報道で虚報や誤報が報じられた例を紹介し,コンピュータで伝達される情報に誤りを発生させる要因を列挙することで,情報を評価する必要性を論述している.
業務で情報活用する場合の評価尺度となる,信頼度,正確度,有用度について概説している.
情報提供機関を荒く評価し,商用データベースの収録基準や遡及性,収録するまでのタイムラグを確認する必要性を論述している.また,商用データベースとインハウスデータベース手扱われている情報の性質の差異について分析している.
統計情報に誤差が生じやすい要因を分析し,活用する場合の留意点について論述している.
工事を例にして,アライブな情報と累積情報の性質の違いを論述し,企業,組織として情報を収集,活用する場合の留意点について論述している.
数値情報,文章情報の性質の違いを踏まえ,それぞれに適する分析,加工手法を紹介している.
データベースの検索結果に,検索漏れやノイズ生じる要因を分析し,情報ニーズに応じた検索式の組み立て方を解説している.また,企業,大学にサーチャ的な人材の育成する必要性について触れている.
プレゼンテーション資料を製作する場合に留意すべき3つのポイントについて論述している.
まず,個別の企業,大学で情報の標準化が進展してきた経緯を分析し,通信ネットワークが広域化による国際的な規格化の活動状況を紹介している.次に,建設分野における企業,組織間でデータ受発信のために業界データを規格化の必要性を論述し,建設CALSを実現するための課題について触れている.
森羅万象が受手いかんであまねく情報になるというアバウトな観点から,特定のデータベースの個別の項目に記録されている記号を指す場合まで,一口に情報といっても,その概念は人により状況により様々である.こうした情報の意味を論じると際限がないので,その解釈は専門書に委ね,ここでは業務を遂行するために参照されたり伝達される,あるいは作成されるデータを情報とする.
入手した情報が常に正しいとは限らない.新聞やテレビなどマスコミの報道を例にすると,この業界には虚報や誤報という用語がある.虚報は意図して捏造された報道であり,誤報は正しいと信じつつ結果的に誤っていた報道である.虚報は,最近では1989年の朝日新聞のサンゴの落書き写真事件があるが,稀である.誤報の例は少なくない.また,湾岸戦争で米軍が命令したブラックアウトのような報道管制により,情報が遮断されることもある.
コンピュータを媒介にして伝達される情報の範囲に限っても,以下に挙げるように,誤りを発生させる要因は多い.
誤ったデータから作成された報告書は,業務を混乱させ,運が悪いと損害を引き起こす.また,情報づくりに関わった人間の責任が問われる.そこで,業務で情報活用するにあたり,情報の収集から分析,加工,蓄積,伝達までの過程で,適宜,情報を評価する必要がある.
業務で情報活用する場合,信頼度,正確度,有用度が主要な評価尺度となる.信頼度は情報源に対する評価であり,情報提供機関,データベース,情報の収集を担当する人間の能力などが評価項目となる.情報源の評価については次項で述べる.
正確度は情報の中身を評価する.信頼できる情報源から入手した情報がすべて正確であるとは限らない.そこで,受け取った情報を鵜呑みにしないで,常に妥当性を確認する習慣を身に付けることが肝心である.常識から逸脱している情報は以外と目に止まるものである.疑問を感じたら,別の情報源から裏付け情報が得られるか確認する.過去のデータや関連情報があれば矛盾していないか対比する.ただし,既知の事実とされていた情報が誤っている場合もあるので,先入観にとらわれすぎると落とし穴となる.
有用度は情報が業務にどれだけ役立つかの評価である.業務に寄与しない情報はノイズである.しかし,役に立たない情報も使い方によって有用な情報となることがある.例えば,「混雑しているので別の窓口をご利用ください.」というアナウンスがあると,今度はその窓口に集中し,情報が役立たなくなる.そこで,混雑していると報じられた窓口をあえて選択すると以外と空いていたりする.この例は戦略,戦術を立案するケースにひとつの示唆を与えている.
情報提供機関については,公的機関は国策,公共事業として情報提供を行なうので信頼できる.むしろ,公益性,公平性をきすため一般公開に慎重な情報項目があることを留意しておかねばならない.歴史ある商用データベースを保有している民間の情報提供機関は信頼性が高い.会員数や利用件数の多い機関,サービス,価格面が好評な機関も信頼できる.
