全国土木弁論大会2024「有馬優杯」 最優秀賞 オーディエンス賞
「土木を仕事にする『究極の砂遊び』への挑戦」 田中 基
首都圏最大の環状道路である圏央道。私は、その最後の未開通区間をつなぐトンネル工事に現場技術者として従事しています。日々の現場業務はほんとうに忙しく、心が折れそうになる日もたくさんあります。それでも土木のことが好きで、工事の竣工に向けて必死に頑張ることができる理由、それは土木の現場は常に活気があふれ、そこにはたくさんの魅力があるからだと思います。 本日は、私がこれまでの人生で体感した土木の底知れない魅力を伝えたく、土木との出会いから現在までの成長譚とともに追体験してください。 私と土木の出会いは幼少期、公園の砂場から始まります。サラサラの砂に少しずつ水を足し、バケツとスコップを片手に自分だけの世界を作り上げます。山をつくり、川を流し、トンネルを掘って橋を渡す。まるで神様のように自由な創造を繰り返していましたが、ここには土木技術の本質がたくさん詰め込まれています。サラサラの砂山を崩さないために、丁度良い加減に水を加え、両手で一生懸命叩きながら砂を締め固める。こうすることで砂山がしっかりと安定します。当時はなぜだろう?と不思議でしたが今思えば、無意識に土木の本質に触れており土木技術者としての第一歩を踏み出していたのです。こうして、試行錯誤しながら完成させた砂山のトンネルは達成感でいっぱいでした。 そんな私は大学で、次にコンクリートと出会います。コンクリートの魅力は、その柔軟性にあると思います。材料の配合次第でいかようにも性状を変えることができ、その性状を上手く利用することで、複雑な形状をした構造物でも自由に作り上げることができます。また、洗練されたスタイリッシュな外観も魅力の一つで、歴史的な土木遺産の美しさは、コンクリートの外観的魅力によるものも大きいと思います。そんなコンクリートの魅力にすっかり虜になり、大学時代は卒業までに約100トン以上のコンクリートを自分で練り上げて、その性状の違いを学びました。そして、このころから私は、この経験を活かし、自分で土木構造物を造ってみたいという強い気持ちが生まれ、迷いなく建設業界への就職を決めました。 そして現在は、現場技術者として初めての配属先であるトンネル工事に従事しています。そこには公園の砂遊びを究極に極めている世界が広がっていました。ただし、規模は公園の砂山の1万倍。少しでも振動を与えたら崩れてしまうさらさらの砂山にトンネルを掘り進める難工事です。土木工事の規模や、難しさ、責任の大きさに緊張感は膨らむものの、求めていたやりがいを感じました。砂山を崩さずにトンネルを掘るには、その砂の性状や、粒度の分布、水がどの程度含まれているかなどの問い1つ1つに大学教授・現場技術者など多くの関係者が真剣に議論し、時には砂の粒の大きさ1つに終電をなくすまで議論したことだってありました。坑夫と呼ばれるトンネル専門作業員の方も真剣です。トンネル掘削期間中は、無事の掘削を祈願し、験を担いで決してお茶づけを食べません。これは、ご飯にお湯をかけることで、山が水で崩れてしまうことを連想してしまうためです。また、ある夜中の2時、異音がすると現場に呼ばれたこともあります。山が崩れてしまうのではないかと不安を抱きながら、大慌てで現場に駆け付けると、カエルの鳴き声でした。そのくらい小さな物音でも聞き逃さずに対応する。それほど現場に関わる全員が真剣に取り組んでいます。 そして、今年の2月末、トンネルは無事貫通いたしました。貫通の際は、協力いただいた地元住人の皆様、工事関係者などあわせて数百人に現場にお越しいただき、皆でお祝いをしました。最後の掘削が行われ、トンネルに小さな穴が開くとともに、薄暗い中にスゥと、一筋の光が差し込んできた瞬間、数百人の歓声が沸き、万歳の掛け声があがりました。まるで映画のクライマックスのような希望に満ちた気持ちになり、気づけば涙が止まりませんでした。土木工事は、強大な自然に対し、道を切り拓いていく、本当に困難な仕事です。しかし、仲間たちと試行錯誤を繰り返すことで、その困難を乗り越えることができます。子供のころは砂場で一人で遊んでいましたが、今では一丸となることで公園の砂山の1万倍の成果を生み出すことができました。この究極の砂遊びは何事にも代えがたいものです。そしてこの感動を皆様に共有したい、これが私が弁論大会に出場した動機です。 少しでも皆様に土木の魅力が伝われば幸いです。本日はお忙しいところご清聴いただき、ありがとうございました。 |