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1995年の阪神・淡路大震災、1999年の台湾大地震、2007年の新潟中越地震では、ガスインフラも大きな被害を受けた。 その経験と教訓から首都圏でも地震防災システムの整備が進んでいる。 地震防災システム「SUPREME」の開発から運用に携わった東京ガス(株) 防災供給チームの責任者(現(株)協和日成 取締役)清水善久氏の取組みを紹介する。 そこには、「ガスで社会を壊さない」という技術者としての強い思いがあった。
東京ガス(株)では、供給エリア内の4,000ヶ所(約1km2に1基)の地区ガバナ※すべてにインテリジェント地震センサ(SIセンサ※)を設置し、リアルタイムに収集されたデータをもとに、地震防災システム(SUPREME)を整備しています。 地震を感知すると被害推定を行って、ガス供給が自動的に遮断されるほか、遠隔操作による遮断も行う最先端のインフラ地震防災システムです。
今回は、新SIセンサおよび「SUPREME」の開発から運用にわたり、防災供給チームの責任者であった清水善久氏を紹介します。
清水氏は、東大土木工学科を卒業、スタンフォード大学留学後、東京ガスに入社。インフラの防災システムに関する研究、業務に従事していた清水氏は、1995年に発生した阪神・淡路大震災において、ガスインフラの大きな被害を目の当たりにしました。阪神・淡路大震災では、ガス供給停止まで15時間を要し、それをきっかけに、地震の揺れなどの情報をリアルタイムに収集するシステムの必要性を痛感することになります。
そこで、老朽化した地震センサ(旧SIセンサ)の交換に併せて誤動作/誤遮断「ゼロ」の実現を目指して、新型インテリジェント地震センサ(新SIセンサ)の開発に着手しました。新SIセンサは、地震時のガバナの自動遮断、地震動観測、波形保存、耐久性の向上だけでなく、突発的な地震時のみ確実に稼働する使命を持ち、自己診断機能、ノイズプロテクト機能による誤遮断の低減を実現することが求められました。
また、1999年9月21日大地震(台湾大地震)では、震源は台北まで150kmあったにもかかわらず、地盤の硬軟で近接地点でも揺れが3倍も違ったことから、確実にガス供給を遮断するためには、より高密度で地盤情報を考慮したシステムの必要性を感じることとなりました。これらの経験や出来事が「SUPREME」の開発につながります。
2001年7月に運用を開始した「SUPREME」では、地震発生後5分以内でセンサ情報を携帯電話回線で収集し、センサデータをもとに被害推定/液状化判定を行い、地区ガバナが自動的に遮断されるほか、必要であればセンターから遠隔操作でガス供給を遮断します。これにより、従来、大規模震災により40時間以上かかるものと推定されていたガス供給停止が、遠隔で10分程度に短縮されました。
「SUPREME」は、運用までにいくつもの課題がありました。特に、防災システムのキーテクノロジーである新SIセンサの開発は、社内の技術開発部門だけでは実現は難しく大きな関門となりました。そこで、清水氏は地震から得たデータと知見をもとに社内を説得し、社外に実績と技術力を持つメーカを公募することを決断しました。これにより採用したMEMS技術(Micro Electro Mechanical Systems)を使ったより安価で多点計測を可能とした新SIセンサの開発の成功が技術的なブレークスルーとなり、その後の防災システム開発が大きく前進することとなりました。
「技術力のある信頼できるメーカとの協働がなければ実現できなかった」と清水氏は振り返ります。清水氏は、はじめてフィールドテストが成功した時のことを「夢が進んだ一瞬」として忘れられない喜びだったと語ります。
清水氏の行動を支える基本的な姿勢として、工学的な取組みがあげられます。事実(データ)に基づいて説明する「学術的な観点を踏まえた論理思考」(ロジカルシンキング)を大切にし、仲間と課題を共有することが、必要の有無を判断する力の源になったと言います。データの収集による論理思考は、4,000か所のセンサデータと70,000本のボーリングデータをもとにした被害推定方法や液状化判定方法として実現します。
2007年には、新潟中越地震で復旧隊長として派遣され、危険を伴う復旧現場での的確な状況判断を求められる張りつめた作業の中で、「一日でも早く復旧しなくては!」という強い使命感を持つことになります。これら地震で得た経験や思いが工学的な取組みに加わり、改良を繰り返し、技術を進展する力になっています。
2011年東日本大震災では、想定被害と実際との差がなかったことで、今後の運用に確信と自信を深めることとなりました。
清水氏は、新技術の開発から社内基準の策定まで自分で決められる「夢のある仕事」に参画したいという気持ちが牽引力になったと振り返ります。その発言からは、「誰もやったことのない夢の実現」、「夢のあるプロジェクトであった」というトップランナーとしての強い思いを感じました。それが、後輩のモチベーション向上にもつながり、4人の学位の取得、成長に繋がることになりました。
仲間とのコミュニケーションが一番のストレス解消だと語る清水氏は、若い技術者には、「誰もやっていないことへチャレンジして欲しい」とエールを送ります。そのためにも、「やりたいことを明らかにして日々考えること」、「チャンスをつかむ臭覚を持つこと」を心がけてほしいとも。清水氏の「ガスで社会を壊さない」という言葉には強い思いと志が込められているのだと感じます。データに基づいた判断力と対応は技術者の原点であり、多くの後輩がその道をなぞっていくのだと確信しました。
現在、清水氏は想定される首都直下型地震に対応すべく「2020年ビジョン」を掲げ、早期復旧に向けた供給停止範囲の極小化、地区ガバナの遠隔再稼働システムの導入に取組んでいます。「2020年には、首都圏直下型地震が発生した場合でも30日以内の復旧を実現したい」と清水氏は語ります。早期復旧の実現は、世界で初めての夢のある仕事として、後輩に託します。
※ガバナ:「整圧器」ともいい、ガスの消費量の増減にあわせて圧力を自動的にコントロールする機器.工場から高い圧力で送出された都市ガスを、安全な圧力にして利用者に供給する装置。
※SIセンサ:地震時の最大加速度とともに、地震によって一般的な建物がどれだけ大きく揺れるかを数値化したSI値(Spectrum Intensity)を計測するセンサ。
清水氏はどんな人?
清水氏は、「無駄な仕事をさせない人で、それゆえ妥協しない厳しい人」です。メンバーと技術的な課題をとことん議論し、言うことは言うという雰囲気を作る、フラットな姿勢で誰にも接する人望のある人です。
歌も大変お上手ですね。
高田 知典
Tomonori TAKADA
『行動する技術者たち』取材班
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【Web版第45回】10分でガス供給を止める!~リアルタイム地震防災システムの開発~ | 301.45 KB |
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