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クリーンエネルギーとして利用されている液化天然ガス(以下、LNG)の貯蔵用地下タンク設計・開発に約33年前から携わり、LNG貯蔵容量の世界記録を更新し続けている技術者の取り組み。
H23.3.11東日本を襲う大地震、それに伴う津波、そして福島第一原発事故。この震災を機に国民レベルで今後のエネルギー施策について議論が始められてきました。そんな中、にわかに注目を浴びてきた液化天然ガス(以下、LNG)。LNG火力発電は低コストかつ環境負荷が石油や石炭に比べて少なく、そして世界中で確認されている天然ガスの埋蔵量は百年以上分といわれており、今後更に注目を浴びるエネルギー資源であることは間違いありません。今回の「行動する技術者たち」は、このLNGの貯蔵用地下タンク設計・開発に約33年前から携わり、LNG貯蔵容量の世界記録を更新し続けている技術者、清水建設土木技術本部副本部長黒田正信氏を紹介します。
国内で初めてLNGを貯蔵するための地下タンクが誕生したのが40年ほど前。容量は1万klでした。当時、-162℃のLNGを地下に貯蔵するという発想自体は既に海外にありましたが、その技術は凍らせた地盤に穴を掘って、そのままLNGを貯蔵するものであり、地下にRCの躯体を構築して貯蔵するというコンセプトは、世界の何処にもない発想でした。そのため、日本初のLNG貯蔵用地下タンクの施工は試練の連続だったそうです。
その後貯蔵用地下タンクは、コストダウンを図るために、限られた敷地を最大限有効活用するための容量拡大化の時代に入ります。このような時代の真っ只中の1979年、黒田氏は初めて貯蔵用地下タンクの設計・開発に携わりました。
初めて携わった貯蔵用地下タンクの容量は13万kl。当時の世界容量記録6万klから、2倍以上も大きい新たな世界最大容量記録への挑戦の時です。
当時最も苦労したのは連続地中壁をいかに精度良く、円筒形に造るかであったと黒田氏は振り返ります。短冊状の地中壁を縦に連続させていく際に、少しでもずれが生じると偏圧が掛かり壊れてしまいます。このため、100m掘ってもプラスマイナス5cm以内の誤差となるような掘削技術を開発しました。その後、コンクリートを隅々まで充填するための流動性のあるコンクリートや、コスト削減のためにコンクリート厚を薄くするための高強度連壁(設計基準強度51N/mm2)も開発しました。
この開発によって無支保工で一気に床付けまで掘削が可能となり、大幅な工期短縮、コストダウンが図られるようになりました。
このように世界最大容量の貯蔵用地下タンクへの挑戦から数多くの新たな技術開発が産まれたのです。
これらの技術開発の過程には、黒田氏の「分からないことは実験や研究で納得いくまですべて明らかにする」という強い思いがありました。そもそも前例のない世界最大容量の貯蔵用地下タンクを造ろうとしているのです。当然基準が何もないものもあります。また、マニュアルや示方書に基準が記載されていたとしても、それが適用範囲内にあるかどうかが分かりません。そのため、本当にこの基準を適用して良いのかどうか、この基準の根拠が何に基づいているかを徹底的に調べました。そして、適用できない場合、もしくは適用の可否が判断つかない場合はとにかく実験・研究です。コンクリート標準示方書にある「高さ1mを越える大型RC構造部材のコンクリートせん断強度のスケール効果」などは、この実験の中で明らかになった成果が根拠となっています。
この既成の枠や常識に捕らわれず、納得するまで追究する探求心が、土木学会の標準示方書の新たな基準や他分野(明石大橋や東京湾横断道路の川崎人工島)において幅広く展開されるような数多くの新技術を生み出してきたのでしょう。現在、社内の土木系教育専門委員長でもある黒田氏は、若手社員に「マニュアルを超えろ!」と話をするそうですが、まさにこれらの基準や新技術がマニュアルを超えた産物ということになるでしょう。
図-1 新たな挑戦によって得られる相乗効果
日本列島改造論の時代、これからは土木・建築の時代が来る、そして何よりモノを造りたいとの思いから土木技術者を目指した黒田氏。「モノづくりは、創造性を刺激されるので毎日が楽しい。いつも時間が経つのが早い。」とまるで初めてモノづくりに携わった新入社員のように目を輝かせながら笑顔で話します。常に世界最先端を走り、そしてこれらの技術が他の分野で数多く展開されているという自負がそのような気持ちにさせるのでしょう。
現在黒田氏は、また新たな貯蔵用地下タンク世界容量記録(25万kl)に挑戦しています。場所は横浜市扇島。25万klは家庭の年間使用量の約36万軒に相当する大きさです。深さ61.7mの貯層内を上から見ると奈良の大仏様がすっぽり入ってもまだ余る大きさであり、作業員や機材もまるでミニチュアのようで、足がすくんでしまいます。また、中から上を覗くと、都会の喧噪を忘れてしまいそうな静けさと、巨大なコンクリートの側壁に押しつぶされそうな圧迫感を感じます。このスケール感とは対照的に、タンク内部では高度でかつ繊細な技術が多用されていました。これらの説明を一つ一つ聞くと、「マニュアルを超えろ!」という既成の枠や常識を超えた探求心によって産まれた、一言では語り尽くせない数多くの誕生秘話があることを強く感じました。
我々技術者は、今一度自分が使用しているマニュアルの根拠は何かということを考えてみることで、これまで気付かなかった新しい発想が浮かび、新たな技術革新へのきっかけになることもあるのではないでしょうか。
「土木的には100万klまでは可能」という黒田氏の世界記録への挑戦は、マニュアルを超えるという思いと共に、今後のLNGの需要増大に合わせ、まだまだ続いていくことになるでしょう。
黒田さんとは、私が東京ガスに入社した1985年から30年近くのお付き合いです。
黒田さんは、地下タンクについて何が大事かを常に考えていて、正しいことは正しいと信念を曲げない人です。私も随分と苦言を呈されたことがありました。
1995年の阪神淡路大震災発生後の対応です。上層部から阪神淡路大震災級の地震に耐えうるLNG施設を造ることを命じられました。しかしLNGタンクはガス需要に応じて造っているため、工期延長できません。結論を出すまでに与えられた猶予は3ヶ月。当時、世の中には基準がなかったため、昼夜問わず調査、解析を行い、最終的には黒田さんが上層部へ説明までしていただきました。結局あの地震に耐えうるものを造るという我々の一枚岩の取組みを納得してもらい、何とか工期内に完成することができました。現在出されている基準を見ても、あの判断は正しかったと思います。
そしてあの時、割り切って考えていこうとして黒田さんによく怒られたことを未だに覚えています。
今後も知恵と力をお貸ししていただくと共に、これまでの経験等を伝承して、本当の意味での後任者を育てていただければと思います。
行動する技術者たち取材班
野見山尚志 Hisashi NOMIYAMA 株式会社 建設技術研究所 グループリーダー
2012.6.27
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第22回 マニュアル超えから技術革新へ~LNG貯蔵用地下タンク世界記録への挑戦~(PDF) | 266.35 KB |
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