メインコンテンツに移動
土木学会 土木広報センター 土木リテラシー促進グループ 土木学会 土木広報センター
土木リテラシー促進グループ

メインメニュー

  • 委員会サイトTOP
  • 土木広報センター
  • 土木学会

土木広報センター 土木リテラシー促進グループメニュー

  • 土木広報センター 土木リテラシー促進グループホーム
  • グループメンバー

グループ活動

  • 土木偉人かるた
  • 土木偉人フォトウォーク
  • 全国土木弁論大会
  • 土木偉人イブニングトーク
  • 土木偉人かるた公式Twitter
  • 「有馬優杯」公式Twitter
  • 土木学会tv(アーカイブ、土木偉人シリーズ)

ユーザログイン

(共用パソコンではチェックを外してください)
  • パスワードの再発行

現在地

ホーム

「if…」

投稿者:土木広報センター 投稿日時:水, 2023-08-09 17:09

全国土木弁論大会2023「有馬優杯」 最優秀賞

「if…」 森元隼人

If。「もし。」

もし、今地震が起きたら、火山が噴火したら、斜面が崩れたら?

日本は非常に自然災害の多い国です。特に地震においては、世界で発生したM(マグニチュード)6以上の地震のおよそ20%が日本で起こっているというから驚きです。日本という国に住む私たちにとって、自然災害はすぐそこにあり、今この瞬間にも被災する可能性があります。

 

ただ、自然は災害だけではなく、豊かな恵みももたらします。

日本の地で生きてきた人々は、そんな「自然」の事象を神によるものと考えていました。

農業や漁業を通じて、ひとびとに豊かさをもたらす「恵み」。

地震に水害、干ばつなど、人々に襲い掛かる「災い」。

人々は自然に対して「畏怖」の念を持ち、怒れる「災い」を鎮め、豊かな「恵み」を受けようと、自然への信仰・祭祀を行ってきました。

そんな信仰や祭祀をルーツに持つのが、「神道」です。

 

私は現在、國學院大學の神道文化学部に通い、神職の資格取得の為日々勉学に励んでいます。

今回、神明への奉仕を志す一人として、信仰などが紡いだ防災意識について論じます。

 

もし、今災害が起きたら。

関東大震災が起きた100年前も、防災技術の発展した現代社会においても、人間は自然災害の発生を明確に予測・防止出来ていません。

 

だからこそ、先人たちは災害について記録をし、後世に残そうとしてきました。

阪神淡路大震災や、東日本大震災のオーラルヒストリ―をはじめ、古くは「日本書紀」や「方丈記」、各藩の記録にも多聞に残されています。

 

しかし、特に古い時代において体系化された歴史の記録の多くは、勝者の歴史、つまり、歴史を残せるだけの立場があったものによって刻まれます。

そのため、歴史にならなかったものの声は刻まれません。

でも、そんな声が刻まれているものがあります。

それが「信仰」と「地名」です。

 

信仰から説明します。

「土木学会論文集F6(安全問題)」、において「東日本大震災の津波被害における神社の祭神とその空間的配置に関する研究」という論文があります。この論文では、東日本大震災における津波被害において、「スサノヲノミコト」を祀る神社が津波被害を免れていること明らかにしました。

また、甲斐川がモデルとされる八岐大蛇を退治したスサノヲノミコトは、治水の信仰と重なり、スサノヲノミコトをお祀りする神社は治水上の要所に鎮座していることが多いことを述べています。

つまり、スサノヲのお祀りされている神社、もしくはその土地は水害に対して強いことが想定できます。

 

また、農業豊作に伴うお祀りは「風害」や「水害」、秋祭りは台風の被害減少を祈るなど、地域の神社におけるお祀りによって、その地域ではどういう自然災害が多かったのかを知ることができます。

 

また、東日本大震災の際、「此処より下に家を建てるな」という「大津波記念碑」の存在が話題になりました。同様の石碑は日本中に多くおかれています。この石碑の教えを守り続けてきた岩手県宮古市重繁姉吉(おもえあねよし)地区では、津波による建物被害が一軒もありませんでした。これも、先人の残した教訓を信心深く守った結果でしょう。

 

次に、地名です。

日本には「災害地名」と呼ばれる、災害の歴史や、地形などからつけられた地名があります。

政府は、「水」に関する川、池、浦、田などが使われた地名は海や川の近く、低地や湿地帯など水害の起きやすい土地であることを。

「蛇」や「竜」などの地名は、過去に大規模な土砂災害が発生している場合、「猿」は地滑り、「鷹」は急傾斜地など、地名と災害リスクの結びつきについて紹介しています。

全国の地名が全て当てはまるとは言い切れませんが、そのような傾向があることは確かです。

地名を知ることで、地域の災害リスクについて知ることもできるのです。

 

本弁論はYouTubeにて公開されると聞いています。

私はこの弁論を聴いているすべての皆さんに「もっと自分の住んでいる地域について知ってほしい!」ということを強く訴えたい!

 

人間の一生はとても短い。人間に比べて長いサイクルで発生する災害に対して、「信仰」や「地名」は長いサイクルで現代まで紡がれた、先人の知恵であり、歴史に残らなかった、地域の先人の声なのです。

 

自治体では、ハザードマップを作成して地域の住民に自然災害の危険性や、避難について周知してくれます。しかし、「信仰」や「地名」などの情報には触れられていません。

 

特に、自治体合併や再編による地名変更などがここ百数年で大きく進みました。神社も神職が減少し、廃さざるを得ない状況も増えています。信仰や地名が廃れることは、過去とのリンクが失われることを指すと言っても過言ではありません。

 

人事を尽くして天命を待つ、とは言ったものですが、災害に対しても日ごろからの意識が大事です。皆さんはハザードマップで満足せず、自分の住んでいる地域の昔の地名はどうだったのか、近くの神社ではどんなお祭りがされているのか、過去とのリンクを調べて自然災害への意識を強く持ってください。

 

If a natural disaster occurs now.

もし今、自然災害が起きたら。

そんな「もし」のために、

自然を知り、災害を知り、住んでる地域を知り。

そして、常に自然への畏怖を。

 

(c)Japan Society of Civil Engineers