アジア土木技術国際会議(CECAR)
第31回アジア土木学協会連合協議会(ACECC)理事会ならびに第7回アジア土木技術国際会議(CECAR7)参加報告
アジア土木学協会連合協議会(ACECC)担当委員会
山口栄輝 前委員長(九州工業大学)、中野雅章 前幹事長(日本工営)、岡村未対 幹事(愛媛大学)、
井澤 淳 幹事長(鉄道総合技術研究所)、山本芳樹 幹事(日本工営)
1.はじめに
2016年8月29日~30日にアジア土木学協会連合協議会(Asian Civil Engineering Coordinating Council:略称ACECC)の第31回理事会(31st Executive Council Meeting:略称31st ECM)、8月31日~9月2日にACECC主催の第7回アジア土木技術国際会議(7th Civil Engineering Conference in the Asian Region:略称CECAR7)が、米国ハワイ州のホノルルで開催された。 ACECCは、アジア地域の土木関連学協会を束ねる連合組織として、1999年9月に発足した。現在は加盟団体が13となり(日本、米国、フィリピン、台湾、韓国、オーストラリア、ベトナム、モンゴル、インド、インドネシア、バングラデシュ、パキスタン、ネパール)、多国間連携のもと、アジア地域が抱える社会資本整備や土木技術に関する課題を討議し、問題解決を図ることを主たる役割としている。土木学会は、ACECC発足当初からのメンバーであり、ACECCの活動で常に中心的な役割を果たしている。
2. 第31回ACECC理事会
ACECC理事会(ECM)は、ACECCの最高議決機関であり、年に2回の頻度で開催されている。会議にはメンバー学協会会長等の代表者が出席し、ACECCの運営方針や活動内容について協議する。31st ECMには、田代民治土木学会会長をはじめ、土木学会からは13名が参加した(写真1)。 31st ECMに先立ち、技術委員会(TC)の進捗報告や新規委員会の承認を目的とした技術調整委員会(TCCM)とACECCの活動の詳細を議論する企画委員会(PCM)が開催され、そこでの議論がECMで審議・承認された。
日本からは、主導する3つの技術委員会(鉄道技術、ITS技術、減災・防災)に関する活動報告を行い、さらに今後の具体的な活動についても提示し、活発な意見交換が行われた。また、次世代のリーダーとなる土木技術者の育成が重要であるとの認識の下で設置された小委員会からは、“Future Leader Forum”を開催することが提案され、各国から25~30歳までの若手技術者の代表者を募って議論する機会を設けることが承認された。
次回32ndECMは来年4月にネパールのカトマンズで開催される予定である。
3. 第7回アジア土木技術国際会議(CECAR7)
CECARは、各学協会会長をはじめ、産官学の主要メンバーが一堂に会する国際会議で、3年ごとに開催される、ACECCの一大イベントである。第1回CECAR は1998年にマニラで開催され、ACECC設立のきっかけとなった。第7回目を迎えたCECAR7は、米国土木学会(The American Society of Civil Engineers:略称ASCE)が運営を担当し、“Ho-‘omalamalama: Building A Sustainable Infrastructure In The Asia Pacific Region”をテーマに開催され、29か国から388名が参加した。
(1) 開会式
会議の初日、CECAR7運営委員長Udai P. Singh氏、合衆国下院議員Tulsi Gabbard女史のスピーチからなる開会式があり、CECAR7が開幕した。引き続き、WFEO(世界工学団体連盟)副会長の石井弓夫元土木学会長が、昨年開催されたWECC2015(第5回世界工学会議)の“Kyoto Declaration”について講演され、「地球温暖化対策のみならず、社会に関わる様々な分野で工学の力を生かそう」という力強いメッセージが発信された(写真2)。
(2) 基調講演および一般講演
ACECCからの招待講演である基調講演は6件あった。日本からは高知工科大学学長の磯部雅彦元土木学会長が“2011 Great East Japan Earthquake Tsunami and Future Nankai Trough Earthquake Tsunami - Experience and Preparation”と題して講演された。
ACECCのメンバー学協会や技術委員会が企画し、運営するオーガナイズドセッションでは、土木学会は、津波セッションを担当し、高橋智幸氏(関西大学)を中心に我が国の津波対策技術をアピールした。
一般講演は公募に応じた研究発表で、運営委員会の審査を経た論文に基づいた発表である。口頭およびポスター合計で6会場に分かれて216件の研究発表があり、日本からの発表が87件と最も多かった。
