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海峡を挟んで市街地が形成されているイスタンブールの第2番目の架橋。技術者の努力と熱意で工期を短縮し、慢性的な渋滞を回避。
トルコ・イスタンブルは、ビザンティン帝国、オスマン帝国の首都として栄え、古くからヨーロッパとアジアを繋ぐ「文明の十字路」、「交通の要衝」と呼ばれてきました。現在、イスタンブル市(人口1,200万人)をヨーロッパ側とアジア側に分断するボスポラス海峡には、2本の海峡大橋が架かっており、トルコの大動脈として重要な役割を果たしています。
このうち1988年に完成した第2ボスポラス大橋は、日本のODAの円借款により支援され、日本企業を中心としたコンソーシアムにより建設されました。今回は第2大橋の施工計画から、現場における施工の責任者の一人として活躍された技術者、滝沢通明氏を紹介します。
1980年代のトルコ・イスタンブルでは、人口の急激な増加とアジア側の住宅開発、工業地帯形成に加え、中東地域から欧州地域への陸上輸送の増加により、ボスポラス大橋の日交通量は13万台を越え、交通容量を大きく上回り、慢性的な交通渋滞の問題を抱えていました。
当時の予測では、交通量は約10年で3~4倍に達すると予想され、急速に増大する交通需要に対応するため、トルコ政府は当時の最重点国家プロジェクトとして第2大橋建設を計画しました。
そして、この国家プロジェクトを1985年、日本の企業が建設することになりました。受注した日本の企業に対し、日本では7~8年はかかるであろう工期について、トルコ政府は、「何事にも優先して橋を早期に完成させることが必要だ」として、契約工期36ヶ月を、更にできる限り短縮するように要求してきました。
図 ボスポラス第2大橋建設の経緯
主に橋梁上部の施工計画を担当し、現場における施工管理責任者の一人であった滝沢氏は、発注者側のThe Engineerである英国人Dr.Brownの指導の下、トルコ側の工期短縮の要求に対し、知恵を絞りました。そしてさまざまな施工上の工夫により、契約工期36ヶ月を約6ヶ月も短縮することに成功したのでした。ちなみに、第2ボスポラス大橋の建設工期は、これまでの吊橋建設の中でも、最短の建設期間として記録されています。(→参考1)
日本では、下部工(アンカレッジ:吊橋を引っ張る巨大な重し)ができた後に、上部工(ケーブル:橋を引っ張るワイヤー)の施工に入ることが一般的でした。今回、そのアンカレッジの施工とケーブルの設置の作業を同時に行うことにより、工期の短縮を実現しました。アンカレッジが部分的に完成した段階で、ケーブルを少しずつ設置していくことにしたのです。滝沢氏によれば「目から鱗が落ちる」工夫でした。アンカレッジの施工とケーブルの設置を並行して行うことは、安全及び品質管理上の課題が多く、実現のためには相当な困難がありましたが、数多くの橋を手がけてきた日本の技術によりこれまでの常識を覆すことが出来ました。
基本設計段階ではストランド(ワイヤの束)は37本となっていましたが、ストランド一つ一つの太さを太くし32本にして、なおかつその配列を四角形に変更することにより、スピニング(ケーブル架線)の回数を減らして工期を短縮しました。四角形配列の場合、ケーブルコンパクション(ケーブルの束ね合わせ)において不利となることが懸念されましたが、事前検討の結果、問題のないことを検証し、設計どおりの空隙率で収めることができました。
主塔のボルト施工をする際、通常、外側に仮設の足場を設置し、施工後、撤去するということを繰り返していきます。ところが第2大橋の継手は、内側の引張りボルト構造であり、外部の足場が無くても安全上問題はないことが分かりました。そこで、主塔のパネル架設を内側のみから実施することで、足場の取り外しの時間を短縮し、外側の足場解体作業の危険性も回避することに成功しています。
以上のように、滝沢氏らは工期短縮を念頭に、細かな点まで施工計画段階から徹底的に議論・検討し、実施しました。その結果的に契約工期を約6ヶ月も短縮して第2ボスポラス大橋は完成したのでした。
歴史的にも親日的なトルコ人は、常に日本人に尊敬の念を持って接してくれます。そして、今でも多くのイスタンブル市民は、第2大橋を日本人が建設したことを憶えてくれています。第2大橋建設における日本の技術の貢献も両国の関係向上に寄与しているといっても過言ではありません。
現在の日本の技術に対する信頼や日本の技術者の海外での活躍を支えているのは、滝沢氏が発揮したような建設マネジメント能力が、今でも評価され信頼されているからではないでしょうか。
本州四国連絡橋での経験は蓄積されてきて、建設施工に関わる個々の技術は確立されてきたが、長大橋の施工を合理的に行うという建設マネジメントが当時は決定的に欠けており、The Engineerから指摘され、当時としてはカルチャーショックでした。今後、日本の建設業が世界で戦っていくには、まずコストを意識しなければいけない。品質を落さずに、コスト縮減するためには、工程短縮がキーポイントとなります。マネジメントされた工期短縮と品質確保は必ずしもトレードオフにならないということを、身をもって経験しました。
行動する技術者たち取材班
門間俊幸 Toshiyuki MOMMA 国土技術政策総合研究所 建設経済研究室 主任研究官
参考文献
1)大谷康史・森山 彰・薄井稔弘:吊橋上部工の工期に関する調査分析,第26回日本道路会議一般論文集,(社)日本道路協会,2005.10
2)石川島播磨技報:「Bosphorusプロジェクト報告」,1993.2
2009.1.16
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Web版第1回 工期短縮は知恵と工夫と熱意の結集~イスタンブル・ボスポラス海峡第2大橋建設より~(PDF) | 219.11 KB |
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