原子力発電所の設計津波水位の標準的な設定方法を提案したものです.提案された手法の特長は,歴史的に過去最大の津波の波源を基に,津波予測の過程に存在する断層の設定誤差や数値計算誤差等の不確定性を考慮した上で,想定される最大規模の津波を評価します。これらの基礎となる地震や津波について,最新の知見を考慮します.この手法は国際原子力機関(IAEA)の基準に引用されています.
なお,「津波評価技術」は当時の最新の知見・技術に基づく学術的調査・研究結果をとりまとめた委員会報告です.民間指針等とは性格を異にしており,事業者に対する使用を義務付けているものではありません.
1993年北海道南西沖地震津波が発生を契機に七省庁による津波対策が検討され,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(1998)がまとめられました.これ以前では,原子力発電所において既往最大の歴史津波および活断層から想定される最も影響の大きい津波を対象に設計津波を想定していましたが,上記手引きの中で,「現在の知見により想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として選定するものとする.」と記載されました.
このような背景の中で,1999年,土木学会原子力土木委員会の中に津波評価部会が立ち上がり,津波の波源や数値計算に関して培ってきた知見や技術進歩の成果を集大成して,原子力施設の設計津波の標準的な設定方法をとりまとめました.この成果が「原子力発電所の津波評価技術」(2002)となります.(以下,津波評価技術2002とする)
「津波評価手法の高精度化研究-津波水位の確率論的評価法ならびに分散性と砕波を考慮した数値モデルの検討-(土木学会論文集B,Vol.63,2007)」(以下,津波高精度化研究2007)は,2002年度から2007年度に同部会が実施した,津波水位の確率論的評価,波の分散性と破砕を考慮した数値モデル,津波波力に関する調査研究について審議した結果をとりまとめたものです.「津波評価技術」と同様に事業者に具体的な対策を求めるものではありません.また,各事業者の対応については,情報を持ちあわせておりません.津波評価技術2002の策定後においても,津波の設定技術については,最近の発生事象を契機として発展しつつある分野であるため,これらの事象から新たに得られてくる種々の知見等を柔軟に取り込む必要があると考えており,津波評価部会は活動を継続しました.津波高精度化研究2007は,これらの成果をまとめたものです.