2012年8月7日
公益社団法人 土木学会
会長 小野 武彦
土木学会の原子力土木委員会津波評価部会が2002年に策定した「原子力発電所の津波評価技術」1) (以下「津波評価技術2002」)に関して、福島原子力発電所事故に関する国会や政府などの事故調査委員会報告書において様々な記述が見られる。ここに改めて「津波評価技術2002」に関して、策定の経緯や特徴、今後の取り組みについて説明するものである。
1.当会は1999年に津波の評価技術の体系化についての研究を電力事業者から委託された*。これを受け、原子力土木委員会に学識経験者、電力土木技術者から構成される津波評価部会(主査:首藤伸夫、当時、東北大学教授)を設置して、1999年度、2000年度と審議を行い、得られた成果をまとめて報告書「津波評価技術2002」を策定した。同部会の電力事業者からの委員は原子力発電所の安全を担当する専門家であり、原子力発電所の計画・設計にあたって必要な数値や留意事項を実務者の視点から検討するために参加した。2)
なお、「津波評価技術2002」は、IAEA(国際原子力機関)やU.S.NRC(米国原子力規制委員会)にも引用されており、国際的にも認められた手法である。
*1993年の北海道南西沖地震津波による奥尻島の被害を受けて1998年に公開された「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(国の関連7省庁)で示されている「歴史津波による既往の津波痕跡記録のみならず考えうる最大級の津波を想定すべき」とする新しい考え方に基づき、当時世界中にも存在しなかった津波水位評価技術の体系化を目的としたものである。
2.「津波評価技術2002」は津波水位を推計するための標準的な手法を示したもので、大きく分けて推計計算に必要な条件の設定方法を示した部分と数値計算手法をまとめた部分から構成されている。
個別地点の津波水位は、「津波評価技術2002」により直ちに導かれるものではなく、本手法の利用者が対象地点に応じて、その時々の最新の知見・データなどに基づいて震源や海底地形などの計算条件を設定して、推計計算を実施することで推計できるものである。
3.津波評価部会は、「津波評価技術2002」の策定以降、津波という不確実な現象を確率論的に推計するための調査研究を実施して、その結果を2011年に報告書「確率論的津波ハザード解析の方法」3)として公表した。今後、この成果や東日本大震災等の地震、津波に関する最新の知見・データに基づいて、「津波評価技術2002」の改訂に向けて取り組んでいく。この取り組みは関連学協会とも連携して進めていくこととしている。。
1) 「原子力発電所の津波評価技術」(土木学会原子力土木委員会津波評価部会、平成14年2月)のPDF版はhttp://committees.jsce.or.jp/ceofnp/node/5 からダウンロードできます。
2) 「土木学会原子力土木委員会津波評価部会策定の報告書「原子力発電所の津波評価技術」について」(2011年5月10日、土木学会会長名)http://committees.jsce.or.jp/jsceoffice/node/36 においても同様の見解を示しています。
3) 「確率論的津波ハザード解析の方法」(土木学会原子力土木委員会津波評価部会、平成23年9月)のPDF版は、http://committees.jsce.or.jp/ceofnp/node/39 からダウンロードできます。