土木の仕事の範囲はインフラをつくる、まもるだけなのでしょうか?
私は、国土を創造することこそ土木の役割だと考えています。
国土の創造は、ハードもソフトも全て含みます。
工学に留まらず、全ての人、全ての学問が関わることができるのです。
土木が、工学で閉ざされた世界ではなく、もっとオープンになることで、より豊かな国土の創造が実現できるのではないのでしょうか。
私がこのように思ったきっかけは2つの「橋」との関わりです。
1つ目は、余部橋梁。
私が大学生の頃、余部橋梁の架け替え工事が終わった時だった。
まちとまちを結ぶ、地域のシンボルとしてあり続ける、先人たちの思いを新しい技術で後世に伝える、そんなストーリーに感動しました。
橋は技術だけで作れるのではなく、橋のストーリーがエッセンスなんだと気付きました。
その数年後、鉄道の橋を守る人として、私の技術者人生が始まりました。
これが2つ目のきっかけになります。
頭の上を列車が走る橋の中で点検をする日々、どんなときもお客様を安全、安心に運ぶためには、暑いとか、汚いとかそんな言い訳が通用しない世界でした。
橋を守る仕事は地味で目立たないかもしれないけれど、鉄道として、日本を支えるインフラとして、社会への貢献を感じることができる日々でした。
ある時、ふと気付いた。
私が守っている鉄道は60年以上前につくられた。しかし、今なお日本の大動脈として、日本経済を支え続けている。21世紀を生きる私たちの生活は、先人たちの技術と苦労の積み重ねの上に成り立っているのではないか。
60年後の日本はどうだろうか。
果たして、そこに住む人々は今よりも豊かな生活を実現できているのだろうか。
インフラ整備を軽視することは、安全・安心・快適な生活、すなわち私たちにとって当たり前の日常を脅かすだけではなく、日本経済の衰退や国際競争力の低下までを招いてしまう。
国づくりの根幹となるインフラ整備をコツコツと進めていくことが、これからの日本にとって重要なミッションではないでしょうか。
国土の創造には時間がかかる。22世紀の国土の創造は、今始めないと手遅れになってしまうのです。
先人達が積み上げた国土を継承し、発展させ、後世に繋いでいくことが、今を生きる私たちの仕事なんだ。
このように、私は「見える橋」との関わりを通して、本当に豊かな国土や日本を創造するためには、土木だけの力では限界があると感じました。
ならば、工学に留まらず幅広い視点を養い、多くの人を巻き込みながら国土を創造する人材になろう。
いま私は、「安全・安心・快適な社会の実現と国土基盤の確立を通して100年後も世界に誇れる日本を創造する」という夢を叶えるべく、政治や経済、政策を勉強している。
対処法ではなく、既存の構造システムを変えるには、広い視野と中長期視点が欠かせないです。
土木で鍛えられた100年後を見据えるという思考は、成熟社会における複雑な課題を解決する上でも非常に役立っています。
冒頭に触れたように、国土の創造は全ての人、全ての学問が関わる。
インフラや国土の問題を解決するためには、土木以外の人たちとの協働が必要なのです。異なる分野を統合していくときに、カギとなるのはコミュニケーション。
しかし、学問や分野が違うと、前提条件や価値観も異なり、円滑なコミュニケーションが阻害されることも多いんです。
私は政治学を学んで、政治学の「権力」を着眼点とした研究手法の面白さを知りました。
また、社会学を学んで、人間という法則性のない複雑なもの、白か黒かはっきりしないグレーな状態を研究することの難しさを知りました。
改めて工学を考えてみると、最適化や合理性を求め過ぎて、「人」の顔が見えていないのではと感じるようになった。
このように互いの学問のディシプリンを知ることが、異なる学問や研究者の価値観の理解に繋がり、シナジーを生み出す。
学問は違えど、インフラを通して、地域を、社会を、日本を良くしたいと思っている人はたくさんいるのです。
これまでは、技術者として「橋」に関わってきましたが、これからの私の役割は、土木の専門家と他分野の専門家を繋げ、社会の中に土木と繋がるたくさんの「橋」を架けていくことです。
さらには、時代を超えて、国土に根付く歴史や文化といったストーリーを次世代に紡いでいく、そんな未来への橋も架けていきたいです。
そして、見えない橋をたくさん架け、インフラや国土に新たな変革をもたらすことで、次なる日本を創造していきたい。
国土を創造するために、見えない橋を架けるのも土木技術者の仕事。
こんなことが当たり前になる未来を切り開いていきたいです。
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