2013年2月27日にインドネシアのジャカルタ(ビダカラホテル)において、土木学会建設マネジメント委員会、土木学会インドネシア分会、インドネシア公共事業省建設開発庁、バンドン工科大学の共催によるジョイントセミナーが開催された。公共調達方式をテーマとした昨年度の検討内容を踏まえて、今年度は建設工事の品質保証に焦点を当てた。両国の品質保証の現状・課題・解決方法を紹介・共有し、特にインドネシアの品質保証の将来像を検討することを目的とした。インドネシア側の要望によって、セミナーの名称は、「The Myth and Reality of Quality Assurance Systems in Construction Projects」とした。品質保証の神話を放置せず、現実を見つめ、改善していこう、との先方の強い意気込みを感じた。
セミナーには、90名が出席し、バンドン工科大学建設マネジメント研究グループのリーダーであるRizal Tamin教授の昨年度の成果の丁寧な振り返り、及び、同大学建築・計画・政策学部長のBenedictus Kombaitan教授の挨拶で始まった。プログラムは、2件の基調講演と3件のパネルディスカッションによる構成とした。
午前中の基調講演では、インドネシア公共事業省建設開発庁のTri Djoko Waluyo氏が品質保証に関する問題提起を行った後、バンドン工科大学副学長のPuti Farida博士から、「建設工事と品質-能力と自信の探求」と題する講演を行った。その後のパネルディスカッションでは、両国の品質保証の現状に関する紹介・共有を試みた。日本側からは、鈴木泰之氏((株)建設技術研究所)が日本の設計業務に関する品質保証システムの現状と改善方策を、五艘隆志氏(高知工科大学准教授)が日本の施工時の品質保証の現状と課題を紹介した。インドネシア側からは、生産性と品質保証、インドネシアの品質保証システムの将来像等が紹介された。
午後は、小澤一雅氏(東京大学教授・建設マネジメント委員会委員長)が「社会資本整備事業における品質マネジメントシステム~日本の経験と挑戦」と題する講演を行った。それを受けて、「Theory to Reality」、「Role of Stakeholder」という二つのテーマに関するパネルディスカッションを行った。日本側は、渡邊が前者のパネルディスカッションで談合問題とくじ引き入札の問題、その一解決としての総合評価方式の導入、その効果と新たな課題を紹介した。先方は、マレーシアからのパネリストも出席し、品質保証におけるquantity surveyorの役割に関する発表が行われた。
最後に、小澤委員長から、「両国間の共同研究教育と相互の協力をさらに進めていくためにも、第3回のセミナーを開催したい。」との提案で幕を閉じた。
今回も昨年に続いて多くの成果があった。第一に、インドネシアにとっても品質保証が重要な課題であることを認識できた点である。第二に、インドネシア側の本セミナーに対する大きな期待を実感できた点である。
第三に、今回の日本側の発表も、先方の期待に十分に応えたことを実感した点である。鈴木氏による設計の品質管理に関する発表は、インドネシアでは殆ど聴いたことがないとのことであった。小澤氏と五艘氏の施工時の品質管理の現状・課題・改善策についても、インドネシア側にとって大変興味深い内容となった。セミナーの最後には、先方から、来年度はセミナーを2日制にして、初日は今回のような意見交換、二日目は日本側が得意な分野を教える講義形式にして頂けると良いのではないか、との要望・提案があった。
第四に、日本の大学で学び、帰国した若手の研究者が、生き生きとしている姿を見ることができた点である。その一人であるバンドン工科大学のDewi Larasati講師は、大学で調達・監理を担当する自身の業務体験から、品質保証における請負者のデータベースシステムの構築、各事業局面における適切なコミュニケーションの重要性を説いた。これは、説得力に富む提案であった。建設マネジメント研究では、留学先の原理・原則を母国に無批判に受容・適用しようとするのではなく、現実の問題を丁寧に観察・分析し、その検討方法を真摯に検討し、多くの人々の共感を得るような爽やかな発表を行うことが重要である。日本の留学生の育成方法が間違ってはいないことを実感した一日であった。
第五に、今回はマレーシアからの参加者もあり、本セミナーのアジア諸国への展開の可能性を感じた点である。
なお、本ジョイントセミナーは、公益信託土木学会学術交流基金による助成を受け、実施されたものである。また、バンドン工科大学の皆さまには数多くのご協力とご支援を賜った。ここに記して謝意を表する。
参加者全員とセミナーの成功を祝して |
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