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種をまく人

投稿者:土木広報センター 投稿日時:水, 2023-01-11 10:30

全国土木弁論大会2022「有馬優杯」 最優秀賞

「種をまく人」 白木 綾美

私の人生を決めた人がいる。その名は上野晃司。この名前を聞いて、ピンとくる⼈は少ないでしょう。

上野は、昭和3年東京⽣まれ。⽣きていれば今年で94歳。残念ながら、4年前に逝去。昭和27年清⽔建設に⼊社。在職中は、主にダム⼯事に従事した。その一つに群⾺県の園原ダムがある。上野は、湛⽔によって沈む木々を偲んで、こんな⽂を残している。「その⽇には、せめて紅葉を焚いて酒を暖め、その華やかな死を弔ってやりたいと思う」。強⾯の中にロマンチックな⼼がのぞく。

私は⼤学時代、「全国⼟⽊系⼥⼦学⽣の会」初代会⻑を務めた。⼟⽊を学ぶ⼥⼦学⽣のネットワークを作ろうと始めたものだ。その活動の中で、上野は⽇本⼟⽊⼯業協会の広報担当として協⼒をしてくれた。第⼆回総会では、パネラーとして登壇。⼥⼦学⽣に対し、⼟⽊は素晴らしい世界だが、夢を描き過ぎるとギャップがあるだろう。しかし、それに屈せず活躍してほしい、とエールを送った。35年前と言えば、⼟⽊離れが懸念され、⼤学では⼟⽊改名論まで飛び出した。「⼟⽊」の⾔葉は、中国の古典哲学書「淮南⼦」の「築⼟構⽊」から来ている。⼟⽊の由来を上野に教えられ、建設業界で働くのであれば、この⼈の元で働きたい。そう思い、私は清⽔建設に入社した。上野と出会ったことで、私の⼈⽣は決まった。

研修の時のこと。

「おまけのようについている⼩指でも、なければ上手く逆立ちもできない。体に不必要な部位はないんだよ」と話された。私は、目立たなくても、なければ困る⼩指の存在になろうと思った。「副社⻑、私は⼩指になっていますかね?」「そりゃ君、なってもらわないと

困るよ」と、会話が聞こえてきそうだ。全ての出会いに導かれ、今の私がある。

ところが忘れもしない平成5年。上野は、ゼネコン汚職事件により起訴された。私の落胆は大きかった。まだ2年しか⼀緒に働いていないのに。上野にしてみれば汚名だが、これも含めて、私は語る必要がある。

上野が副社⻑を退いた後、何度か飲みに行った。数⼈でたわいもない話をする。仕事や⼟⽊の事もたくさん語り合ったと思う。しかし思い出すのは、酒にまつわることばかり。

「之を知る者は、之を好む者に如かず。之を好む者は、之を楽しむ者に如かず」。これは上野が語った論語の1つだ。⼟⽊を知って欲しい、そして好きになって欲しい。更に楽しんで欲しい。ものを作る楽しさ、仲間と集う楽しさ、それを伝える楽しさ。それぞれにあった楽しさを感じて欲しい。それが出来るのが、土⽊の魅⼒だと思いませんか。

⼒⼠の土俵入りのように両⼿を広げ、「千歳棟、万歳棟、永々棟」。千年万年、いや永遠に繁栄しますように。これは上野の「棟締め三本」である。勿体ないが、あまり知られていない。

これからは、技術伝承だけでなく、⼟⽊史、⽂化、そして⼟⽊のこころも伝えていこうではありませんか。

いま、私は収穫期を迎えている。⾼校三年で良き⼟壌に蒔かれた種に、沢⼭の穂が着いた。時には⼤雪に遭い、また⼟⾜で踏み荒らされたこともあった。けれど愛情たっぷりの⽔と太陽と栄養を与えられ実ることができた。そこから収穫した種を、次の世代に蒔くのが私の役⽬だ。ここにいる皆さんと⼀緒に、育てていきたい。

少し立ち止まって、後ろを振り返って下さい。

あなたにとっての上野が、いるかもしれません。偉⼈と称賛されている⼈だけが、偉人でしょうか。いや、私は誰もが偉⼈に成り得ると思っている。⾝近な⼈があなたの偉⼈であり、あるいは、あなたも誰かにとっての偉⼈かもしれない。殆どの⼈が知らない上野を、私は語りたい。語られざる者を、誰かが伝える必要がある。

こうして語り継がれることによって、永々と⼟⽊の種が蒔かれ、実ってゆく。私は、種を蒔く⼈になりたい。

(c)Japan Society of Civil Engineers