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「「逃げろ」をデザインする」

投稿者:土木広報センター 投稿日時:水, 2023-08-09 17:10

全国土木弁論大会2023「有馬優杯」 優秀賞 オーディエンス賞

「「逃げろ」をデザインする」 伊藤美輝

橋、堤防、トンネル。私たちの生活を支える、土木構造物たち。これらは、関東大震災などの災害を経験し、私たちの日常を守れるよう、着実に強く進化してきました。

しかし、その進化に限界があることを東日本大震災が知らしめてきたのです。どんなに高い堤防を作っても、津波はあざ笑うかのように乗り越えていきました。

そんな東日本大震災を経て、私たちが学んだこと。人間がどんなに災害を防ごうとしても、自然の力に負けることがある。つまり、「どうせ大丈夫」と過信せず、自分で逃げる。これが命をまもるための基本なのです。

 

ではここで、皆さんに一つお聞きしたいことがあります。皆さんは、「自分は逃げるタイミングを適切に判断できる」…そう自信を持って言えますか?

避難指示が出されたとき逃げればいいのでしょうか?しかし、避難勧告が災害発生に間に合わないケースもあります。

あるいは、「逃げなくてもなんとかなるでしょ」…そんなふうに思ってしまう、心理的バイアスも邪魔してきます。

そんな状況でも、皆さんが自信を持って「逃げられる」と言える。そんなまちづくりを、今日提案させていただきたいです。

 

 

ところで、先ほど皆さんに投げかけた、「逃げるタイミングを判断できるか」という質問。私の答えは、正直なところ、NOです。

逃げるタイミングを判断できなかった経験をお話します。

 

ある日の夜中大雨が降り続き、自分のスマートフォンがけたたましく鳴り響きました。自宅周辺の地域に、土砂災害による避難指示が次々と出ていたのです。

私の家の後ろにも、崖があります。「そろそろ私も避難したほうがいいのかな?」しかし、暗い中崖を見つめても、「もうすぐ崩れるよ」なんて教えてくれない。

いつ避難すればいいのか、右往左往してしまったのです。

 

こんな私ですが、実は土木を勉強している大学生。土砂災害は勉強していますが、それでもお恥ずかしいことに、判断がつきませんでした。

 

土木を勉強している自分でも判断できないなら、まして市民の方が分かるはずもない。逃げ遅れは、「避難するタイミングが分からないから生まれるのではないか」そう、危機感を覚えたのです。

そこで私は提案します。構造物が「逃げろ!」と伝えてくれる仕組みを。

構造物が壊れる前兆が見られるときや、使用したら危険な状態であるとき、それを市民の皆さんが一目で認識できる仕組みです。

 

 

その仕組みは、ちょっとしたデザインの工夫で実現できると思うのです。

2つ例をあげましょう。

 

まず、道路のデザインの紹介です。道路が大雨で冠水したとき、車のエンジンが故障する水深であることを教えてくれます。

その道路がある場所は東京の代々木。線路と道路が交差するところで、道路が谷の形になっており、水が貯まりやすいです。その下り坂の道路上には、車の白い停止線のように、赤く線が引いてあり「水深0.5m」と書かれています。

もし、谷底の水深が0.5mになると、その線まで道路がつかるのです。そのおかげで、ドライバーは危険な水位に突っ込む前に、ペイントを見て、直感的に危険を回避できます。

 

もう一つの例を紹介しましょう。神戸大学とダイヤコンサルタントが共同開発したものです。

トンネルを掘る工事現場で、掘った後の土が崩れてきそうなとき、緑のランプが赤に変化する、という工夫です。

工事現場で使われる、土のずれを測る変位計という機械が、異常な値を計測すると、すぐ色が変化します。この「光る変位計」を見れば、値を見て危険を判断できない作業員さんでも、すぐに逃げることができます。

 

 

いかがでしょうか。ペイントを道路に施す、色が変化するライトを付ける。どちらも派手な技術では決してありません。しかし、適切なタイミングで「逃げろ」を伝えられるデザインです。

近年、時代の流れが速くなり、最先端技術ばかりが注目されがちです。しかしこういう一見地味な工夫が、人の命を救うのではないでしょうか。

 

災害から日常を守れるよう、土木構造物が進化して、災害との遭遇率が下がった現代。それは同時に、いざというとき、”どうせいつも通り大丈夫でしょ”と過信してしまいやすくなった、とも言えます。

それならば、土木構造物を更に進化させて、避難を誘導できるようにするのも、土木技術者の役目ではないでしょうか?

そして、市民の皆さんには、技術者がデザインで残したメッセージを見逃さず、適切な避難ができるよう、アンテナを張っていただきたいです。

そうして一緒に、逃げ遅れ0の社会を作っていきませんか。

 

(c)Japan Society of Civil Engineers