全国土木弁論大会2023「有馬優杯」 奨励賞
「Civil Engineering Defense Program 土木技術者による自主防災活動支援」 野島立也
携帯電話から突然鳴り響く警報音、スピーカーから流れる土砂災害警戒情報。 それを聞いて不安を感じたことはないでしょうか? 避難行動や避難準備をしたことはありますか? 土砂災害の発生する可能性がある地域は全国で約64万ヵ所、日本の総人口の約5%がこういった場所に住んでいます。土砂災害警戒警報で土砂災害を経験していない地区では災害発生前に避難したのは9%に留まります。 避難しない理由は何でしょうか? 自分達の住んでいる場所が危険か、避難指示が出ても、いつ、どこへ、どうやって逃げれば良いのかよく分からない方が多いのではないでしょうか?
とはいえ、熱海や広島での土砂災害の発生、度重なる豪雨、30年以内に東海、東南海、南海地震の発生する可能性が高いと言われています。災害に巻き込まれる可能性、避難方法や避難場所について漠然とした不安を持っていませんか?
地震や土砂災害が発生した場合、犠牲者はゼロにできないのでしょうか? 2001年9月6日 高知県西南豪雨災害 最大時間雨量110mmの集中豪雨による土石流の発生とそれに伴う河川の氾濫により、家屋の全半壊18棟、床上・床下浸水合わせて、712棟の被害が発生しました。 四国防災八十八話の第五十一話「救ったのはひとのつながり」では夜間、豪雨と道路が冠水しているなか、区長さんや消防団員の方々が全戸を歩いて避難の呼びかけ、独居老人宅の訪問・救助を行い、犠牲者をゼロに抑えたという事例が紹介されています。
民間防衛(Civil Defense)という言葉を聞いたことはありますか? 民間防衛とは武力紛争や災害等の緊急事態において 市民によって、生命や財産を守り、速やかな救助、復旧によって被害を最小化する活動です。 災害等に対する自主防災活動も民間防衛の一環といえます。
土木技術者は災害に対しての知見を持っており、ある程度の災害の発生を予見することができます。 土木技術者として、災害発生時に「いのちをまもる」ために何ができるか? 災害や防災について熟知している土木技術者だからこそできる地域防災支援として、次の4つのキーワードからなるCivil Engineering Defense Programを考えました。
一つ目のキーワードは「災害を知る」です。自分の住んでいる地域の土砂災害等の危険性について不安に思ったことはないでしょうか? 土木技術者による出前授業等を通じて、住民の方々が土砂災害の危険度、土砂災害にはどういった種類があり、どんな前兆現象があるのか、どう避難すればよいか等「災害を知る」が第一歩だと考えます。 活動例として高知県土木部防災砂防課では「あなたの大切なものを土砂災害から守るために」という冊子作成し、災害を知るための取り組みを行っています。
二つ目のキーワードは「兆候に気づく」です。日常生活の中で、大雨の後に道路上に石が転がっている、擁壁の割れ目を見て不安に思う事はないでしょうか?そういったふとした気づきが災害発生の防止や減災対策につながることもあります。そういう気づきがあった場合はお住まいの自治体や地盤品質判定士会に相談頂けたらと思います。実際に地盤品質判定士会では個人を対象とした宅地地盤に対する相談を横浜市や川崎市等の自治体と連携して行っていますので、危険性の評価等の対応ができると思います。
三つ目のキーワードは「安全に避難する」です。避難場所、避難経路、所要時間、避難経路の安全性について、分からない人もいるではないでしょうか?土木技術者と町内会が企画して、一緒にハイキングや散歩がてら避難経路を歩いてみる活動はどうでしょうか。避難経路の状態を確認しつつ、坂道などの障害、所要時間を確認しておけば実際の避難時に役立つと思います。
最後のキーワードは「人のつながり」です。高知県西南豪雨災害では、全戸を訪問しての避難の呼びかけや避難支援が犠牲者ゼロの鍵となっています。こういった呼びかけは安全を確保した上で行う必要があり、土木技術者による危険個所や被害予想の共有が活動の際のサポートになると思います。 とは言え、実際に活動するのは、避難の呼びかけや避難する人であるため、どんなに技術が進歩しても、防災の決め手は「人」、そう思いませんか?
危険箇所数はあまりに多く、全ての箇所で対策工事を行う事は現実的でなく、ハード面では限界があります。 災害発生前の安全な避難を現実のものとするための、「災害を知る」、「兆候に気づく」、「安全に避難する」、そしてそのための「人のつながり」。 様々な知見を持つ土木学会としても、こういったに参加すべきではないでしょうか。 皆さんも災害時の発生を見据えて、こういったに参加してみませんか? そして、命を守るために「人のつながり」を持ちませんか?
最後に、これらは全て災害発生前に、安全に避難するためのものです。危険と感じた時は自らの命をまもるために「逃げる勇気」を持っていただきたいと思います。
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