平成26年度全国大会で、当小委員会は次のような研究討論会を実施いたしましたので、以下に、その結果をご報告いたします。
■研究討論会の概要
・テーマ;グローカル(GLOCAL)な視点で見直そう、土木分野におけるNPO・NGO活動を!
・日時;平成26年9月10日(水)16:15~18:15
・場所;大阪大学 豊中キャンパス 全学教育推進機構C306
■パネリストおよびモデレータ
(1) 土木学会:教育企画・人材育成委員会および土木計画学研究委員会
NPO法人 シビルNPO連携プラットフォーム 山本卓朗代表理事 (土木学会元会長)
京都大学防災研究所 多々納裕一教授 (計画学研究委員会幹事長)
(2) NPO活動研究分野
大阪大学大学院 国際公共政策研究科 山内直人教授 (日本NPO学会元会長)
(3) NPO活動関係者:NPO活動経験者による「地域連携の積み重ね」について
関西学院大学 災害復興制度研究所 松田曜子 研究員・准教授
東京都市大学 皆川勝 教授 (シビルNPO連携プラットフォーム地域連携担当理事)
(4) モデレータ
NPO法人 社会基盤ライフサイクルマネジメント研究会 有岡正樹 理事長
Ⅰ 概要
1.研究討論会のテーマ選定の背景
- 土木学会教育企画・人材育成委員会では、7年余の調査・研究活動を経て、土木学会100周年記念事業の一環としてこの4月にNPO支援組織「シビルNPO連携プラットフォーム(CNCP)」を設立した(8月1日NPO法人認証取得)。
- シビルNPO法人活動の他分野に比しての劣後性に対し、そのNPO支援組織が果たす役割と今後の課題を、グローバル(総論的)かつローカル(各論的)の両面に視点をあてて教育企画・人材育成/土木計画学研究両委員会の共催で議論を展開する。
- テーマに用いた‘glocal=global+local’の用語は、国際的vs地域的という視点だけではなく業際的、学際的、省際的、域際的等二極分化的事象の融合を意図している。
2.討論会の経過
【開会あいさつ】 駒田智久(教育企画・人材育成委員会 シビルNPO推進小委員会委員長)
本研究討論会は、教育企画・人材育成委員会の建設系NPO中間支援組織設立準備会(現在、改組してシビルNPO推進小委員会)と、土木計画学研究委員会との共催ですが、シビルNPO推進小委の委員長として挨拶させていただきます。
この研究討論会は、上記準備会の発足母体である成熟したシビルアエンジニア活性化小委員会の発足から7年を経て、土木学会設立100周年記念事業の一環として採択された中間支援組織の設立が、NPO法人 シビル・NPO連携プラットフォームとして結実したことを記念した討論会です。土木計画学研究委員会との共催ということや、日本NPO学会の会長も務められた山内直人先生のご参加も得て、幅広い議論の展開を期待します。
【研究討論会】
第1部:ローカルな視点でのNPO活動
① 2つの「小さな連携事例の積み重ね」
(1) 皆川勝 「地域インフラ長寿命化での役割」
(2) 松田曜子 「被災者支援と防災の現場より」
② 山内直人 「震災復興における社会関係資本と市民活動 ・地域活動の役割」
第2部:グローカルな視点でのNPO活動
③ 多々納裕一 「NPOと土木計画学」
④ 山本卓朗 「土木分野における中間支援組織設立と今後の展開」
第3部:会場からの意見と、これからのNPO活動展開と課題についての討論
⑤ 有岡正樹(NPO法人SLIM Japan 理事長) 「総括に代えて」
【閉会あいさつ】 福本潤也(土木計画学研究委員会幹事)
計画学研究委員会幹事として、今回の全国大会での研究討論会の企画を指示され、頭を悩ませておりました。本日のパネラーでもある山内先生が主催されたNPO学会のセミナーで私が話題提供を行ないましたところ、有岡さんにも会場から意見を頂きましたが、会議後の雑談から今回の討論会の話が持ち上がり連携開催する運びとなりました。いわば小さなソーシャルキャピタル事象ともいえるかと思います。
