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「自分で考え、学習し主体的に行動することが技術者として最も大切である」そして「現場が技術者を育てる」をモットーに、常に現場を原点とし、ダム現場一筋30年間、様々な困難に積極的に挑戦し続けた技術者の取り組み。
我々の生活に必要不可欠な水。しかし水は時として命を奪うほどの凶暴なものでもあります。ダムは、生活を支えるための利水、そして命を守ってくれる治水として、我々の豊かな暮らしになくてはならないものとなっています。
今回は、入社以来32年間6つのダム工事に携わり、CMED会(ダム工事統括管理技術者会)の会長も歴任したダム建設のプロフェッショナル、高田悦久氏を紹介します。
高田氏の原点は常に現場であり、新たな技術への挑戦、発注者・施工者一体となって目標に臨む一体感、危険と隣り合わせの緊張感、そして、その中での得難い達成感が技術者を育てると明言しました。
宮ケ瀬ダムは、一級河川相模川水系中津川(神奈川県)に位置しており、堤高156m、堤体積は200万m3(東京ドーム約2杯分)と国内の重力式コンクリートダムの中でも最大のものです。高田氏はこの現場に約10年間、技術的な挑戦や工程短縮を計画・実行し仲間をけん引する立場として従事しました。
宮ケ瀬ダムでは、超硬練りのコンクリートをブルドーザーで敷均して、振動ローラーで締め固めるRCD工法を採用し、大量のコンクリートを、品質を確保した上でいかに早く打てるかという挑戦がありました。高田氏にとって、RCD工法は初体験であり、まずは施工中のダムに勉強に出向いたり、数多くの試験施工を行ったりと、この工法に対して自信を持つことから始めました。そして、発注者と検討を重ね、降雨時及び冬季におけるテントによる打設の継続、国交省が開発した、コンクリートを効率的に搬送する車載型インクライン等の新しい技術にも挑みました。その結果、月11.7万m3という近年最大の打設記録を樹立しました。このボリュームは、小学校のプール約300杯分に相当しますので、この挑戦がいかに困難なものだったかは言うまでもありません。
これらの成果を挙げることが出来たのは、「信念を貫くこと」と高田氏は言います。高田氏は、立場に関わらず、相手が誰であろうと己の信念を貫き、時には発注者の所長と熱く議論を交わしたこともありました。信念を貫くということは、発注者・施工者お互いに熱意や気力・体力が必要です。だからこそ、自然に皆が協力し一丸となり、助け合うことで、この挑戦の成功に繋がったと高田氏は言います。
今でも、当時の仲間の多くは「宮ヶ瀬でまた働きたい」という思いを持っており、土木技術者冥利に尽きる現場として心に残っているそうです。
胆沢ダムは、一級河川北上川水系胆沢川(岩手県)に位置しており、現在も施工中のダムです。高田氏は、この現場に所長として従事していました。この現場では、2008年の岩手・宮城内陸地震及び2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の二つの地震の被災を受けました。
特に、岩手・宮城内陸地震では、仮排水路上部の山が崩れ、余震が続く中でも排水を続けるため、崩落しそうな山の下で土砂を撤去する作業を行いました。現場を預かる身として、非常に緊張が走った時期だったと言います。
また原石山の道路が通行不能となったのですが、ここで高田氏は「1ヶ月で復旧する」と言う挑戦的な目標を宣言しました。ダムというビックプロジェクトであるため、世間からの注目度は高く、復旧に時間を要すれば、事業に大きな影響が生じるため、それを回避したかったからです。ここでは、1ヶ月という目標を、作業員全員に徹底させました。目標達成のためには、いかなる妥協も許さない高田氏そして全作業員の情熱により、1ヶ月で復旧することが出来ました。この現場では、現状(被災状況)を十分に把握した上で、挑戦的な目標を立て、常に闊達な意見が言い合える状態にして、課題点(今やるべき事)を共有することが重要であることを学びました。また、発注者、同僚、協力会社の作業員等、本当に仲間に恵まれたからこその成果であると高田氏は随所で強調しました。
CMED会とは、ダムが好きで経験豊富なダム統括管理技術者という資格を持ったダム技術者の全国組織です。高田氏はCMED会の会長として、ダム技術の進歩、ダム現場の問題点解決のため、企業者との意見交換、現場見学会、技術の伝承等に取り組みました。
昨今においては、ダム不要論も湧き上がっており、高田氏は心を痛めているといいます。ダム協会やダム工学会とも協働して、防災への寄与やクリーンエネルギー供給等のダムの必要性について、一般の方にもPRし、説明責任を果たしていきたいと考えています。
ちなみに、CMED会のような業者を超えた組織があるというのもダム技術者の特徴であり、このような仲間の繋がりが深い点もダム技術者としての誇りでもあるそうです。
図1 高田氏の取り組み
我が国は成熟社会を迎えて、ダムに代表される大規模な公共事業が少なくなってきています。高田氏は今後、新興国へ日本のダム建設技術を輸出し、豊かな暮らしを提供することに挑戦したいと言います。そのためには、非常に激しい国際競争に勝ち抜かなければなりません。日本の企業は、建設コストの面では、他国に負けてしまうため、技術面で勝つしかありません。先述したRCD工法や、河床砂礫や掘削材といった現地発生材を有効活用するCSG工法は、他先進国より優れています。高田氏は、世界会議等で日本の素晴らしい技術をアピールし、海外に誇れる日本のダムを建設するため、日々行動しています。
取材を通じて、高田氏の対応力の素晴らしさ、人を引き付け、組織の一体感を作り上げる人間的な魅力には驚くばかりでした。そして、人との出会いを大切にしておられる方だと思いました。高田氏の言葉をお借りすると、「自分で考え、学習し主体的に動くことが技術者として最も大切なことである」ことが、技術者の原点であると言えるのではないでしょうか。
派手に見られがちだが、決して派手なことは何一つしていない。よく命がけとかとも言われますが、そんなこと全くありません。小さいことをコツコツ進めるだけです。それが終わってみれば、すごく大きなものとなっているのがダムなのです!
現在は、土木業界に限らず競争の時代です。まずは気力と体力はしっかり持つこと。そして、何事にでも積極的に挑戦し、失敗と成功を繰り返してほしい。自身の活動場所を広げるには、縄張りを作ることが大事です。つまり、自分が責任を持つものを多く持つことです。縄張りとは自分が守るべきものであり、自然と責任が出てくるし、人脈も広がる。これは非常にしんどい。そのためには、やはり勉強すること!若いうちに自分のベースを作り、縄張りを広げて、勉強をしないといけない状況を作ることが大事です。
行動する技術者たち取材班
大久保証文 Tsugufumi Okubo 株式会社エイト日本技術開発
渡邉一成 Kazunari Watanabe 一般財団法事(非営利)計量計画研究所
参考文献
1)ダム建設功績者表彰受賞者からのメッセージ ダム日本 NO.812
2)一般財団法人日本ダム協会 HP ダムインタビュー(5)
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第27回 飽くなき挑戦とチーム一丸!~ダム現場に育てられた技術者~ | 289.91 KB |
(c)Japan Society of Civil Engineers