データベースから外部情報を入手する場合,収録基準を確かめておく必要がある.文献データベースを例にすると,収録するまでに2段階のフルイがかけられている.まず,対象とする雑誌,論文集などの種類が決められている.これをコアジャーナルという.次に,そこに掲載された文献から,どれを収録するかを判定する採択基準がある.いつから収録を開始したかという遡及性も重要である.期間により採択基準に違いがある場合もある.また,最新の文献を収録するまでのタイムラグも忘れてならない.これらのルールから外れた文献は収録されていないので検索できない.
商用データベースは,不特定多数の利用者に提供する情報を専業で収集しているので,広範囲の情報を検索の対象にできる.しかし,ヒットした情報でも選別すれば必要な情報の割合は少ない.企業,学校などが保有するインハウスデータベースは,建設企業の工事実績データベースのように,業務や教育活動を通じて発生する情報であり,量では劣るものの,すべてが必要な情報である.組織で独自の基準やルールを設け運用されるので,事前に確認を要す.情報を収集する人間の能力については,ケースバイケースなので,ここでは触れない.
観測や実験から得られた数値データは,使用機器と方法が適切なら,客観的に事実を表現している.国勢調査のような全件調査も問題がない.しかし,サンプルを選んでアンケートやヒアリングを行なった場合,調査データを統計した数値情報は自然に存在しない抽象的な値である.サンプル調査は,時間と費用の都合から,よく行なわれる調査方法である.しかし,この調査方法には誤差を発生させやすい要素を含んでいる.
まず,サンプルの選び方が難しい.例えば,ある事柄について一般家庭に意見を求めるために,電話帳からサンプルを抽出するとする.電話帳は母集団は大きいが,最近は電話番号を公表しない家庭も増えている.電話帳に掲載している家庭としていない家庭の間には,考え方や生活になんらかの相違があると推測できるので,この段階で一般家庭とうい想定には,すでに偏りが生じている.また,人間には見栄や体裁をつくろう性質があり,回答に影響することがある.また,質問の内容によっては,回答を拒否する人達がおり,この層の意見がデータから欠落してしまう.
統計された数値は内容を端的に表わすので,引用されやすい.口頭で伝えられていく過程で,調査の前提条件や方法,回収率などが消えてしまうケースがある.数値におひれが付いて一人歩きしてしまう.統計情報を活用する場合には,数値がどのようにして導きだされたのか,原典などを参照して確かめる必要がある.
天気予報は時々刻々と変わっていく生情報であり,新しい予報ほど精度が高い.これが平均気温になると,過去30年間の事実であり固定した値である.前者をアライブな情報,後者を累積情報ということがある.建設中の工事で日々,発生するデータや伝達事項はアライブな情報であり,工事実績としてデータベースに集約された情報は累積情報となる.
アライブな情報は量や形態が一定でなく,利用する人数と期間が限られている.工事なら,建設期間中,工事関係者の間でやり取りされる情報である.関係者といっても,発注者やコンサル,施工企業などの組織間,組織内のスタッフ部門などを含めれば広がりはあるが,建設分野の全体からすればかなり特定できる.アライブな情報を活用するには,最新のデータに置き換えるタイミングと,情報を受け渡すための媒体や,伝達方法,データ形式を組織間で調整しておく必要がある.
累積情報はデータベースなどに集積される.形態,形式が定められており,値もフィックスしている.工事実績データベースの原情報が施工中の工事であるように,アライブな情報のエッセンスを凝集して集積する場合が多い.累積情報は過去の情報ではあるが,不特定多数が様々な目的で,継続して利用される情報であり,活用いかんで将来に新たな視点を与えてくれる.しかし,広範囲のニーズをカバーしようとして情報項目の手を広げ過ぎると,利用のたびにヒット情報の吟味や加工に手間がかかり,かえって使いにくいものになる.データベースへの収録は1回だが,有用な情報活用は何回も照会される.累積情報は質と量のバランスが大切である.再利用の可能性が高い情報項目に絞り込み,きちんと分類,整理し累積しておかねばならない.
