全国土木弁論大会2025「有馬優杯」 優秀賞
「普通ということの幸せ」 塚田 滉大
「みなさん、今日はこの会場まで、どのように来られましたか?」 電車に乗って来た方。 ですが、その道中で、“道の凸凹”や“段差”に注意して来た方は、どれだけいたでしょうか。 ほとんどの人にとって、歩くことや移動することは、「当たり前」なのかもしれません。 そこで、ひとつ質問です。 「当たり前」とは、一体なんでしょうか。 「当たり前」とは、日々の繰り返しによって作られる感覚です。 人は慣れていく生き物です。 慣れは、日々の暮らしを楽にしてくれる人に備わった、便利な機能です。 ですが、その「慣れ」によって、 「当たり前は当たり前ではないの」にです。 電車があるのは当たり前ですか? 今から11年前、私は「当たり前ではない」ということを痛いほど知りました。 14歳の夏。脳出血で倒れました。 右半身の麻痺。 今こうして皆さんの前で話していますが、当時は話すことも、話を聞いて理解することも、文字を読むことも書くことも、まったくできませんでした。 それまで「普通」だ思っていたことが、突然できなくなったのです。
病気になって、初めての外出。 一歩外に出ると、そこには現実の「社会」がありました。 ラーメン屋に着いた、私の目に入ったのは、のれんではなく、入り口の3段の段差でした。 小さな段差が、大きな壁のように感じました。 病気になって、私の「視点」は変わっていました。 そして今、私は理学療法士として働いています。 仕事では、患者さんが抱える課題を見つけ、それをどう乗り越えていくかを常に考えています。 その中で、身体機能と同じくらい大切なのが、「環境」です。 なぜなら、同じ体の機能でも、環境が違えば「できること」と「できないこと」は大きく変わるからです。
道がデコボコしていれば、車いすは通れません。 私たちにとっては些細なことでも、高齢者や障害のある方にとっては、大きなハードルなのです。 実際に、生活道路のバリアフリー整備を行った地域では、高齢者の外出頻度が週4.5回から6.2回に増加し、徒歩の移動距離は1.5倍に伸びたという研究報告があります。 さらに、「転倒が不安」と答えた人の割合は、整備前は7割だったのに対し、整備後は4割へと減少しています。
つまり、環境が整えば、外に出るハードルが下がり、 人と関わる機会も増え、その人らしい人生を歩みやすくなる。 リハビリとは一言で言えば、「できなくなったことを、もう一度できるようにする」こと。 そしてその背景には、体だけでなく、心や環境が大きく関わっているのです。 そう考えたとき、私は思いました。 道路、橋、スロープ、 でもそれは、物理的なラインだけでなく、 道があることで、もう一度外に出る勇気が湧く。 土木には、そんな力があります。 そして、最後に伝えたいことがあります。 それは── 当たり前は、当たり前ではない。 現代を生きる私たちは、あまりに多くのものに囲まれすぎて、 だから悲しいことに、 土木は縁の下の力持ちです。 日常にあるのが当たり前すぎて、 健康と とても良くも似ていると私は思いました。 空気のように、ないと生きていけないのに、気づきことが難しい。 歩けること。 失ったら、とても困るのに、失ってから気づいてしまう。 すぐそばにある幸せが、当たり前になってしまう。 だから私は改めて、当たり前ということに、目を向けて欲しい、 皆さんの当たり前が |