札幌本道を起源とする一般国道5号のうち、函館市桔梗町から七飯町峠下までの14.3kmにわたり1200本ほどの赤松が見事な枝ぶりを見せている。現在、一般国道5号は函館市を起点とし、札幌市を終点とする主要幹線道路である。そのなかで赤松並木は両側2車線(一部、峠下地区は両側4車線)の道路で、歩道およびその外側の道路敷地に赤松を配したものとなっている。なお、赤松並木を保護しながら大量の自動車交通をさばくのは困難であることから、並木道の東側に自動車専用道路の函館新道を建設し、2002(平成14)年3月に暫定2車線で全線供用している。
赤松の天然分布は青森県が北限と言われており、北海道にはあまり分布していない。江戸時代末期、箱館奉行支配組頭栗本瀬兵衛が故郷の佐渡の種子を取り寄せ、七重薬草園(後の官園)で育てたのが元になったものである。奉行は故郷の佐渡を偲び赤松の小さな種子を大切に育て、やがて苗となった後いったんは旧道(札幌本道以前の道)の両側に移植されていた。1873(明治6)年開拓使の手により札幌本道が完成し、1874年より旧道から札幌本道へ移植された。1876(明治9)年明治天皇の七重勧業試験場への行幸を記念して多くの赤松が本道沿いに移植された。また1941(昭和16)年には照宮成子内親王の大沼行啓を記念して補植された。その後数回にわたり補植されて現在に至っている。
赤松の保護として毎年行っているものに剪定、こも巻きがある。剪定は例年8月から9月にかけて行い、各枝の梢の勢力を平均化して局部的な衰弱を防ぐとともに光や空気の流れの妨げにならないようにするものである。樹高が高いため高所作業車を使用しての作業となる。こも巻きは、あらく織ったむしろ(こも)を冬前に樹幹へ巻き枝葉から降りてこもの中で越冬した病害虫を翌春こもごと撤去、焼却するものである。こもを巻いた赤松は、今では冬の風物詩ともなっている。管理としては、支障木の移植、枯損木の伐採や冬季の雪落としがある。北海道自然環境等保全条例の環境緑地保護地区に指定されているため、樹木の撤去については道知事への届けが必要である。その場合、通常伐採ではなく道路敷地内での移植となる。冬季、雪が降ると赤松の枝葉を雪が覆い、やがて寒気がゆるんだときや雪の重さに耐えかねて地上に落ちてくる場合がある。車両の通行障害や直撃による破損を防止するために雪落としが必要となる。
赤松並木のなかでも七飯町大中山地区から鳴川地区の約2㎞の区間が最も良好に赤松が残されているところである。100年以上前に植えられた古木は樹形も良く早朝の車両の少ない時間帯は絶好の散策路となる。特に初夏から秋にかけては、道路が赤松により緑のトンネルとなり、まことに見事なものである。またいくぶん離れているが、本町地区には七重官園事務所跡地や明治天皇行幸記念碑などの史跡がある。ドライブなどで立ち寄るのもよいのではないだろうか。
地域住民参加のこも巻きは2004(平成16)年度に初めて行われ、2005(平成17)年からVSP(ボランティア・サポート・プログラム)として「赤松街道を愛する会」、七飯町、函館道路事務所の三者協定に基づいて行われている。特に景観が優れる七飯町鳴川地区で行われており、2006年度は10月に地域住民や関係者約60人が参加し100本ほどの松の幹にこもを巻き、2007年3月にこもを外した。江戸期の佐渡を起源とする貴重な赤松を保存するために今後とも地域住民、関係自治体と協力して維持・管理したいと思う。
(出典:札幌本道赤松並木,幡本 篤,土木学会誌93-1,2008,pp.54-55)
北海道七飯町、北海道函館市