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【報告】 第4回レクチャー スマートインフラマネジメントと土木遺産

第Ⅰ期 連続レクチャーシリーズ「土木遺産修復技術の最前線」
第4回レクチャー スマートインフラマネジメントと土木遺産 ~新たな地域づくりへの挑戦

 2025年2月14日、土木学会土木史委員会・土木遺産修復技術小委員会の主催によるシンポジウム「スマートインフラマネジメントと土木遺産 ~新たな地域づくりへの挑戦」が開催されました。

 本シンポジウムは、通常の土木行政の中で土木遺産が切り離されがちな現状を踏まえ、インフラメンテナンスという土木行政の本流と土木遺産を結びつけ、その維持管理・保全に広がりを持たせることを目指し企画されたものです。また、インフラメンテナンスの最先端の技術であるスマートインフラやデジタルツインといったテーマと土木遺産がどのように結びつくかについても議論を深める機会となりました。

 \ 約7分の音声動画でわかる / 
AIアシスタントがまとめたシンポジウムの概要はこちら
【まとめ】スマートインフラマネジメントと土木遺産 by AIアシスタント

 

講演1:
「香取市の土木遺産と地域づくりの取組み」

 香取市副市長の北原氏からは、香取市の歴史や地理的背景、そして土木遺産を活用した地域づくりの多岐にわたる取り組みについてご紹介いただきました。香取市は千葉県の北東部に位置し、利根川や霞ヶ浦、かつての香取の海といった水辺空間と共に歴史を歩んできました。特に佐原の町並みは江戸時代から発展し、水運で栄えた商業都市として知られています。
 講演では、水郷大橋、横利根閘門、小野川の護岸、ジャージャー橋、忠敬橋といった近代以降の様々な土木構造物が紹介され、それぞれの歴史的背景や特徴が解説されました。特に、小学校の近くにある学校橋のように、日常的に人々に利用され、地域の歴史や営みと深く結びついた土木構造物の価値に焦点が当てられました。
 さらに、これらの土木遺産を地域づくりに活かすための具体的な取り組みとして、市民がインフラの劣化状況を投稿するアプリを活用した「水郷ウォーク」イベント、香取市インフラカードの配布、伊能忠敬の功績にちなんだ測量の日のイベント など、住民参加を促す活動が紹介されました。また、日本遺産認定や総合計画への歴史文化の明記、歴史的風致維持向上計画・文化財保存活用地域計画の策定といった行政的な取り組み、小型水門開閉の簡易電動化やVRを活用したまちづくり(デジタルツイン)といった先端技術の活用に向けた検討状況も示されました。
 北原氏は、街づくりは完了するものではなく、土木や歴史の積み重ねであるとし、行政課題が複雑化し住民意識が変化する中で、これまでの取り組みを共有する「郷土土木史」のようなものがシビックプライド(地域愛)の醸成に重要であると述べられました。既存インフラを本来の機能に加え、観光資源や新たなビジネス創出に活用すること、そしてAIや情報技術を活用しつつ住民を自然に巻き込むことの重要性が強調されました。

※PPT発表資料はこちらからダウンロードできます。

講演2:
「【SIP第3期課題】スマートインフラマネジメントシステムの構築」

 東北大学の久田教授からは、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)第3期課題として進められている「スマートインフラマネジメントシステムの構築」プロジェクトについてご説明いただきました。久田教授は、建設分野がインフラの老朽化、労働力不足、人材育成、地域による維持管理格差といった深刻な課題に直面しており、これらを解決しない限り未来社会 Society 5.0の実現は困難であるという危機意識を示されました。
 SIPは、技術開発だけでなく、制度、事業、社会受容性、人材育成という多角的な視点から社会実装を目指す国家プロジェクトであり、スマートインフラマネジメントシステムは、デジタル技術をコアとして持続可能で魅力的な国土・地域づくりを推進するシステム構築を目指しています。具体的には、建設生産プロセスの飛躍的向上(自動化・無人化)、メンテナンスサイクルの効率化、ヒューマンリソースの戦略的活用(専門家だけでなく地域住民も含む)、デジタルツインの実現、そしてグリーンインフラやEBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)を用いた合理的な政策決定といった新たな価値の創出に取り組んでいます。
 特にEBPMについては、エビデンスに基づいた合理的な政策決定手法として注目されている一方で、土木遺産のような歴史的・文化的な価値をどのように評価し、政策判断に組み込むかという点が大きな課題であることが提起されました。久田教授は、過去に土木学会で歴史的構造物の保全について「なぜ残すか、何を残すか、どう残すか」という問いを投げかけた経験に触れ、エンジニアリング的な構造物の機能低下とは対照的に、文化的な価値は時間と共に向上していく可能性があることを示唆しました。老朽化が進んだ構造物でも、傷んでいる状態だからこそ価値があるという視点(例:原爆ドーム)や、当初から価値を持つものなど、文化的な価値の向上プロセスには多様性があることを説明し、EBPMのような手法にこれらの価値をどう取り込むかが今後の課題であると述べられました。