累積情報は,人事情報など一部を除き,共有化できる.しかし,アライブな情報には,戦略,戦術の立案に関わるトップ情報,未発表の研究データ,裏が取れていないない営業情報など,利用を限定したい情報項目がある.企業,学校の情報活用では,共有化と同時に,極秘情報の機密保持にも気配りする必要がある.ただ,極秘情報は時間の経過で,機密性が薄れていくものが多い.
数値情報は加工しやすい.市販ソフトで簡単にグラフ化できる.棒グラフや円グラフ,折れ線グラフなどにすると,見た目で傾向や推移を読み取れる.人の顔の表情や天気記号に変換するなど,工夫すればビジュアル化できる.統計や多変量解析などの手法を用いれば,科学的に分析できる.統計では算術平均,度数分布,分散,標準偏差などの手法がよく用いられる.多変量解析では,重回帰分析,判別分析,数量化などいくつかの手法があり,分析する目的により使い分けられている.入門書や解説書が出されているので,詳しい使い方はそちらを参考にするとよい.
文書情報には新聞や雑誌の記事,口述された話などがあり,業務のヒントや手助けとなる事柄が含まれていることがある.しかし,長さや用語も一定せず,数値情報のようには分析手法が体系化していない.文章情報の分析は,扱う人間の問題意識や直感が個人差となって反映される.とはいえ,よい分析を行なうためには,基本となる作業がある.そのひとつは分類である.分類には,あらかじめ分類枠を決めておき個々の情報をそこに仕分ける方法と,似た情報をグループ化し枠組みを発見する方法がある.川喜田二郎氏が提唱したKJ法は後者の例であり,既存の情報から新しい発想を得る手法としてよく使用されている.グループ間に相関関係や因果関係があれば,キーワードでフロー図や関連樹木図を作ったり,ポジショニングチャートの適当な位置に各キーワードを配置したりすれば,分析結果が視覚化できる.専門的になると,内容分析,ビブリオメトリックスなど文章情報を定量化する手法がある.
よいデータベースには長年にわたる広範な情報が大量に集積されている.キーワードの出現頻度を時系列で検索すると,傾向が定量的に把握できる.
データベース検索は,情報ニーズを検索式に組み換えて,検索式による集合演算により情報をヒットする.検索式はキーワードや分類コード,項目の数値の幅などを組み合わせて作るが,あくまでも情報ニーズを近似したものなので,検索結果に不備が生じる.情報ニーズに合致する情報を適合情報とすると,検索条件を厳しくしたためヒットしそこなった適合情報を検索漏れという.逆に,安全を見込んで条件をゆるくしたためヒットしてしまった不適合な情報をノイズという.具体的には,検索式にAND条件を多用すれば検索漏れが増えて,ノイズが減る.OR条件なら逆の結果になる.これには背反する関係にあるので,数件でもいいからフィットした情報を探したい場合は前者,漏れなく関連情報を収集したい場合は後者というように,情報ニーズに応じて使い分ける必要がある.また,本当に網羅的な検索をしたいなら,同種の複数のデータベースを併用して検索する.
上手な検索式を作るには,データベースの内容に熟知し,情報ニーズに対応する場数も踏まねばならない.こうしたデータベース検索の専門家をサーチャと呼ぶ.サーチャは利用者とデータベースの橋渡しをしてくれる人材であり,商用データベースサービスばかりでなく,企業,大学のインハウスデータベースの情報提供でも,サーチャ的な人材の育成が求められている.
パソコンで画像や映像を使ってビジュアルなプレゼンテーション資料を制作し,カラープロジェクタで映写できる市販ソフトが普及し,会議や営業,研究発表などの場で,OHPやスライド,VTRなどのツールに代わり使用されだしている.プレゼンテーションにマルチメディアの波が押し寄せている.しかし,相手にこちらの情報を伝達し,理解してもらうというプレゼンテーションの基本的なスタンスには,ツールによる違いはない.むしろ,市販のプレゼソフトはカラフルな資料を手軽に制作できるので,使う人のセンスが悪いと,インパクトが強すぎ逆効果となるケースもある.
