原子力土木委員会幹事団
日時:2025年1月17日(金)15:00-16:30
場所:オンライン開催(Zoomウェビナー)
講師:高橋 成実 様(防災科学技術研究所 連携研究フェロー)
演題:「津波観測から即時予測へ 地域実装に向けた取り組み」
概要:これまで海域観測網を用いた津波即時予測システムの開発に取り組み、地域防災に直結する現実的な津波の情報提供を考えてきた。このシステムは、観測した海底水圧データに基づき、津波の到達時刻、津波高、浸水深分布を予測、都度更新するものである。これにより避難所の孤立化や幹線道路のダメージなど、被災状況も推定可能になる。近年、津波の流体力から個々の建物の倒壊判定を通じて津波瓦礫の発生量を評価、漂流分布を可視化して、即時予測化した。一部では、この津波予測を用いた図上訓練も実施され、現実的な地域防災計画の策定にも貢献している。本講演では、これまでの開発と利活用事例を紹介し、様々な利用方法について考えたい。
参加申込者数:242名
講演会冒頭で、原子力土木委員会中村委員長より開会の挨拶があり、続いて中島幹事長より高橋氏の経歴が紹介された。
高橋氏の講演では、DONETなどの海域観測網を活用した地域向けの津波即時予測について、津波即時観測から即時予測する方法や、予測結果による防災行動の最適化を実施する一連の流れ、自治体における活用事例等について説明があった。
津波予測システムの観測網を補完するために、多様な観測データの取り込みができる仕組みを目指しており、ブイデータ、ドップラーレーダー、気象庁ケーブルデータ等の取り込みの他、電離圏変動検知研究との連携に取り組んでいることについて説明があった。
今後は、津波による浸水評価のほか、瓦礫の発生・漂流評価、高潮・洪水との複合評価も行える津波被害即時予測システムへと機能拡張し、これらの被害推定に基づく防災行動の最適化の仕組みを構築したいとの説明があった。
最後に、地震発生リスクの評価、広域の地殻活動活発化と地殻内応力変化把握、訓練による防災上の脆弱性の把握、リテラシーの向上、地域防災力の向上について、平時から実施していく必要性について説明があった。
上記の講演に対して以下のQAが行われた。
Q:津波水圧計の話の中で、ノイズ処理に苦労しているとあったが、ノイズ処理をすると津波周期等の情報についてはかなりリアルタイムに取得できるという認識で良いか。また、ノイズを処理したデータのことについても、ご教授いただきたい。
A:津波観測データはリアルタイムで入ってくるが、観測点によりノイズ特性が異なる。浅い場所では波浪の影響等で短周期のノイズが多く、短時間平均では十分にノイズを除去できないことがある。そのような箇所では閾値を上げて対応している。海底設置方法もノイズに影響を与える。DONETでは海底面に設置するが、S-netは水圧計と地震計が同じ供体に入るため温度の影響を受けやすく、高い温度が観測される。埋設型の場合、冷却効果が減少し、1500mより浅い場所では高温を示すことが多い。発熱が津波データに影響を与え、津波の振幅と一致する場合もあれば異なる場合もあり、これが問題となる。実際の観測では、東北地方で何度か津波が観測されており、ノイズ対策として周囲の観測点と比較することで極端な予測を避ける方針である。
Q:2点ある。1点目について、予測の際に断層モデルを複数設定してという発言があったが、断層モデルと海底地すべりの関係についてどのように考えているか。海底地すべりはランダムに発生すると思うが、どのように考慮するのか。2点目について、防災上の話で津波が来る前に揺れによって建物が被害を受ける場合について、どのようにモデルに取り込むのか。