※PPT発表資料はこちらからダウンロードできます。

パネルディスカッション

※パネルディスカッションの全記録はこちら。

 後半のパネルディスカッションでは、講演内容を踏まえ、土木研究所の西尾氏と本小委員会メンバーの松田氏を加えて、参加者からの質問も交えながら活発な議論が行われました。
 主な論点として、住民参加の継続や土木遺産などの文化的な価値の評価・定量化、そしてEBPMのような政策決定手法に定性的な価値をどう組み込むかという点が挙げられました。
 香取市の住民参加イベントの継続の工夫については、学校教育との連携などが有効であるという経験が語られました。また、住民を巻き込むことは容易ではないが、継続的に取り組んでいく重要性が強調されました。
 土木遺産の価値評価については、金額や単一の数値で表すことの難しさが共有されました。文化財においては市場価値や部材単位での評価が試みられることがあるものの、土木インフラには市場価値がないためさらに困難です。しかし、評価の新たな軸として、その構造物を「良い」と感じる人の数や、地域を訪れる人の数といった定性的な要素をカウントすることや、ESG(環境・社会・ガバナンス)の考え方を応用し、「活力」「サポート」「グロース(共生)」といった観点から地域の活動を定量化する可能性などが示されました。
 EBPMにおける価値判断への組み込み方に関しては、定量化できる部分から順に進めるという段階的なアプローチの必要性が示唆されました。同時に、定量化が難しい文化的な価値については、住民の理解や合意形成といった要素が非常に重要であるという指摘がありました。山形県銀山温泉の橋の事例では、機能的には老朽化が進んでいるにも関わらず、地域の景観価値や温泉地の雰囲気維持のために、住民の判断で意匠を残して保存・利用することが決まったという、数値だけでは説明できない価値判断の具体例が紹介されました。このような事例から、政策決定には定量的な情報だけでなく、住民の思いや地域とのつながりといった要素を何らかの形で反映させる仕組みが必要であることが示唆されました。
 また、「まちづくりは完了しない」という視点に関連して、その過程で生まれる住民一人ひとりの営みや構造物に関するエピソード(例:そこで今の奥さんに告白した、よく歩いたなど)を収集し、共有することの意義についても議論されました。これらの個人的な物語や思い出が集まることで、何気ないインフラに新たな価値が付加され、地域の文化的な価値として認識される可能性があり、アプリなどを活用してそうしたエピソードを収集・見える化することが有効ではないかという提案もなされました。
 最後に、パブリックコメントが形骸化している現状に触れ、真に住民の意見を拾い上げるためのコミュニケーションの場づくりや、意見交換の方法(会議体での議論など)、馴染みやすい言葉遣いや参加形態の工夫が必要であることが議論され、行政がこうした住民の「生の声」を引き出す取り組みを行うことが、新たな地域づくりにつながる可能性が示されました。

まとめ

 本シンポジウムを通じて、インフラメンテナンスと土木遺産の保全という立場の異なる領域が、地域づくりや将来のSociety 5.0実現という視点から密接に関わっていることが確認されました。土木遺産の価値は、その機能性や物理的な状態だけでなく、歴史、地域とのつながり、そしてそこに暮らす人々の記憶や愛着といった定性的な要素に深く根ざしています。これらの定性的な価値を、EBPMのような合理的な政策決定プロセスにどのように位置づけ、評価し、反映させていくかが今後の重要な課題です。そのためには、先端技術の活用とともに、住民参加の促進、地域の声や物語を収集・共有する仕組みづくり、そして行政と住民が共に価値を考え、合意形成を図るためのコミュニケーションの工夫が不可欠であることが、改めて認識されるシンポジウムとなりました。

 

シンポジウムの動画をご希望の方は、
小委員会の事務局までご連絡ください。
事務局連絡先:dobo.isg@gmail.com

 

開催概要  
1.タイトル 第Ⅰ期 連続レクチャーシリーズ「土木遺産修復技術の最前線」
第4回レクチャー スマートインフラマネジメントと土木遺産 ~新たな地域づくりへの挑戦
2.日 時 令和 7 年 2 月 1 日(水) 16 時00 分 〜 18 時00 分
3.場 所
 
公益社団法人 土木学会 講堂
東京都新宿区四谷1丁目 外濠公園内
4.講師・パネラー 北原 潤一(香取市 副市⻑)
久田  真(東北大学大学院 工学研究科 教授
      同インフラ・マネジメント研究センター(IMC)
      センター⻑)
5.パネラー ⻄尾  崇(国立研究開発法人土木研究所
      戦略的イノベーション研究推進事務局 次⻑)
松田 貞則(日本工営株式会社 河川水資源事業部)
6.司会 北河大次郎(文化庁 主任文化財調査官)
新着・お知らせ
添付サイズ
PDF icon 発表資料1(講演)北原先生2.29 MB
PDF icon 発表資料2(講演)久田先生1.35 MB
PDF icon R6シンポジウム_パネルディスカッション(全記録).pdf590.99 KB
PDF icon R6シンポジウム_アンケート結果【概要版】.pdf218.36 KB

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