本日の議論では、NPOの活動をいかに支援していくべきかという視点が若干不足していた気がしました。シビル分野のNPO活動をいかに活性化するかは非常に難しい課題で多方面から取り組みが必要になると思います。土木計画学分野からは、比較的うまく活動を展開しているNPOの事例分析を行い、成功要因などを明らかにしていくことで、学術的観点からシビル分野におけるNPO活動を間接的に支援していく必要があると考えています。
Ⅱ パネラー話題提供要旨(発表順)
①皆川 勝
テーマ「小さな連携事例の積み重ね(1)-地域インフラ長寿命化での役割」
1.地方自治体における道路の維持管理の現状と課題
2.NPOの関与の可能性に関するアンケート結果
3.NPOの関与の可能性に関する事例紹介
4.NPO同士の連携の必要性と可能性(CNCPアンケート結果紹介)
5.今後のNPOのかかわりの可能性
②松田曜子
テーマ「小さな連携事例の積み重ね(2)-被災者支援と防災の現場より」
・災害の被災地支援と防災は、ボランティアと土木分野との距離が最も近接しているー
マのひとつである。
・ボランティア活動資器材と被災地支援における建設業協会との協働事例の説明。
・現在、土木計画学系でも、土木分野の社会的存在価値を高めるために、東日本大震後
の復興に貢献した事例を物語化するような研究が見られる。そうした活動も大切ではあるが、事後に言葉で信頼を得ようとするのは戦略的ではない。
・実際に市民の信頼を得るには、上記で述べたような実践を通じて、日頃からの関係を築いていくことが重要。また、信頼を得た建設業者が適切な評価を受けるように制度の適正化も図っていくべき。
③ 山内直人
テーマ「震災復興における社会関係資本と市民活動・地域活動の役割」
・震災復興にあたって、ハードの社会資本の再建だけでなく、ソフトの社会関係資本(ソーシャル・キャピタル、SC)の再構築が重要である。
・NPO活動は、SCの培養を促進するといわれるが、災害復興過程でSCが壊れるという可能性もあるので、注意が必要。
・震災前にボランティアやNPOなど市民活動や地縁活動に積極的に参加しているほど、支援者比率・受援者比率がともに高い。日頃の活動実績、活動経験を通じての信頼度がモノを言う。
SCが豊かであれば、NPO活動が展開されやすいともいわれるが、NPO=NPO法人で
はないことに要注意。一般社団・財団、公益法人、認定NPOなども重要な役割。それらを総合してのNPO活動を活発化させる政策を実施することにより、間接的にSCを培養することに繋がる。
④ 多々納裕一
テーマ「NPOと土木計画学」
・土木計画学においては、NPOは、第一には研究の対象として、第2には実践や啓発活動などの場としての位置づけることができる。
・学問の対象としては、住民参加や合意形成など、市民参加型の社会資本整備やまちづくり、PI等の制度設計などに関連してその役割が議論されてきた。近年は、実践的研究も重要性を増している。
・提案型の整備のように、住民や基礎自治体が国や県などの行政や専門家などを巻き込むなど、計画のイニシアチブにも変化がみられるが、このような変化に対応できる計画論は未だ発展途上である。
・活動の媒体としてのNPOには、実践の場としてのまちづくりNPOや災害NPO等の他、啓発活動を含むNPOも展開されている。
・中間支援組織として、中越復興市民会議の例を挙げ、地域に寄り添う復興支援員のような活動が今後重要となることを指摘する。
・その上で、地域に寄り添う専門家、若者、技術者をいかに確保し、持続可能な活動につなげていくか、問題提起したい。
⑤山本卓朗
テーマ「土木分野における中間支援組織設立と今後の展開」
1.中間支援組織設立までの流れとミッション
・土木学会におけるシニアエンジニア人材の活用議論からスタート
・土木分野におけるNPO活動に注目し組織化にむけた努力
・建設系NPO連絡協議会からシビルNPO連携プラットフォーム(CNCP)へ
・CNCPのミッション:既存シビルNPOのネットワーク化
:産学官と社会(サードセクター)との連携促進
・CNCPの具体的な事業へ(地域活動、サービス、事業化)
2.今後の展開に向けての課題
・“抽象的”なテーマ(中間支援組織と連携)について深度化すること
・土木界におけるサードセクター活動の脆弱性について解明すること
①土木界は社会とのかかわりを真に持ってきたのか?