そこで,プレゼ資料を制作する第1のポイントは,プレゼ相手にあわせ表現方法や伝達方法を工夫することである.資料の分かりやすさは相手によって差がある.専門分野の技術者が相手なら,専門用語や技術的なキーワードを使うと端的に理解してもらえる.企業のトップを相手にするなら,経済的あるいは日常的な指標に変換して説明することも必要となる.
第2のポイントは,伝達する情報の絞り込みである.広く浅く説明していては,盛り沢山が裏目となり,総花的で散漫な印象で終わってしまう.太く短く伝えたい情報を強調し,それ以外は思い切って切り捨てると,メリハリがでて効果的になる.
第3のポイントは,視覚にうったえるビジュアルな図,グラフの活用である.そこで,市販のプレゼソフトを活用し,写真や映像などを適宜に加えると,プロが顔負けするプレゼンテーション資料をパソコンで制作できる.パソコンなら,資料の並べ替え,作り替え,引用などが簡単な操作で行なえる.
ソフトウェアは情報をデータとして処理する.初期には,ソフトウェアとデータは一体のものであり,ソフトウェアごとにデータが作成されていた.企業,大学にデータの重複とデータ間の矛盾が蔓延し,情報活用の障害となった.企業,大学に通信ネットワークが布設されると,組織内の共通するデータを受け渡し,業務や研究の精度や効率を高めようとする標準化の取り組みがおこなわれた.この標準化の原則は,データベースをメインのツールに据え,そこに格納するデータの構造と関連を形式化することである.業務や研究で使用する基本データはデータベースで一元管理し,必要の都度,利用者のソフトに取り込んで分析,加工し情報活用するという方式であり,今日のクライアント/サーバの原形といえる形態である.
通信ネットワークが広域化すると,組織間でもデータをやり取りするようになった.その範囲はさらに国際間に拡大し,組織ごとに別々の基準で標準化されたデータの差を埋めるため,国際的な規格が検討されるようになった.国際標準化機構(ISO:International Organization of Standardization)は国際規格を制定する非政府機関であり,設計,製造に関わる標準規格であるSTEP(standard for the exchange of product model deta)や,文章構造を明示する規格であるSGML(standard generalized markup language)などはここで検討されている.ISOは電気,電子以外の技術規格について活動するが,電気,電子の国際規格は国際電気標準化会議 (IEC:International Electrotechnical Commission)で扱っている.ISOやIECの規格は日本工業規格(JIS:Japan Industrial Standards)として国家規格となる.電子データ交換(EDI:electronic data interchange)のための規格化は,通産省が情報化関連施策として,国際的な動きを視野におきながら活動を推進している.
建設工事は計画,設計から施工,供用までの過程を複数の企業,組織が分担する.建設分野では,他産業に増して,企業,組織間でデータを受け渡すための規格が求められている.CALSは時代により,分野により概念を変えてきたが,建設CALSの本質は建設分野のデータ規格化にある.国際的な規格は業種や業界に共通で使える部分が扱われている.業種,業界データを規格化するには,国際的な規格をベースに,それぞれの実状に適した内容に作り込む必要がある.そこに影響を及ぼすのは,既に業界に普及している事実上の業界標準(de facto standard)と呼ばれる基準である.
建設分野は図面や図書が情報の伝達媒体として多用されている.図面をCADデータで扱う場合,建設ではDXF(drawing interchange file)に変換されることが多い.DXFは建設でよく使われているAutoCADという市販CADソフトが採用しているデータ形式である.製造業では米国規格協会が制定したIGES(initial graphics exchange specification)というデータ形式がポピュラーである.IGESは国際規格であるSTEPでも検討の対象とされている.
建設分野では,建設省技術開発プロジェクトの「エレクトロニクス利用による建設技術高度化システムの開発」や,土木学会土木情報システム委員会の「建設支援のための土木情報システム」の研究をはじめ,建設情報のデータベース化,データの統一化,規格化に関連したCALS的な検討が,過去にも幾度か行なわれてきた.しかし,いずれも実を結ぶ段階までには到達していない.業界の規格化に,今日のコンピュータや通信ネットワークなど技術面の進化は追い風ではあるが,それだけで実現できるといった安易なものではない.建設分野に携わる一人一人が,組織の利害に固執せず,建設分野全体のために,自発的に情報活用の改善に取り組む必要がある.その先に建設CALSの実像が見えてくる.