土木学会誌2020年5月号では、「自衛隊を支える土木技術」と題して、防衛省・自衛隊の山崎統合幕僚長を林会長が訪問し、自衛隊の災害派遣における活動状況、ならびに自衛隊における土木技術の役割や施設科部隊の活動についてお話を伺いました(土木学会誌5月号の記事については、こちらを参照)。
本ページでは、紙面だけでは紹介しきれなかった、陸上自衛隊施設学校(以下、施設学校)の訪問の様子や詳細な施設科部隊の役割等について紹介いたします。
自衛隊における土木技術の活用状況をより詳しく知るために、山崎統合幕僚長の訪問に引続き、茨城県ひたちなか市の施設学校を訪れました。施設学校は、陸上自衛隊の中でも環境整備のモデル駐屯地に指定されており、良く整備された美しい駐屯地でした。
施設学校では鵜居施設学校長から、施設学校の概要、施設科職種の国内外での活躍状況ならびに施設科が保有している各種装備について展示・説明等を受けました。
写真-1:陸上自衛隊施設学校
(2)施設科の概要等について
施設学校は、陸上自衛隊の施設科隊員の教育訓練や施設科の将来像を具体化する調査研究等を行っています。また、災害等が発生した場合、茨城県の民生の安定に寄与する任務も有しており、昨年の台風19号の際も災害派遣活動を行いました。
鵜居施設学校長との懇談後、施設科の概要と活動状況についてブリーフィングを受けました。
写真-2:林会長と鵜居施設学校長 |
写真-3:施設科について概要説明を受ける林会長 |
(a)施設科とは
施設科は、旧軍の「工兵」と呼ばれる職種です。日本における工兵活動の起源は武士による城壁の構築であるとされ、明治以降に発展を遂げた工兵は、土木、建築、鉄道・通信等の分野において技術力を発揮し他兵種の活動を支援する役割を担いました。
陸上自衛隊は、自己完結(自衛隊のみでインフラがない場所でも独立的に活動)できる組織で、戦闘職種、戦闘支援職種、糧食・燃料の補給、整備等を行う後方支援職種の16コの職種で構成されています。施設科は戦闘支援職種にあたり、特有の技術能力(陣地の構築、障害の構成・処理、道路や橋梁の構築・修復等)をもって、戦闘部隊から後方部隊までを支援する職種です。
施設科部隊は、施設作業車と呼ばれる装甲化されたドーザで障害を処理して部隊が通行できるように工事を行ったり、一般の建物を建築することも可能で、パイオニア(Pioneer) またはエンジニア(Engineer)とも呼ばれ、特有の技術を駆使して不可能を可能にする職種と呼ばれています。
写真-4:施設作業車による障害処理の訓練
(b)災害派遣
自衛隊は、年間約500件もの災害派遣を実施しています。その中でも施設科部隊は重機や架橋器材を保有しているため、大きな災害の場合は全国から集められて、道路の啓開、人命救助、行方不明者捜索、瓦礫の除去等の任務にあたっています。
東日本大震災の際には重機を用いて、災害救助を円滑に行うための道路の啓開や瓦礫の除去等を行いました。また、津波で流失した橋梁を応急的に復旧するために、「MGB」と呼ばれる人力で構築できる橋梁を構築したり、「81式自走架柱橋(81VLTB)」を構築して交通路を確保しました。また、「92式浮橋(ふきょう)」と呼ばれる浮き橋(門橋)を利用して、重機の運搬も行いました。
このように施設科部隊は特有の装備を活用して、災害時にも様々な支援を行います。
写真-5:東日本大震災時のMGBによる応急橋 |
写真-6:東日本大震災時の81VLTBの架設 |
写真-7:東日本大震災時の92式浮橋(門橋)による重機の運搬
(c)国際貢献
自衛隊の国際貢献活動は、カンボジアに始まり、東ティモール、ハイチ、南スーダン等で行われてきました。これらの派遣部隊の多くは施設科部隊で、今までに約6,000名の施設科隊員が派遣されています。道路や橋梁の構築、建物の建設等により、派遣対象国の復興の基盤となるインフラ整備支援を行い、規律正しく信頼性が高い自衛隊の活動は国際的に高い評価を受けています。
また、現在はPKO以外に能力構築支援や早期展開支援も行われ、6ヶ国に約680名の施設科隊員が派遣されています。能力構築支援はカンボジア、モンゴル、東ティモールに対して、これらの国が国連PKO活動に参加するために必要となる道路構築等の技術について教育を行って人材を育成するものです。すなわち、カンボジア等の国々が、PKOに参加するための人材育成を日本が支援していることになります。早期展開支援は、対象国が国連PKOに部隊・要員を早期に展開する能力を養成するため、重機などの操作教育等を行うもので、ケニアやベトナムに対して施設科隊員を派遣して教育を行っています。
