原子力土木委員会幹事団
日時:2023年12月21日(木)13:00-14:30
場所:オンライン開催(Zoomウェビナー)
講師:武村 雅之 様(名古屋大学減災連携研究センター 特任教授)
演題:「関東大震災から100年、真相から見える防災・減災へのヒント」
概要:
私は、30年間にわたり関東大震災について震災・復興の真相を明らかにすべく研究してきた。中でも、なぜ震源域から外れた東京が最大の被災地となったのかは最大の疑問であった。その真相を解き明かし、そこに隠された防災へのヒントを探る。また、その反省にたって帝都復興事業が行われ、首都としての品格を備え、防災上も完璧な街となったはずの東京が、なぜ今、首都直下地震の脅威に怯えなければならないのか、現代東京が抱える問題の根本原因とはなにか。それらの答えを探る中で防災への道が見えてきたように思う。昨今、防災意識の向上が叫ばれるが、市民の防災意識を向上させるためには、社会として根本的に変わらなければならないことがあるのではないか。関東大震災100年を機にみなさんと共に考えてみたい。
参加申込者数:216名
講演会冒頭で、原子力土木委員会中村委員長より開会の挨拶があり、続いて中島幹事長より武村氏の経歴が紹介された。
武村氏から、市民の防災意識を高めるための街づくりをメインテーマに講演が行われた。関東大震災の被害について、特に震源域から外れた東京が最大の被災地となった要因について説明があった後、その反省に基づいて実施された震災後の帝都復興事業について説明があった。そして、帝都復興事業における街づくりの考え方に照らし、現在の東京の防災上の問題点について説明があった。
関東大震災の被害については、東日本大震災の約10倍の被害であったこと、約10万5千人の死者の約7割が東京で発生しているが、その主な死因は火災であり避難者が持ち込んだ家財道具による延焼で被害が拡大したとの説明があった。
帝都復興事業については、関東大震災の反省に基づき、181の寺院の移転による空間的ゆとりの確保や、将来の地下鉄整備を想定し余裕を持たせた主要道路の幅員設定等、世界的にみても稀な大規模の区画整理を実施したが、帝都復興事業が成功した要因について「公共性」「国民的合意」「帝都としての品格形成」の3つが挙げられるとの説明があった。
現在の東京が抱える防災上の問題については、明治維新以降、防災を軽視し経済優先の街づくりを行った結果、木造住宅の密集やゼロメートル地帯形成、水辺の破壊、高層ビルの林立などにより再び地震に弱い街になってしまったこと、その結果、現在の東京には品格がなく、それを重んじる人もいなくなってしまったとの説明があった。最後に、防災意識を高めるには、市民が住みやすい街づくりを行うことや街を美しく品格を保つことが重要であり、それにより皆が街を守ろうという意識=防災意識が高まるとの説明があった。
質疑応答の時間においては、以下のような質問があり、各質問への応答がなされた。
Q:東京の再生に向けてどのような手立てがあるか。
A:まずは学者も一般の方も含め、自分の考えをしっかり発言するべきである。発言しない社会風土に問題があると考えている。特に、学会では発言しやすい雰囲気作りに努めてほしい。
Q:2013年6月に国土強靭化基本法が施行された。その中で起きてはならない事象,つまり想定外事象が示され,多岐にわたり,幾つかの水準での対応が必要となるが、街づくりにおいて想定外への対応としてどこまで考慮すればよいか。
A:長期的にものを考えないといけない。例えば、いま世界的にエネルギー消費の抑制が求められている時代にリニア新幹線のような膨大な電気を使用するものが必要なのか。原子力発電所の防潮堤についても、ますます巨大化しているが、それらが老朽化したときの対応については考えているか。目先のことばかりでなく、将来のことも含めて考えるのが本当の防災対策だと思う。大変ではあるが、皆で考えていかなければ解決しない問題である。
写真1 ご講演いただく武村雅之様
写真2 土木学会でのご講演の様子
写真3 Zoomでのご講演の様子
以上
添付 | サイズ |
---|---|
20231221_原子力土木委員会公開講演会実施報告.pdf | 1.5 MB |