどん出ていくと、分かってくれる人はいるものです。私は人に会わせてもらえたのが財産。怖いもの知らずでいいと思います。自分の力をかけられることが、きっと、ひとつくらいあるはずです。

――これからの活動は?

 町家が絶対のものとは言いませんが、「便利だから」「きれいだから」で、古いものを否定してしまっては、せっかくの日本人の感性がつぶれてしまいます。だからこそ、せめて京都の町家は残したいです。法をはじめとする制度を見直して、あるものを活かす知恵を出していくこと、それは今の日本の技術力をもってすれば、きっとできるのではないでしょうか。


行動する技術者たち取材班
大橋幸子 Sachiko OHASHI  国土技術政策総合研究所 建設経済研究室 研究官

参考文献
1)小島冨佐江:京町家の春夏秋冬、文英堂、1998

2009.11.18

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