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GPS、デジタルカメラ、センサー、ICタグなどの情報技術を、時代に先駆けて土木分野に活用。社会に貢献する技術が、土木の市場を広げた。現代の土木分野における情報化の立役者。
パソコン、カーナビ、デジタルカメラなどかつては珍しかった電子機器が、今では我々の日常生活の中にすっかり溶け込んでいますが、土木の施工も世の中の情報化に呼応して、建設機械の自動化やパソコンやGPS、ICタグなど新しい情報技術の利用など、生産性の向上や品質確保につながる目覚ましい進展を見せています。
今回ご紹介するのは、情報技術に精通し、現代の土木分野における情報化の立役者でもある高田知典氏です。
高田氏と情報化施工の関わりは、まだ世の中にパソコンが普及する以前の昭和53年、寒河江(さがえ)ダムのフィルダム工事管理システムから始まりました。情報化施工の原点とも言えるこのプロジェクトは、測量、出来高、重機の管理、土質土工の品質管理から、工程計画や就労管理まで、当時別々に収集していた重要な情報をコンピューターで一元的・効率的に管理しようというものでした。
写真2 日報作成装置 |
写真3 センターコンピューター |
寒河江ダム写真集(建設省東北地方建設局、1991)より引用 |
「何でもやってみたい」そんな性分の高田氏は、入社2年目からこのシステムの開発と現場導入に携わることになります。まだ情報化施工という言葉が世の中に出始めたばかりの頃で、やること何もかもが日本で初めてのことばかり。現場に用意されたハードウェアは、巨大なドラム型HDDのコンピューターや、日本で初めて使われた光波測距儀(当時1台1000万円!)。マニュアルはすべて英語で、トラブルが起きて呼び出されても、誰も助けてくれる人はいませんでした。
同僚にも、発注者にも、関連業者の人にもなかなか理解されず、時には「おまえ何やってんだ?」と異端児扱いされながら、また自身も「なぜ土木屋の自分が2万ステップのプログラミングを?」と自問しながらも、システム開発に取り組みました。しかしながら、日本で初めて土木施工管理のシステム開発に取り組む高田氏のモチベーションは高く、結果として、これまで2週間かけていた出来高の計算が2、3日ではじき出せるなど、一元的に集約された情報は、効果的に活用され、現場がみるみる効率化されていくのを目の当たりにしたのでした。
その時高田氏は、情報の集約が新しい価値を生み出すことに魅せられました。寒河江ダムにおける工事管理システム開発のプロジェクトは、日本の情報化施工の原点であると共に、高田氏のこれからの行動の原点にもなったのです。
図1 高田氏と土木施工の情報化とのかかわり
フィルダム工事管理システムの現場運用から離れた高田氏が次に取り組んだのは、土木施工分野での情報技術の活用に関する研究開発でした。当時は、情報技術の活用に関する研究がまだ確立した分野となっておらず、自分で考え開発しなければならないプレッシャーと、先の見えない不安に追われました。
そんな折、一カ月の入院生活というアクシデントが発生しましたが、それまで情報技術を現場に生かすために突き進んでいた高田氏の考え方が、この期間に変化しました。「人一人の力は微々たるもの」そのことに気づくと、ゆったりと物事を考えることができるようになりました。将来を見据えて作った新しい技術が売れない時があっても、時には厳しい言葉を浴びせられても、耐えなければならないということが、自然と分かったのです。
その後、IT化が爆発的に進展した世の中で、高田氏は、現場と研究で培った知識と経験をもとに、施工現場での情報技術の普及に挑戦していきます。新技術の普及は研究開発の成果が現場で使えるか否かが重要なため、「やってみたい」だけでは進みません。しかし一方で、「やってみたい」がなければ何も始まらないのです。
高田氏が、時代に先駆けて取り組んだのは、土木施工におけるGPSやデジタルカメラ、センサー、ICタグなどの情報技術の活用です。今では当たり前のものとなっていますが、当時、土木分野への活用についてはノウハウも皆無で、いつも他業界の仲間に助けられました。また、自信作のシステムが使われなかったり、現場で担当者に怒られたりなど、様々な苦労がありましたが、こうした技術普及を通じて分かったことは、「社会に貢献する技術のみが普及する」ということでした。
写真4 GPSリモート監視システム (火山の挙動を遠隔地で監視) 冬期に雪を被っても稼働を続けた |
写真5 MEMS(※2)を内蔵した リサイクル杭(斜面変位 監視システムの一部) |
どちらも高田氏が開発に携わった技術(写真は高田氏提供) |
土木分野で必要な技術は、土木技術者だけで生み出すことはできません。「だからこそ通訳のような存在が必要」と高田氏は自身の存在をそう言います。
さらに、「土木業界では、自分たちが作り上げた技術を他業界に広げようとしない。情報化で広がった市場を他分野にとられている。これはもったいない。」というのが高田氏の意見です。「まずはやってみようという発想で他分野へ出していくと、人が寄って来て、もっと安く、もっといいものになる。土木にはデファクト※1を引っ張っていくベースがある!」
何事にもチャレンジする高田氏の行動は、培った知識と技術が基礎となり、確実に土木業界を変えてきました。もちろん行動は今もなお続いています。
土木の世界には、社会に貢献する技術であふれています。我々土木技術者は、学び得た知識や誇れる技術をもって、もっともっと外の世界へ歩み出していくこともできるのではないでしょうか。
他分野の仲間と築き上げたWin-Winの関係。若いころは、通信や計測のメーカーさんを下請け扱いしてしまい、結果的にうまくいかなかったと反省しています。
業際的に取り組むことが大事です。産官学も土木の中だけで進めても実りません。どんどん外に出て行ってください。これまでGPSリモート監視システムや、MEMS※2を内蔵したリサイクル杭などの技術開発に取り組みましたが、他分野の仲間がいなければ、いずれも実現できなかったと思います。
◆ 健康であること
◆ 仕事は楽しくやること
◆ 家族を大切にすること
◆ 進取の精神を忘れないこと
◆ 「何事も分かりやすく」をモットーとすること
◆ 他分野・他産業の仲間を持つこと
◆ プロフェッショナル意識を持つこと
◆ ビジネスの視点を忘れないこと
◆ 自己啓発と人材育成に努めること
◆ 一応、高い理念を持ちましょう
行動する技術者たち取材班
大橋幸子 Sachiko OHASHI 国土技術政策総合研究所 建設経済研究室 研究官
参考文献
1)土木学会情報利用技術委員会土木情報ガイドブック制作特別小委員会:土木情報ガイドブック、土木学会、2007
※1 デファクト…デファクトスタンダード。事実上の標準
※2 MEMS…微小電気機械素子及びその創製技術
2009.11.18
添付 | サイズ |
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第6回 「やってみたい」が市場を広げた~異業種交流で進化する土木分野の情報化~(PDF) | 219.24 KB |
(c)Japan Society of Civil Engineers