2019年4月、第8回アジア土木技術国際会議(以下CECAR*1)が東京で開催されます。CECARは、アジア地域の土木学協会で構成するアジア土木学協会連合協議会(以下ACECC*2)が3年毎に開催している国際会議です。他の専門分野別での国際会議とは異なり、CECARは各国の土木技術者が専門分野の枠を越えて一堂に集まる貴重な機会となっています。
歴史を振り返ると、第1回CECARは、日本、アメリカ、フィリピンの土木学会が協力し、1998年にマニラで開催されました。翌1999年には、上記の3か国に台湾・韓国を加えた5か国の学協会によりACECCが発足され、以降、これを母体としてCECARが継続して開催されています。
日本の土木学会は、このように、CECARの立上げから関わるとともに、2001年には第2回CECARを東京で開催するなど、本会議の運営に積極的に協力してきました。各回の参加者数でも常に上位にあり、昨年、米国ハワイで開催されたCECAR7では、参加者数の約3分の1、論文発表件数の約4割が日本からのものでした。
今回、CECARが再び東京で開催されることとなり、土木学会では2017年4月に組織委員会を正式に発足させ、精力的に準備を進めています。
会議のテーマは”Resilient Infrastructures in Seamless Asia”です。アジア地域での安全安心な国土づくりを支えるインフラについて議論し、外部に発信することとしています。日本では、地震や豪雨などの大規模な自然災害が頻繁に発生しています。東北をはじめ、全国の被災地における災害復旧・復興の取組みを紹介することを含め、こうした対応を通じて得られた知識や経験を各国と共有することは、日本の土木学会の大切な使命です。
また、インフラの老朽化への対応も重要な課題です。今から30年ほど前に出版された「荒廃するアメリカ」*3 は、日本でもよく知られていますが、ちょうど、この本が出版された年に、私は当社のニューヨーク駐在員事務所勤務を命ぜられました。損傷した道路の舗装があちこちで放置され、路肩にはバーストしたタイヤの破損物が散乱していた当時のニューヨークの様子が今でも印象に残っていますが、その後の再生プログラムにより、現在では見違えるように良くなっています。こうしたインフラ再生の必要性について政府や世論に強力に働きかけたアメリカ土木学会の取組み姿勢は、日本の土木学会において、今まさに求められている役割ではないかと思います。
会議のメインとなる学術プログラムでは、当日のセッションで有意義な議論が行えるよう、事前に座長やテーマを定め、テーマに沿った発表によりセッションを構成することとしました。先般行ったセッション提案の募集には多くの応募をいただき、幅広いテーマで約45 のセッションを設けることができる見込みです。土木学会の各委員会等から積極的なご提案をいただいたことに感謝しますとともに、アブストラクトの募集も始めていますので、こちらにも多数のご応募をお願いします。
テクニカルツアーについてですが、本会議が開催される2019年は東京オリンピック・パラリンピックの前年に当たり、関連プロジェクトも最盛期を迎えていると予想されます。特に海外からの参加者に、こうしたビッグプロジェクトを紹介し、日本の土木技術を知ってもらう絶好の機会ですので、今後、計画を具体化していきます。
こうした企画に工夫を凝らす一方、会議の成功には多くの方の参加が必要条件となります。特に、海外から多くの参加を呼び掛けるため、2017年9月にモンゴルで開催されたACECC理事会に出席し、組織委員長としてPRを行って参りました。海外の各学会からは、積極的な協力の意思が示され、心強く感じるとともに、日本の土木学会への期待の大きさも実感することができました。これ以外にも、国内にいる海外からの留学生にも広く参加を呼び掛けて行きたいと考えています。
なお、現在、ACECC会長に日下部治氏(国際圧入学会)、事務総長に堀越研一氏(大成建設)が就任し、ACECCの運営全般についても日本が中核的な役割を担っています。ACECCの加盟学協会は現在、13 団体*4 に増えていますが、インフラ整備が進みつつある、他のアジア諸国に輪を広げていくことも重要ですので、今回のCECARがその一つのきっかけとなるよう、連携して取り組んでいく考えです。
会議まで残り約1年半となり、組織委員会の活動も佳境に入っていきます。委員会には、産官学から、幅広い層の方々に参加していただいていますので、このような活動を通じて、学会の今後の国際活動を担う人材が育つことも期待しています。土木学会会員の皆様には、論文発表を含め、積極的なご参加・ご支援をお願いします。
*1: Civil Engineering Conference in the Asian Region
*2: Asian Civil Engineering Coordinating Council
*3: Pat Choate and Susan Walter, (1981). America in ruins: the decaying infrastructure(原題)、Duke Press Paperbacks
*4: 日本の他、米国ASCE、台湾CICHE、オーストラリアEA、インドネシアHAKI、バングラデシュIEB、パキスタンIEP、インドICEI、韓国KSCE、モンゴルMACE、ネパールNEA、フィリピンPICE、ベトナムVFCEA
※この委員長挨拶は、本会第125回論説・オピニオンに掲載された「第8回アジア土木技術国際会議(CECAR8)に向けて」と題する茅野委員長の論説を転載したものです。⇒論説委員会のサイトに掲載された論説はコチラです。