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「チャレンジド(障害を持つ人を表す新しい米語)を納税者にできる日本」というスローガンを掲げ、コンピュータを使った在宅就労の支援を通じてチャレンジドに働く喜びや誇りを与え、働く意欲のある人なら誰でも障害の有無に関係なく就労のチャンスを得ることが出来るユニバーサル社会を目指し活動する取り組み。
場所は神戸の六甲アイランド。事務所があるフロアを歩くと多くのチャレンジドとすれ違う。チャレンジドとは、障害を持つ人を表す新しい米語であり、「神から挑戦すべきことを与えられた人々」「挑戦という使命、課題あるいはチャンスを与えられた人」という意味です。
社会福祉法人プロップ・ステーションは『チャレンジドを納税者にできる日本』というスローガンを掲げています。事務所で一際明るい笑顔を見せ、金髪のメッシュが入り、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2002」ネット部門や、米国大使館より「勇気ある日本女性賞」等を受賞している女性が今回取材するプロップ・ステーション理事長、皆から「ナミねぇ」と呼ばれている竹中ナミ氏です。
竹中さんがチャレンジドの自立を考え始めたのは、娘麻紀さんの誕生がきっかけでした。現在38歳になる麻紀さんは「重症心身障害」であり、視覚は光を認識できる程度。竹中さんは「うちの麻紀は永遠のベイビィー・タイプ、私の究極の片思いやね」と、とても愛おしそうに話します。その表情からは子供のためなら何でもできるという母親としての強さと優しさが伝わってきます。さらに、竹中さんは「私は、私が死んだ後、麻紀が生きていける世の中を作りたいだけ。そういう意味では単なるオカンのわがままやね」と語りますが、そのわがままこそが、多くのチャレンジドに就労のチャンスと誇りを与える原動力となったのです。
まず、チャレンジドを納税者にするには、健常者の社会に飛び込んでも働くことができる“武器”が必要でした。そこで、全国のチャレンジドにアンケートを取ることにしました。アンケート結果を見てみると、仕事をしていない人の80%が就職したいと考え、そのうちコンピュータ関係の仕事をしたいという人が47%でした。つまり、多くのチャレンジドがコンピュータを使った就労を希望しており、適切な支援さえあれば在宅で仕事を行い、自立できると考えたのです。しかし、プロップ・ステーションを設立した1990年当時は世間でもまだパソコンがそれほど普及しておらず、まずはパソコンやソフトを調達することから始まりました。そして、調達を終えると、チャレンジドが参加できるパソコンセミナーを開催したのです。
どんなにセミナーを開催してチャレンジドが技術を習得しても、働く機会を得ることができなければ、チャレンジドが納税することはできません。仕事を得るという事、チャレンジドを納税者にするという事は、成果品が趣味程度の物であってはなりません。もちろん定められた納期も守らねばなりません。発注者が完成度の高い成果品を望むことはチャレンジドに対しても、健常者に対しても同じです。循環型社会を築くためにはチャレンジドが企業から仕事を受け、企業のニーズに応え、適切な報酬を得る、「チャレンジドだってこんなことができるんやで」という成功モデルを親も含めた社会に提示することが重要なのです。
チャレンジドが行う在宅ワークは、画像作成ソフトを使った絵本の作成やホームページ作成、紙資料のデータ化とネットワーク化等、活躍する場は広がりつつあります。さらに、現在新たな取り組みとして「スウィーツで活躍するチャレンジドを生み出そう」というコンセプトで「神戸スウィーツ・コンソーシアム(略称KSC)」を開催しています。これは、一流の講師を迎え、パンやケーキ作りの講習会の模様をインターネットで全国の施設や作業所に配信し、チャレンジドが会場に足を運ぶことなく就労するための技術を学ぶというものです。
障害者基本法が昨年7月に改正され、法の目的が「障害者の福祉の増進」から「互いに尊重しあって共生する社会の実現」になりました。この改正はチャレンジドが福祉の受け手ばかりではなく、自らが納税者となり主権者となることを意味しており、竹中さんはこの法改正にも深く関わっています。法改正で議論となった一つに教育がありました。どんな障害があってもきちんと教育が受けられ、チャレンジドが学校で一緒に学ぶということは、現在生じている就労時の障害を低くすることに繋がります。今や当たり前のように男女が同じ職場で働いていますが、これらが実現したのも1986年に男女雇用機会均等法が制定されてからのことです。男女雇用機会均等法も1997年の全面改正を経て2007年に再改正されています。女性が就労のチャンスを得たように、チャレンジドも大切な社会の担い手として、共に働けるようになることも竹中さんが目指す共生社会です。
「私がコンピュータを使ってチャレンジドの就労を支援するのは、単にIT技術者を育成するためじゃないし、世の中の人々は、チャレンジドに対して、この人たち気の毒やなぁという憐れみの優しさを抱くのではなく、この人たちが何かできるように手伝ったろとなって欲しい」と竹中さんは言います。竹中さんが目指す姿は、働く意欲のある人なら誰でも障害の有無に関係なく就労のチャンスを得ることができる社会です。このユニバーサル社会を実現するためには現在の社会制度や仕組み、循環型社会へ向けての税制の確立、チャレンジドに対する世間の認識、これら全てを変える必要があり、社会資本整備の面からもバリアフリー環境整備として、駅や道路、信号、建築物の整備を行い、人々が住みやすい町づくりが広がっています。
日本での雇用形態は出社する、通勤するということが一般的ですが、チャレンジドではこの日常的な行為が驚くほど大きな壁となります。近年日本でもサマータイム、在宅勤務など様々な就労形態が現れました。これは、就労形態を考え直す良いチャンスではないでしょうか。
また、日本は未曽有の人口減少・少子高齢化時代に差し掛かりました。「子供やお年寄り、そしてチャレンジドも含めた、皆が元気に活動できる社会・地域をつくる」私たち技術者は、これまでの固定観念にとらわれず、どのような取り組み・行動をすべきなのかについて再考すべき時期を迎えているのではないかと思います。
行動する技術者たち取材班
交久瀬磨衣子 Maiko KATAKUSE 株式会社環境総合テクノス 土木部
参考文献
2012.4.24
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第20回 チャレンジドが誇りを持って働ける社会へ~ICT技術が拓くユニバーサル社会~(PDF) | 287.63 KB |
(c)Japan Society of Civil Engineers