大宮橋は、西条市街地から南へ四国山地に分け入り、石鎚山ロープウエイ乗り場を経て、山道を少し登ったところにある。1927(昭和2)年に建設されたこの橋は、山奥のあまり目立たない場所に架かっているにも関わらず、芸術的で美しい橋である。巨石がごろごろしている渓谷を一跨ぎにする力強いアーチと、その上部で床を支える列柱のリズムや優れたディテールが、渓谷美とみごとに調和している。また、近くで見ると、列柱上部も小アーチになっており、細かいところまで非常に丁寧にデザインされていることがわかる。それは普通の橋のデザインのレベルを大きく超えて、格調高い建物のデザインにも負けていない。
コンクリートは型枠に生コンを流し込んで造るものであるから、曲面を造ったり細かな凹凸を造るには、それを反転した形の型枠が必要になるが、これは単純にまっすぐなものを造るよりもはるかに難しい。また、列柱上部の小アーチ群は、橋の強度的には大きな意味はないので、普通なら、橋の外側のよく見える部分だけをアーチ状にし、内部の見えづらい部分は省略するところである。しかし大宮橋では、桁下からよく見ないとわからないようなところまで(いったい誰がわざわざ谷底まで降りて、桁裏を眺めるというのか)見事な局面で仕上げられている。
このような曲線を多用した優れたディテールを実現するには、当時の型枠職人の大変な手間と、かなりの建設費を要したはずであり、この橋の建設に対する関係者の意気込みの強さ、大きさがひしひしと伝わってくる。
このような芸術的な橋が、ほとんど人の訪れることのない山奥に架かっているのには理由がある。実はこの橋は、瀬戸内海側の西条から四国山地を抜けて太平洋側の高知へ至る幹線道路の一部として建設されたのである。ルート上には、大宮橋以外にも、鋼トラス橋である千野々橋(1925(大正14)年)、RC充腹アーチ橋である河口橋(1925(大正14)年)などの古い立派な橋も現存し、さらに岩盤をくり抜いた素堀りのトンネルも残されている。
この幹線道路は、明治から戦前にかけて別ルート(現在の国道194号)との誘致合戦があり、地元の熱烈な誘致運動が行われた。大宮橋は、現在では人通りのない山間に架かっているが、建設時には、いずれこの橋が幹線道路のシンボルとなることを想像して、このような格調の高いデザインが施されたのかもしれない。
残念ながらこのルートは戦後になって誘致合戦に敗れたため、現在では、大宮橋は人知れずひっそりと残されている。一方で、もしこちらのルートが採用されていれば、橋の幅(約4m)が狭すぎて交通量の増加に対応できなくなり、新しい橋に架け替えられ、この優美な橋は現存しなかったかもしれない。
ところで、あまり知られていないが、愛媛県は近代化遺産としての橋梁の宝庫である。愛媛県全体が橋の博物館といってよいほどさまざまな種類の橋梁がある。
全国的に珍しい形式のものとしては、現役唯一で最古の道路可動橋である長浜大橋(1935(昭和10)年)、三嶋橋(1923(大正12)年)や田丸橋(1944(昭和19)年)などの屋根付き木造橋梁群、要橋(1929(明治4)年)や赤ヒゲ橋(明治初期)などの迫持ち形の自然石アーチ橋などがある。
また、鋼橋では現役最古のトラス鉄道橋である石出川橋梁(1892(明治25)年)、現存唯一の明治の鋼アーチ橋である遠登志橋(1905(明治38)年)など、多くの遺産が残る。
さらに、鉄筋コンクリ―ト橋も多い。八幡浜市にある明治橋(1930(昭和5)年)は、下路アーチ橋(橋桁がアーチの下に架かる形式)としては、日本で最も古い「現役」の橋である。このほかにも、大正から昭和初期にかけて、鉄筋コンクリ―ト橋の技術が全国に普及し始めた時代のものが、愛媛県内全域に分布しており、数多く残されている。橋梁形式も桁橋、方杖桁橋、充腹アーチ橋、開腹アーチ橋など、さまざまである。
このうち、有枝橋(1922(大正11)年)と舟戸川橋(1930(昭和5)年)は、大宮橋と非常によく似たデザインである。この3橋を古い順に観ていくと基本的な形はほぼ同じであるが、ディテールのデザインが次第に進歩していくのがわかる。後で建設された橋ほどディテールが細やかになり、美しさを増している。
橋の設計者は、有枝橋が坂本一平によるものだとわかっているが、、他は不明である。しかしデザインはよく似ており、同一人物が設計や施工にかかわった可能性もあるし、別人だとしても前例を参考にした可能性は大きい。
設計者も職人も、先例を見習い、またそれを超えるものを造るために、腕をふるったのかもしれない。
諸元・形式:
形式 鉄筋コンクリート開腹上路アーチ橋
規模 橋長42.9m/幅員4m
竣工 1927年
(出典:未完の幹線のシンボル大宮橋,重山 陽一郎,土木学会誌91-3,2006,pp.74-75)
(出典:著者名:土木学会/編集 書籍名:日本の土木遺産 近代化を支えた技術を見に行く 頁:206 年:2012 分類記号:D01.02*土 開架 登録番号:58453)
愛媛県西条市西之川(加茂川)