②産官学体制でやってきたインフラ整備をどのように変革させるのか?
Ⅲ 話題提供に基づく会場からの意見とパネリストの考え方の整理
(会場からの質問・意見対し、その都度2~3名のパネリストから意見をいただいたが、本報告書はそれらをいくつかの切り口に仕訳して編集したものである。一部表現等にモデレータのまとめ方が反映されていることをご了承願いたい。)
1.インフラの老朽化に関連して(NPOの組織としての、またその活動の信頼性)
・行政の技術者不在と財政難(コンサル点検は15m以下の橋でも20~30万円/橋の現実)
・住民による橋梁点検(クラウドソーシング的手法)に対する課題
素人集団としての信頼性、点検結果責任、点検中の自損事故、何がしかの報酬
・いくつかの可能性:
→統計処理・解析は専門家(例えば橋守センターのようなNPO・サードセクターや大学等)
→専門家による点検を絞り込むための事前情報としての利用(例えば岡山県山中氏の例)
→国交省等も関係主体としてNPO、住民の役割に注目(ソーシャル・キャピタル)
2.防災・減災活動に関連して
・例としてNPO法人による災害ハザードマップ作成:
→いきなり責任所在に入るのではなく、長期的に見て地域のものをみんなで守るとい
う合意のきっかけとしても重要(時間をかけてパブリックリレーションに発展させて
いく)
→NPO・NGOのガバナンス:キーワードは信頼(政府への信頼の背景は民主主義)
・責任というと罰則・罰金の議論に発展しがちだが、改善(手柄)に対する褒賞に主眼を(何か良いことをした場合の対価)→英国などでのソーシャルインパクト・ボンドの例(有岡注)
3.ソーシャル・キャピタル
・必要なコミュニケーション能力であり、広報活動の重要性。
・下心のないNPO活動への「信頼と評価」は情報公開によって得られる(一つのNPOへの不信がNPO全体に及ぶ例は米国などでもまれではない)。
・ただ、シルバー人材センター(もちろん必要だが)とは視点の違った、専門性がキーワードの議論であることの認識は必要。
4.シビルNPOとソーシャルビジネス(休眠状態からの脱却)
・市民参加型はコスト削減の手法ではない、その内容と程度によるということを認識
・NPO法人への事業応募資格登録など制度・仕組みの検討が必要だが、発注者支援(NPO)と専門業務(コンサルタント)の仕訳が必要。
・一部民業との重なり・競合があっても、その前提はスキルの検証であり、能力に対する信頼である。CNCPによるその認証と実務者への教育・研修が重要。
・地方自治体の有識者会議等へのNPO活動人材派遣要請対応や、コンサルタント選定の支援等。
5.シビルNPOのあり方
・知験があり専門家の能力を持ちながら、役割を果たせないことへのいらだちを絶てるか。
・行政の力への市民の過剰な信頼・依存が薄れてきている中で、NPO組織が市民社会と共存できる集団であることを市民に認識してもらえるかどうか。
・専門能力自我自尊から一歩下がって、防災や街づくりNPO活動のように(地方)行政とのコミュニケーション重視といった点に学ぶことも多い。
・これまで土木分野では行政に目を向ける傾向が強かったが、そうした認識を市民にというパラダイム転換が必要ではないか。
6.CNCPへのアドバイス
・中間支援組織の役割はアドボカシーやNPOへの支援といった、一般には分かりにくい組織であるので、広報活動がまずありき。
・寄付や法人会員費、事業収入のといった資金調達のむつかしい組織であるので、ソーシャルビジネス化を目指すべきである。
7.モデレータとしてのまとめ
話題提供及び意見交換を聞いて、去る2月大阪大学工学部で道路交通混雑対応に関連してオーストラリアNSW大学John Black名誉教授が講演した際の、「ステークホルダーズ・マネジメント」に対する以下の考え方をPPTで投影、紹介して、研究討論会を終了した。
CONCLUSIONS
- Traffic Calming – not conclusion but process
- Needs guidelines – not solution but for stakeholder support
- Needs professional competencies for implementation – consultants (neutral)
- R&D important to underpin guidelines