さらに、施設科は国連PKOにおける工兵活動の基準となる「国連PKO工兵部隊マニュアル」を議長国となって取りまとめを行いました。これは、カンボジアから南スーダンにわたる派遣活動で得た施設科部隊に対する国際的に高い評価により、日本の施設科による活動が、国連PKOにおける工兵活動の基準として認められたということを意味しています。
写真-8:南スーダンでの道路整備 |
写真-9:カンボジア軍に対する教育 |
(d)部外工事
戦後、自衛隊発足当初から施設科部隊は、日本の復興を支えるため部外工事(土木工事の受託)という枠組みで、学校や運動公園の造成、道路の構築等を行い、地域社会の発展に貢献してきました。近年では年に数件程度に減少していますが、昭和50年代までは、年間数百件の土木工事の受託が行われ、地域に密着した基盤整備に貢献してきました。
以上のように、陸上自衛隊の施設科部隊は、戦後は部外工事(土木工事の受託)で日本の復興に貢献し、現在は国際貢献によって世界の国々の復興のためのインフラ基盤の整備や、そのための人材育成に貢献しています。
(3)装備の紹介
ブリーフィングの後、続いて施設科が装備している特殊な器材について展示・説明を受けました。
【92式地雷原処理車】
ロケット弾を発射し、敵が構成した地雷原を迅速に処理して車両用通路を開設する装備です。
写真-10:92式地雷原処理車
【施設作業車】
装甲化されたドーザで、対戦車壕・崖など、各種地形障害を迅速に処理でき、優れた機動性・防護性を有しています(写真-4)。
写真-11:施設作業車に乗車する林会長
【91式戦車橋】
第一線地域の少流・地隙等に迅速に架設して、戦車等を通過させる装備です。今回、実際に架設してもらいましたが、ほんの数分で橋梁を架設でき、災害等の際、応急橋梁の迅速な架設が必要な場合には十分活用できる装備だと感じました。
写真-12:91式戦車橋
【92式浮橋】
車両上に折りたたまれて積載された橋節を水上に滑り下ろすと自動で展開し、この橋節を数個連接して動力ボートで運搬することにより門橋(艀(はしけ))として車両を運搬できます。また、川の両岸まで連接することで浮橋(ふきょう)として車両等を通過させることもできます。前述のように、東日本大震災の時には重機の運搬のために門橋として運行されました。
写真-13:92式浮橋の橋節を積載した車両 |
写真-14:92式浮橋を河川に全通した状況 |
【07式機動支援橋】
81式自走架柱橋の後継器材で、作戦地域の河川、地隙等に架設して、第一線部隊等の機動を容易にする装備です。構築手順は、架設車を用いて最初にビームを対岸まで伸ばし、次に橋節を逐次連接しながらビーム上を滑らせて送り出して橋を構築します。架設車等は、道路を通行できるように幅、高さ、重量の制約下に機能が集約されており、まるで合体ロボットのような器材です。
写真-15:07式機動支援橋(左:橋節運搬車 右:架設車) |
写真-16:架設された07式機動支援橋 |
【94式水際地雷敷設装置】
海岸に水際地雷原を構成するために使用する装備です。水陸両用車で、道路も走行でき、かつ海上も航行できます。東日本大震災時には、海上での捜索においても活用されました。
写真-17:94式水際地雷敷設装置
(4)各種施設研修
装備展示の後、工兵・施設科の歴史、PKO活動の歴史、PKOの活動の際に必要となる各国の地雷等が展示された各種施設、最後に防衛館を訪れました。防衛館の建物は国際貢献等で建物を構築するための訓練として、全ての工程を自衛隊員自らで構築されたものです。
(5)まとめ
今回の訪問で、施設科部隊が部外工事、災害派遣ならびに国際貢献を通じて、日本のみでなく世界的に貢献し、評価されていることを知ることができました。また、施設科の独自の機能を有する特殊な装備を研修した中で、特に各種橋梁器材は、防衛という厳しい状況下で活動するために開発された装備であるがゆえに、災害派遣においても十分に活用できることを実感しました。
【協 力】
陸上自衛隊施設学校
藤田 宗徳 陸上自衛隊東部方面総監部装備部後方運用課長
(前・陸上幕僚監部防衛部施設課総括班長)
伊藤 一雄 陸上自衛隊補給統制本部付
(前・陸上自衛隊関東補給処古河支処施設部長)
※本Webページ掲載の写真は陸上自衛隊施設学校から提供いただいたものです。