アジア土木技術国際会議(CECAR)
第3回アジア土木技術国際会議(3rd CECAR)開催報告
アジア土木学協会連合協議会(ACECC)担当委員会
委員長 奥村文直
2.3rd CECARの概要
3rd CECARには17の国と地域から1046名の参加者があり、このうち255名が日本からの参加者であった。2nd CECARでは14の国や地域から730名の参加者であったことを考えると大幅な規模の拡大である。「未来へ向かって躍動するアジア」を大会テーマに掲げ、産業界、官界、学界のそれぞれから集まった参加者は、アジアにおける持続力ある発展を継続するために種々の最先端情報の交換を行った。
基調講演は、韓国の前環境大臣である、Kim Myungja博士によって行われ、北東アジアにおける持続力ある発展と環境問題について、わかりやすく説得力をもって論じられた。Kim、博士は、女性国会議員として現在活躍されており、非常に意義深い講演であった。
また、最初の特別講演で、高橋裕東京大学名誉教授は、「土木の絵本シリーズ」に学ぶ土木教育、と題して講演された。土木の絵本は、財団法人全国建設研修センターが発行しているもので、日本全国の小学校に配布されている。内容は古代、中世、近代の土木技術を絵本による物語で説明し、小学生に治山、治水の重要性、鉄道、港湾などの技術を説明するとともに、先人の技術的労苦の上に、現代の社会生活が成り立っていることを理解してもらうというものである。高橋名誉教授はこのような土木技術を一般社会の人々に浸透させようとする「土木の絵本」シリーズの努力を紹介しながら、日本における先駆的な土木事業の知識を共有することがアジア各国にとっても有益であると指摘された。1897(明治30)年、小樽に日本最初の外海に面した近代港湾を築いた広井勇の事績については、ビデオを使用して説明され、寒風吹きすさぶ防波堤に用いた鉄筋コンクリートの耐久性を百年先まで試験できるように試験体を数万個も用意しており、現在もこの試験体は十分な強度を保っていると映像で説明された。アジア各国からの聴衆は万雷の拍手をおくっていた。
日本が構成と進行を担当したスペシャルフォーラム1は、日下部治東京工業大学教授が座長を行い、メコン河流域開発をテーマとしてタイ、ベトナム、カンボジア、ラオスの研究者を招いて討議が行われた。指摘された問題点としては、上流域の中国によるダム開発が下流域の地域へ
大きな影響を与えることで、水質の悪化、洪水、漁獲量の変化などがあげられた。この地域の開発へのさまざまなレベルでの国際協調の重要性が議論され、ACECCの新しい技術委員会として、この活動を継続することが決定された。
また、スペシャルフォーラム2で日本が担当したセッションでは、草柳俊二国際委員長(高知工科大学教授)が司会を務め、森地茂土木学会長の「日本における地域構造の再生」、御巫清泰日本港湾協会会長の「日本の新しい公共事業マネージメント-西国際空港」、石井弓夫建設コンサルタンツ協会会長の「プロジェクトデリバリーシステムとコンサルタントの役割」、大石久和前国土交通省技監の「アジアの持続力ある発展のための土木技術者の協調」が発表された。森地会長は、中国、タイ、インドネシアの生産労働人口がそれぞれ、2010年あるいは2020年にピークに達することを指摘し、高齢化する日本の現在の問題が明日のアジアの問題であることを説明した。満員の聴衆は、それぞれの分野における第一人者の講演に聴き入っていた。諸外国の参加者からも、すばらしい発表者ぞろいでこのフォーラムに参加した意味があったとコメントされていた。
8月16日に行われた学会長会議で、森地土木学会長は、ACECCへの参加国数を増大するための努力の重要性を強調され、さらに、ACECC参加学協会の連携強化のために、英文ジャーナルの発行を検討してはどうかという提案をされた。そして、これらの提案に各学協会からの賛同が得られるのであれば、日本の土木学会として積極的にサポートする意志があることを表明された。
ACECC参加国からの特別講演に加えて10の技術テーマに関する並行セッションと、ポスターセッション、前述の二つのスペシャルフォーラム、若手技術者セッション、学生エッセイコンテストが開催された。全体の発表論文数は137で、日本からの発表は52であり、本会議に対する
日本の貢献度の大きさが感じられる。それぞれのセッションでは、活発な討議が行われ、なかなか情報交換のチャンスのない最新のプロジェクトについて意見が交換された。
また、会議の最終日は、技術視察にあてられ、清渓川の再生プロジェクト(高速道路を撤去し、コンクリートのふたで覆われた川を再生する都市環境プロジェクト)やソウル漢川南岸の東西を走る全長38kmのソウル市地下鉄9号線建設現場の視察や、韓国高速鉄道KTXの試乗などが行われた。
次回にあたる第4回アジア土木技術国際会議は、2007年5月に台北で開催されることが決定されている。3rd CECARは、このように盛況のうちに閉幕したが、今後、1000人を超える規模の会議を継続的に成功させるためには、発信するメッセージを明確にし、それに沿ったプログラムを構成することが求められていく。今回のスペシャルフォーラムの成功はそのような方向性を明確に示したものだと考えられる。
また、3rd CECARの成功は日本からの多大な貢献に支えられたものであると、参加各国から広く認識される結果となった。ご参加いただいた方々やご協力をいただいた各団体、企業に対し紙面を借りて御礼申し上げる次第である。
3.ACECCの今後の活動
3rd CECAR に先だって、ACECC理事会が開催され、4th CECARの開催地にすでに決定している台湾の中国土木水利工程学会長(CICHE) のJ. C. Chern、教授が次期ACECC理事会の会長に選出され、Ming-the Wang博士が事務総長に就任した。また、日本が主催していた次の二つの技術委員会(TC)については、3rd CECAR の終了時に活動を終えることが報告された。
●TC-1:アジア太平洋地域海岸ネットワークに関する技術委員会(委員長:名古屋工業大学 喜岡渉教授)
●TC-2:総合河川流域管理に関する技術委員会(委員長:九州大学 小松利光教授)
次の理事会は、12月に台湾の高雄でCICHEの年次大会に併せて開催されることが決まっており、3rd CECAR の総括や新しいTCの設置が議論される予定である。また、3rd CECAR に日本が招待したタイ、カンボジア、ラオスの諸国も、ACECCへの参加に意欲を示しており、米国からはカナダが興味を持っていることも伝えられているので、今後、参加国の増大に向けての努力が続けられることとなる。
4.おわりに
ACECCの初代会長であり、3年前からACECCの日本代表を務められている岡田宏元土木学会長が3rd CECARを期に退任を表明されている。ACECCの創設と2nd CECARの開催、そして、ACECC活動の定着に多大な貢献をされた岡田氏に深甚の謝意を表する次第である。
2004年7月の酷暑、台風による洪水などは、台湾、韓国などの近隣諸国でも共通の大問題であり、3rd CECARはモンスーンアジアの風土を共有する学協会の連携の重要性を感じさせた国際会議であった。日本の土木学会としては、アジアおよび環太平洋の土木学協会の連携強化に引き続き尽力し、主導的な役割を果たしていきたいと考えている。また、4th CECARについても日本の支援が大いに期待されている。土木学会会員の積極的な参加とサポートをお願いしたい。
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【出典:土木学会誌2004年12月号160~161ページ】