上記に加え、土木学会が主導しているTC活動の成果についても一般講演や特別セッション等で報告した。
TC-12“Railway Technology Renewal and Expansion in the Asia Region”(委員長:奥村文直氏(鉄道総合技術研究所))については、一般講演の一部で複数のTCメンバーが活動内容を発表し、成果報告として、井澤(鉄道総合技術研究所)より“Railway Construction Summary”の内容が紹介された。温暖化や気候変動などが大きな問題となっている昨今、他の交通手段と比較して環境負荷の小さい鉄道は、今後、アジア地域で建設されることが想定されることから、ACECCの活動を通じて、各国との技術連携が進むことが期待される。
TC-16“ITS-based Solutions for Urban Traffic Problems in Asia Pacific Countries”(委員長:牧野浩志氏(国土技術政策総合研究所))については、一般講演の中でその成果について発表し、坂井康一氏(東京大学生産技術研究所)により、他のACECCメンバーと共に議論を重ねて完成した「ITS Introduction Guide」が紹介された。本ガイドラインはACECCや土木学会のWebサイトからダウンロード可能であり、今後アジア各国で活用されることが期待される。今後は第二期の活動を開始し、Case Studyの情報収集等を通して、本ガイドラインを更新していく予定である。
TC-21“Transdisciplinary Approach for Building Societal Resilience to Disasters”(共同委員長:竹内邦良氏(ICHARM))は、本TCの最初の会合としてパネルDiscussion形式のセッションとして運営され、塚原健一氏(九州大学)の他、フィリピン、韓国、台湾、アメリカのパネラーが各国の取組を紹介した。会場はほぼ満席で、活発な議論が交わされ、アジアにおける防災・減災の取組に対する関心が高いことが改めて認識された(写真3)。TC21は11月にフィリピンで、4月にネパールでシンポジウムを行うことが予定されており、その活動を通して分野を横断したACECCならではの議論が今後ますます活発化することが期待される。
(3) ACECC賞
ACECCは、プロジェクト賞(ACECC Civil Engineering Project Award)と業績賞(ACECC Civil Engineering Achievement Award)を設け、CECARで表彰している。
プロジェクト賞は、直近の概ね3年間に、土木技術の進歩とアジアの発展に顕著な貢献のあったプロジェクトに授与される。今回は、首都高速道路(株)の「中央環状線 山手トンネルの建設(The Construction of Yamate Tunnel on the Central Circular Route)」が、韓国、台湾、インドネシア、ベトナム推薦の4件と共に、Civil Engineering Project Awardの栄誉に浴した。
業績賞は、国際的な土木技術の進歩や、アジアまたはACECC加盟国の社会資本の発展に顕著な貢献があり、その業績が国内において認められているACECC加盟国に属する個人に授与される。土木学会が推薦した住吉幸彦 氏(日本支承協会顧問、元土木研究所所長)をはじめ、3名が受賞した(写真4)。
(4) 閉会式
次回のCECAR8は、2019年に東京で開催され、土木学会がホストとして運営を担当する。 CECAR7の最終日、閉会式において、ASCEのWoodson会長より田代会長にACECC旗が手渡され、ASCEからJSCEへの引き継ぎが完了した。この日をもって、ACECC会長にはJSCEの日下部治氏(国際圧入学会会長)、CECAR8組織委員会委員長に茅野正恭氏(鹿島建設)、企画委員会委員長に岡村(愛媛大学)、技術調整委員会委員長に中野(日本工営)が就任し、新たなACECC体制が発足した(写真5)。また、ACECC事務総長として、堀越研一氏(大成建設)も引き続き従事される。
4. おわりに
ACECCは単なる学会の結集組織ではなく、アジアの社会資本整備の促進を実現すべく、各国のDecision Makerや金融機関との協働関係を構築するユニークな組織である。土木学会では、CEACR8を、そのヴィジョンを発信・共有するユニークな国際会議とすべく、実現に向けての準備を開始した。2019年は東京オリンピック・パラリンピック競技大会の前年にあたる年でもあり、国内外の参加者にとっても魅力的な年と言える。また、東日本大震災から8年を経過し、復興した場所のみならず、防災まちづくりなど、強靭かつしなやかになった日本の姿をみせることはアジアの国々にとって有意義であると思われる。今後もACECC内での土木学会の役割が益々大きくなっていくものと思われる。
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