A:1点目について、現在採用している断層モデルは、実際のプレート境界に近い深さのものと、海底から極端に浅い深さのものを含めている。具体的には、海底から5kmという浅いモデルでは、かなり大きな津波が観測される。地すべりが発生するケースでは、この浅い深度のモデルが対応する。地震によって発生した津波と地すべりによって発生した津波を合わせて一つのモデルを統合することは難しいため、異なるモデルを採用しても問題ない方針を取っている。観測点が何らかの津波を観測すれば、それに基づき津波を予測するが、津波の高さがさらに高くなって更新されれば、それに合わせて予測も更新する。 2点目について、このシステムの中では浸水エリアがどこまで行くのかという話にしている。摩擦係数だけで計算するケース、建物を置いて浸水するケースを比較したところ、浸水エリアの計算では、建物の有無で浸水面積に大きな差はないが、浸水速度には影響がある。河川堤防の影響の方が建物の有無より大きい。瓦礫については、地震起因と津波起因を区別して扱うのが理想的であり、技術的には可能であるが、250mメッシュで建物倒壊判定をするには精度向上が課題となる。個人情報や細かいグリッド計算の問題もあり、技術的課題と計算資源のバランスも考慮しながら今後検討する。
Q:利用している自治体として千葉県や和歌山県が例として挙げられていたが、開発されたシステムを使っている自治体はどれくらいか。また、利用ユーザーはどれくらいか。
A:運用方針については、すべての予測情報を運用するのではなく、ユーザーが必要な範囲で選択的に行う方針である。予測情報を第三者に提供する場合は、気象業務法に基づく許可申請が必要であり、防災科研は現状対応していない。和歌山県、三重県、千葉県では、県が予測情報を作成し、気象業務許可を得て、市町村へ流す運用を行っている。民間企業では自社内利用に問題はなく、中部電力浜岡原子力発電所の事例がある。また、香川県では地域運用を目指し研究や訓練を進めており、将来的な実装を視野に入れている。
Q:新たな海水面の変動を測定するブイの話があったが、これは今運用されているGPS波浪計と異なり、沿岸からかなり離れても観測できるという特徴があるのか。また、多様なデータの取りこみ・活用の話があったが、GPS波浪計のデータの取り込みも実施もしくは検討されているのか。
A:津波検知には到達時間と防災対策の時間を考慮する必要があるため、沿岸近く(海岸から約20km)に設置されるGPS波浪計よりも沖合で計測可能なブイによる観測を検討している。検知方法として、海底での計測やGPSによる波高(水位)観測が挙げられ、海底では波高(水位)データを音波で転送する技術が成功している。一方で、南海トラフ周辺では黒潮の速い流れによるブイの流失や沈みこみによる機器水没のリスクが課題となっているため、ブイの係留方法を改良している。津波の観測方法には、GPSで海面高を測定する方法もあるが、波浪による揺れで測定誤差が大きい課題が新たに浮上している。現在は海底装置からブイ、衛星へと海底水圧データを転送するところまで成功している。GPS波浪計の組み込みは可能だが、ノイズ特性の調査がまず必要である。また、ブイデータのほかにも、気象庁から発表される緊急地震速報も断層モデルの絞り込みに使えると考えている。沿岸に設置されている潮位情報も使用するようにシステムには組み込まれている。
Q:津波の避難訓練について、具体的にいくつかの津波の中からどのケースを選定して訓練を実施するかの判断は、自治体が実施するのか。全てのケースに対応することは難しいため、訓練に用いる津波の選定への関わり方について、ご教授願いたい。
A:図上訓練では、最も高い津波を想定し、最悪の被害ケースを基に訓練を実施する。訓練用データは、内閣府が想定するマグニチュード9クラスの11ケースに加え、他の研究者が提供するデータも使用している。訓練は、自治体の決定に従い、津波規模に応じた指示を出す形式で進行する。
Q:いま最も取り込みに力を入れているデータは何か。
A:リアルタイムデータの取得が最も難しい面がある。予測の精度向上のためには、断層の絞り込みが重要なポイントになるが、電離圏情報を使うことも考えている。また、陸域の地殻変動が浸水域の拡がりに大きく影響するため、この地殻変動を適切に考慮する必要がある。海底地震計のデータで隆起・沈降は上下方向の変位で観測されるため、海域での地殻変動の有無を断層モデル絞り込みに取り込んでいる。海底には傾斜があり、横方向に動いたケースでも上下に動いたように観測される場合もあるため、地殻変動の陸上観測点データの取り込みがリアルタイム伝送の改善に有効と考えている。
写真1 ご講演いただく高橋成実様
写真2 オンラインでのご講演の様子
以上
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