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現在では当たり前のように言われている情報化施工やi-Constructionに繋がる技術開発。しかし、たった20年前にはほとんど関心を示して貰えなかった。そうした中、建山氏はどうすれば、土木の関係者に新しい技術として情報化施工が受け入れられるだろうかと常に考えながら講演活動を続けた結果、その技術は雲仙普賢岳の無人化施工へと繋がった。危険な場所へは機械が行き施工し、人の命を守る。この情熱と土木の技術開発が一体となった技術者の取組み。
国土交通省はこれまで、3Dマシンコントロールなどの情報化施工や、構造物の3次元モデルを使って設計・施工を行うCIM、ロボットを使った構造物の点検補修など、様々なICT(情報通信技術)関連の設計・施工・維持管理技術の導入や開発を進めてきましたが、2015年11月、「i-Constructionをスタートさせ、建設現場の生産性向上に向けて、測量・設計から、施工、さらに管理にいたる全プロセスにおいて、ICTの導入を前提とした新基準を来年度より導入する」と発表しました。 今回紹介する行動する技術者は、国土交通省情報化施工推進会議の委員長や国土交通省i-Construction委員会委員を務め、これらの分野のトップランナーである、学校法人立命館常務理事の建山和由氏です。
「土木の世界を志すきっかけは何でしたか?」との問いに、「物作りがとにかく好きでした。とにかく大きなものが大好きで作りたいと思って。土木の道に進もうと思ったのは高校2年の時だったかな」と昔を懐かしむように穏やかな表情で建山氏は話します。もともと技術開発が好きで、土木も新しいことにどんどんチャレンジしていく分野であればいいなと思っていた建山氏にとって、20年ほど前、不景気のあおりをうけ、建設業の求人が減ったこと、また、多くの建設会社が真っ先に技術開発の予算を削ったことを目の当たりにし、土木は技術開発が活発ではないのではないかと思った時期があったそうです。そこで、建山氏は当時、土木学会関西支部で問題点解決の為の自由な討論を通じて解決策を探っていこうとする組織FCC(Forum Civil Cosmos)の代表を務めていたこともあり、あえて他業界の方々と交流し、土木のことを技術だけでなく色々な局面から見ていくフォーラムを開催することにしました。土木の技術開発について、ある液晶メーカーの方が「液晶メーカーより土木の方がずっと凄いですよね。世界一長い橋とか世界一長いトンネルを作る土木の技術は凄い。僕たちは畏敬の念を持って見ていますよ」と言われたことがとても衝撃的でしたと建山氏は言います。しかし、他分野からのまなざしとは裏腹に、土木技術者向けに技術開発をテーマにしたフォーラムを開催しても参加者は非常に少なく、ほとんど関心を示してもらえない日々が続きました。現在では当たり前のように言われている情報化施工やi-Constructionに繋がる技術開発も最初は全く普及へとは繋がらなかったのです。建山氏はどうすれば、土木の関係者に新しい技術として情報化施工が受け入れられるだろうかと常に考えながら講演活動を続けました。そうした中で、雲仙普賢岳の無人化施工に出会いました。危険な場所へは機械が行き施工する。そして人の命を守る。雲仙普賢岳の無人化施工は20年間に渡ってプロジェクトの中で技術開発を行ってきました。建山氏は改めて、「一つの技術が受け入れられるまでに20年以上の月日がかかることもある、そして、土木の技術開発は、研究開発費を使って新技術を開発するというより、プロジェクトの中で必要な技術を開発し、磨いていく学問なのだ」と気づかされたと言います。しかし、これまでの流れを変えることは難しく、建山氏が思い描く仕組みを達成するには、まだまだ時間がかかると感じているそうです。
「建設業界ではよく耳にするようになった情報化施工ですが、日本の情報化施工は、欧米に比べると普及が遅れている面もあります。例えば、スウェーデンやフィンランドなどの北欧の国は日本と同じ位の面積ですが、人口が極端に少ない。そんな中で仕事をしていくには、省人化は当然のことであったのだろう。」と建山氏は言います。生産人口の減少を迎える日本で、情報化施工を行っていくために、何が必要で何が不足しているのか等を確認するため、建山氏は海外でも調査活動を行いました。
情報化施工というと日本では大きなプロジェクトでのみ行われている印象ですが、地方の小さな建設業者でも積極的に情報化施工を取り入れることができることが情報化施工の利点なのです。建山氏がある地方の建設会社の方に「企業のノウハウは企業にあると思っていたら、ノウハウは個人が持っているのです。だから、年配の技術者が辞めていくと会社の知財も失われてしまいます。そうなると若い人々への技術の継承もできなくなってしまいます。だから、私たちは上手く情報化施工を取り入れて、技術を継承してきたいのです」と言われたそうです。建山氏は「小さな建設会社でも積極的に技術開発を行う雰囲気になると、この業界も面白くなる。私の今の役目は、良いと思える技術や導入事例の情報を提供して、どんどん使って貰えるようにすることかな」と言います。
今後、日本は高齢化と人口減少が同時に進行し、推計結果に従った場合、30年後には生産年齢人口が現在の7割になる見込みです。生産年齢人口が減ると税収が減少し、インフラ投資予算の縮小へ繋がります。また、建設従事者の減少は、熟練技術者の不足も招くことになり、今後ますます増加する維持修繕・更新、災害対策の強化をはじめとする工事の増加に対応できなくなります。私たち建設業で働く者は社会に対して、将来に渡って安定的にインフラを提供していく義務があり、これらの体制を構築する必要があります。i-Constructionはそのような状況で始まりました。建山氏は、「今こそ、i-Constructionできつい、汚い、危険と呼ばれた3Kを給料、休日、希望の新3Kに変え、建設業の有する技術も1ランク上のものにしたい」と話します。
近年では、情報化やロボット技術が発達し、建設業はめまぐるしい発展を遂げています。新しい技術を開発し、取り入れ、色々な分野の技術や人々を吸収しながら、発展していくことができれば、建設業界は、ここで働く人々のみならず、多くの人々にとって面白く魅力的な業界になっていくのではないでしょうか。
―若手へのメッセージ―
現在は、高度経済成長の時代と比較すると安定期に入っており、新しいことをしようというモチベーションを持ちにくいかもしれません。しかし、今だからこそ、小さくても新しい流れを作りだすことが求められる時代と言えるかもしれません。これからは、技術開発に若手が積極的に参加してチャレンジし、自分で達成感を味わって欲しいと思います。また、現在の土木業界では、ICTやロボット技術が多く使われ始めていますので、大学で土木を専攻していなくても、土木の世界で働いて欲しいと思います。
交久瀬 磨衣子
Maiko KATAKUSE
『行動する技術者たち』取材班 株式会社環境総合テクノス 土木部 地盤技術グループ
(c)Japan Society of Civil Engineers