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復旧に半年以上かかることが予想された未曾有の火災事故を、現場と関係者の調整を取り仕切り、早期復旧に奔走することでわずか73日間で工事を完了。
2008年8月3日の日曜日、午前5時52分。首都高速5号池袋線を走行中のタンクローリーが熊野町JCT付近において横転、進行方向左側の高欄付近で炎上しました。下層部で発生した火災による高熱のため、上層を支える構造物は、鋼主桁が大きく変形する等首都高を支える構造物が甚大な損傷を受けました。この過去に例を見ない甚大な構造物損傷により、一日に15万台以上の自動車が通行する都心とさいたま以北を結ぶ大動脈である5号池袋線及び中央環状新宿線が通行止めを余儀なくされました。
この未曾有の大規模構造物損傷事故は、復旧に半年以上かかることが予想されました。しかし、その復旧工事はわずか73日間で完了し、10月14日には全面開通に至りました。
この速やかな復旧の陰で、火災事故から復旧まで、現場と関係者の調整を取り仕切り、早期復旧に奔走された技術者がいます。今回は、首都高速における保全・交通部門の責任者として事故対応に取り組んだ、藤井敏雄氏を紹介します。
事故当日、未明に起きた事故の知らせを自宅で受けた藤井氏は事故発生から30分後の午前6時半には自宅から自転車で火災事故現場に駆けつけました。到着すると現場は未だ消火中で、火災事故箇所には本線から近づくこともできず、高架下の一般道路からの状況把握となりました。燃えさかる炎を見上げたその場で、藤井氏はこれまで交通事故による多少の通行止めを経験していた会社にとっても、経験したことのないとてつもない大事故であることを体感されました。
この現場の把握が、今後の初動段階で必要とされる判断に大きく影響しました。百聞は一見にしかずで、責任者として、この現場の状況を早期に確認できたことは大きな意味を持ちました。
都心とさいたまを結ぶ大動脈であるこの区間の通行止めは、首都高も含めた周辺道路に対して重大な影響を及ぼすことは容易に予測され、一刻も早い復旧が求められます。事故当日午前8時半頃には会社トップも含め集まり、その日のうちに通行確保と復旧対策の方針が議論されました。
事故後、保全・交通部門の責任者として、藤井氏がまずしなければいけなかったことは、通行止め及び復旧の目途(1車線暫定だけでも運用するかどうか)の判断と現場復旧対策の方針を決定することでした。
消火活動や警察の現場検証などが残る中での現場の調査から始め、通行止めをするか、1車線の通行が可能か、桁が熱で変形をしている状況でどのような復旧方法が必要かといったことを決定することが必要でした。
通行や復旧対策などの基本的な方針は事故当日のうちに決定され、同日中にその決定に基づく対策に速やかに移行しました。
対策として調整しなければいけないのは、関係機関への説明及び協力依頼、ユーザー(お客様)への広報、現場での請負者・資材等の手配でした。
関係機関への説明は、役員クラスで分担し、事故対策に携わる国、東京都、区役所、警察、消防などのトップへの直接の説明を早急に実施しました。これらの対応は早急な協力・連携が必要な関係機関との調整において、良い意味でその後の協力体制に影響しました。
また、殺到することが予想されたお客様からの問い合わせに対応するため、報道機関への広報を当日だけで3回、更に翌日にはマスコミに現場を公開し、会社の方から積極的に状況を報告しました。さらに多くの方への情報提供のため、事故当日にコールセンターを設置するとともに、ホームページや情報提供板、看板などによる情報提供を同時に行いました。復旧工事中には近隣住民の方々に、チラシによる工事内容や進捗状況の説明を随時に行うなど、情報提供の徹底に努めました。
藤井氏がこれらの対策を実施していく上で重視したことは、緊急事態に対し、現場や保全、広報などそれぞれの立場にいる人の顔を思い浮かべ、それぞれの人の技術的な経験とスキルを判断し、適材適所に置けているかということでした。幸いそれぞれの担当者を変える必要もなくこの事態を今の組織で乗り切れると判断した藤井氏は、現場や渉外担当など役割を明確に分担し、自らはそれらの調整に専念できました。
復旧工事については、現場責任者である管理局でおこないました。事故のあった西側の下層部に仮支柱を設置し上下線の1車線を確保した後、火災の熱により変形した西側上層桁や床版を撤去し、橋脚を補強しました。その上に新たな主桁と床版を設置し、西側の上下2車線を開放しました。その後残りの東側を作業帯として、上層部の主桁と床版の交換を行いました(詳しくは参考文献参照1),2))。
主桁の調達では普通の入札手続きでは半年以上は優にかかるなか、請負者による迅速な材料手配と製作がなされました。現場では首都高の担当者と請負者が日々深夜まで、打合せを重ね、24時間の昼夜連続作業や施工方法の創意工夫を行うことにより工事期間の大幅な時間短縮が可能となりました。こうした復旧に向けた関係者の努力の結果、半年以上はかかると思われていた復旧対策はわずか73日で完了し、10月14日には全線が供用復帰されることとなりました。
今回の通行止めでは、単に原状回復するだけでなく、復旧工事にあわせて、事故発生箇所付近のカーブ区間に注意喚起を促すカラー舗装を施すなどさらなる安全対策が実施されました。
藤井氏は、ITSなどの情報技術の活用も仕事とされていますが、今回のような大きな影響を及ぼす交通事故については、ドライバーの安全運転に対するさらなる意識向上が必要と考え、より積極的に、交通事故の削減に向けて「Tokyo Smart Driver」の取組みを行っています。これは、運転手同士が安全に運転するといかに気持ちのいいことかということをドライバーに気づいてもらうきっかけ作りで、ASVなどITSの取り組みにより道路や自動車の情報提供が高度化する中で、それを利用する人間の意識を変えていくことで、より交通事故を効果的に削減できるのではないかということから行われている社会運動です。
直接間接に関わる多くの人たちが、どのようにすればよりよく行動できるのかを考え、実践することで、困難な事態や難題にも対応していくことができるということを、藤井氏の行動は示してくれているのではないでしょうか。
行動する技術者たち取材班
門間俊幸 Toshiyuki MOMMA 国土技術政策総合研究所 建設経済研究室 主任研究官
参考文献
1)首都高速HP
2)桑野忠夫・増井隆・鈴木寛久・依田勝雄:首都高速5号池袋線タンクローリー火災事故の復旧工事,土木学会誌12月号p30-33,2008.
3)スマートドライバー(例えばキープディスタンス、ナイスウィンカー、アーリーブレーキ等スマートな運転を紹介。)
2009.5.21
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第4回 テクニカル・スキルとヒューマン・リソースで事態をのりきる~首都高速5号線池袋線火災事故からの復旧~(PDF) | 241.41 KB |
(c)Japan Society of Civil Engineers